『フロントランナー』(The Front Runner)
監督 ジェイソン・ライトマン

 三十年前の米大統領選の先頭走者から脱落した候補ゲイリー・ハート(ヒュー・ジャックマン)が最後の演説で引用していた、合衆国の建国の父の一人とされるジェファーソンの言うような“米国民に分相応の大統領”がまさに選出されるに至ったとの作り手の時代認識が、本作を撮らせたのだろうと思わずにいられなかった。何がそのような状況をもたらしたのか、というわけだ。

 その点では、ゲイリーが大統領選から降りる決断をした理由に挙げていた、娘アンドレア(ケイトリン・ディーヴァー)にまでメディア・スクラムの攻勢が及ぶに至っての選択だという公式表明の裏に、ワシントン・ポスト紙のパーカー記者(ママドゥ・アティエ)が陣営に持参してきていた過去の別件の証拠写真があったことを確かに仄めかしつつも、政治家のそういった振る舞いというものがゲイリーに限らず頻繁にあった当時の状況を添えるばかりか、元CIA長官であるジョージ・ブッシュ共和党候補の陣営がそのキャリアを活かしてスキャンダル写真を入手しリークしたようにも取れる運びを見せていたところからは、民主党支持色の窺える作品だったような気がする。

 しかし、ゲイリー候補については、最初のパーカー記者の取材時に見せる対応などに表れていた魅力的な人物像のみを描くのではなく、むしろその独善性や逃げ腰をよく描き出していたように思う。そのうえで、政策論争よりも醜聞スクープに熱心なメディアへの批判を押し出しつつ、そればかりを前面に出すだけではない立ち位置に好感を抱いた。そして、パーカー記者が同僚女性記者に、なぜゲイリー候補に辛辣なのかと問い掛けたことへの明快な回答を作中で印象深く映し出してもいて、そのあたりのバランス感に非常にリライアブルなものを感じた。

 最後にクレジットされた、その後のゲイリー夫妻が離婚することなく現在も共に暮らしているとの付言についても、程よく手が足りていたように思う。ゲイリー・ハート夫人のリー(ヴェラ・ファーミガ)の存在がよく効いている。ゲイリー・ハートについては観る前には全く覚えがなかったが、観ているうちにそう言えばと思い当ることが甦ってきたものの、馴染みのない人物であることに変わりはない。最初のうちは当時の様相を少々掴みにくいところがあったけれども、アメリカでは周知の事々で、ポンと提示するだけで了解の得られることなのだろうから、致し方ないとも思った。

 そして、本作に描かれたゲイリーの人物像を以て、演じたヒュー・ジャックマンではなく、彼の演じたゲイリーへの投票について、もしその機会があったなら、支持票を入れるかどうか、観客女性に訊ねてみたい気になった。
by ヤマ

'19. 2. 1. TOHOシネマズ3



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