『ゲティ家の身代金』(All The Money In The World)
監督 リドリー・スコット

 ジャン・ポール・ゲティ(クリストファー・プラマー)という人は、余程の負けず嫌いというか、「してやられる」ことがどうにも我慢ならず、「してやりたい」男だったようだ。税金だろうが、孫の命のかかった身代金だろうが同じことで、言いなりに支払うことだけは何としても避けようとしていたように思う。その姿が余りに強烈で、いささか哀れなほどだった。そういう意味では、カネへの執着以上に、そちらのほうが印象深かったが、徹底してそのことに拘ったがゆえに、実人生においては、必ずしも勝者とは言えない孤独を抱えていたような描かれ方だった気がする。クリストファー・プラマー、流石の貫禄だった。

 その身代金の税控除の場面での「してやったり」への執念の突出と同時に地平を見失っている姿に、格の大小に差はあっても、いまの官邸に巣食っている連中というのは、きっとこの手のパーソナリティの輩なんだろうと妙な納得感のもたらされたことが、印象深かった。'73年と言えば半世紀近くも前の事件なのだが、妙にタイムリーな気がしてならなかった。

 また、ゲティには14人の孫がいたらしいことが台詞から窺えたが、ジャン・ポール・ゲティ三世(チャーリー・プラマー)以外、全く影が薄かったように思う。彼らは、一体どのような人生を過ごしたのだろう。離婚した嫁たるアビゲイル・ハリス(ミシェル・ウィリアムズ)がゲティの死後、なぜに彼の後継者として招かれることになったのか全く腑に落ちなかったが、亡きゲティに拮抗するだけのタフさを備えた人物は、確かに彼女のほかに一族のなかには見当たらなかったのかもしれない。

 それにしても、異様な大富豪家族たちだった。

 
by ヤマ

'18. 6. 9. TOHOシネマズ5



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>