『素敵なダイナマイトスキャンダル』
監督 冨永昌敬

 かなりスリリングというか波乱万丈の人生を、妙に軽やかにダラダラと生きている男の姿に、呆れと羨望を抱きつつも、妙に物悲しい佇まいが心奥に溜まるような印象を残すのは、やはり笛子(三浦透子)の存在ゆえなのだろう。末井昭(柄本佑)が携わってきたエロ雑誌業界で消費して来た女性たちの象徴イメージなのか、実在する特定モデルがいるのか、どちらなのだろう。

 '68年に十代を迎えた僕は、雑誌「写真時代」も「パチンコ必勝ガイド」も同時代で知っているけれど、「NEW self」と「ウィークエンドスーパー」は知らない。サブカルチャーという言葉がまだ人口に膾炙するには至っていなかった'80年代に斯界を象徴する存在となった「写真時代」を僕は買ったことがないけれども、一冊くらいは今も自室にあったような気がしてちょっと探してみたが、見つからなかった。いま観直すといかなる感想が湧くのか興味があったのだが、叶わなかった。

 でも、'98年3月発行の別冊宝島370『官能本大全!』のなかで、広杉真という名前によるコラム「出版社の傾向と策」の分析①業界大手(P40)の冒頭にエロ本業界の講談社と小学館、といわれているのが、英知出版と白夜書房の両社である。とあるのを見つけた。そこには…王道の英知に対し、アバンギャルドなのが白夜書房だ。テレビCMでもお馴染み・末井昭が編集局長として現場を仕切るこの出版社は、いわばインパクト優先。『写真時代』なんて“時の本”になってたものだ。なるべく読者に“見せて”あげようと末井氏が編み出した「剃毛パイパン写真」は、すでにニッポンエログラビアの一典型だ。『BODYプレス』や、変態誌とまでいわれた『Billy』などを覚えている方も多いかも。と記されていた。まさに本作でも撮り上げられていた場面に重なる記述であり、なかなか面白かった。

 いちばん可笑しかったのは、モデルに履かせる下着の局部の布地をスタッフ一同で懸命にこそいで薄く透けさせている作業光景だった。そうだったのか、と初めて知った。また、いちばん実感の響いてきた場面は、エロ雑誌ながらも初めて自分のイラストがきちんと掲載された本を手に取って喜びに浸っている姿の場面だった。そして、近松さん(峯田和伸)の風情が、大学を卒業しないままに競馬新聞に就職した、文芸サークルの一年後輩に似通っていて、印象深かった。彼との付かず離れずの関係がどこかしら末井昭の人生のアンカーになっているような描かれ方だったのは、原作者自身にその思いがあるのだろう。エンドロールにも、荒木経惟らとともに、彼の名が協力者としてクレジットされていたように思う。
 
by ヤマ

'18. 6. 4. ウィークエンドキネマM



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