『ビリーブ 未来への大逆転』(On The Basis Of Sex)
監督 ミミ・レダー

 既に還暦も回った僕がまだ生まれてもいなかった'56年に、ハーバード大学の法科大学院に幼子を抱えた既婚女性として入学するばかりか、夫の精巣癌罹患のなかで首席を取り、同じハーバード大学の法科大学院の1年上の夫がニューヨークで就職したらコロンビア大学に移籍して首席卒業を果たした女性法曹がいたことを初めて知った。公民権運動盛んな'60年代にあっても、原題にいう“性に根ざした”不当さに対しては人権派も冷ややかで、'70年代を待つ必要があったようだけれども、「法廷は天候には左右されないが、時代の空気には左右される」との学生時分の教えを忘れることなく、見事な先例となる判決を引き出した小柄なルース・ベイダー・ギンズバーグ(フェリシティ・ジョーンズ)に感心した。

 言うなれば、先例を改め歴史的に意義ある判例を打ち立てる栄に浴することができると促す弁で、当初は歯牙にもかけていなかった判事たちをその気にさせたわけだが、実際の法廷がそのような形で運ばれたかどうかはともかく、法廷のなかが時代の空気とかなり温度差があるのは古今東西、変わらぬことなのだろう。'70年代という微妙さに納得感があった。

 そして、ルース以上の先進性と見識を発揮していた夫のマーティン(アーミー・ハマー)の人物像に驚かされた。映画の最後に登場したのは、おそらく現在のルース・ベイダー・ギンズバーグ自身なのだろうが、確かに小柄ながら凛とした威儀が備わっていて、現役の合衆国最高裁判事に相応しい貫禄だった。本作の夫の人物造形には、夫を先に見送っている妻ルースの意向が、かなり強く働いていたのではないかという気がする。

 映画を観てから、一週間ほど経った日刊紙に「86歳 米最高裁のスター」との見出しでかなり大きな記事が掲載されていた。それによると、非常に人気のある最高裁判事で、“ノトーリアスR・B・G”との仇名もあるほどだそうだ。また、5月に公開予定の『RBG 最強の85才』というドキュメンタリー映画もあるようだ。そちらでは、夫のマーティンがどのような捉えられ方をしているのか、大いに興味が湧いたが、果たして観る機会が得られるだろうか。
by ヤマ

'19. 3.30. TOHOシネマズ3



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