『若おかみは小学生!』
監督 高坂希太郎

 ポスターの絵柄からもタイトルからも、まるで食指の動いていない作品だったが、思わぬ秀作で、すっかり驚いてしまった。不慮の事故で両親を失い、自身も九死に一生を得た少女の物語で、“喪の作業”に必要なのは偲び愛しむことだけでは決してないことが、幽霊の姿が見えるようになった健気なおっこ(関織子)【声:小林星蘭】を通して、実に納得感のある形で描かれていて、大いに感銘を受けた。

 さらには、恨み憎しみ怒りに囚われてしまわずに“生きる標を得ること”の掛け替えのなさというものを、この不寛容の時代にあって見事に描出していることの、時代的価値にも心打たれた。霊に親しみ、過ぎてしまったことを水に流す靭さを尊崇する日本の美風を壊し、何かと言えば「訴えてやる!」と挑発し、金銭ネタに置き換えたがる風潮をもたらしたものが何であるかを思うと、改めてその罪深さを覚えずにいられない。

 フリーパスでもなければ、観ることのなかった映画だが、思わぬ儲けものだった。過日観た『僕のヒーローアカデミア』などのヒーローものが描く“力で守れるもの”などというものは、大概の場合、新たな破壊に他ならない。後継者のいなかった春の屋旅館を継ぐことで織子が守り、花の湯温泉では廃業旅館を出さないと奮闘することで街を守ろうとしていた秋好旅館の“ピンふり”こと秋野真月【声:水樹奈々】や、峰子ばあちゃん【声:一龍齋春水】の幼馴染“うり坊”たる誠【声:松田颯水】の見せていたような寄り添いこそが、本当の意味で“守るに値すること”だと思う。

 そしてまた、数百年の封印を解かれて現れた魔物だという鈴鬼【声:小桜エツコ】の呼び寄せた厄介な客のいずれもが、織子と春の屋にとって、とても重要な意味を持つ存在になっていく顛末に投影されている“生きることの意味”が実に美しかった。

 山口県に住む長男宅に赴いた際に孫たちから求められて書店に行ったら、児童書の一角に本作の原作20巻が表紙絵の見えるようにずらし重ねで並べられ、棚に立てかけられていた。20巻もあるとは思わず、また漫画が原作だとばかり思っていたので、重ねて驚いた。




推薦テクスト:「映画通信」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20181012
by ヤマ

'18. 9.30. TOHOシネマズ3



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

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