『羊の木』
監督 吉田大八

 殺人事件を起こした前科者の社会復帰というデリケートな問題を扱って、さすがは吉田大八作品だと感心させられた。ある意味、良識派の顰蹙を買いそうなリスクをも取りつつ、綺麗事にはしない現実的な側面に踏み込み、そのうえで人間の善良さに対しても、綺麗事などと揶揄しないで両面併記的にきちんと描き、なかなかニュアンス豊かな造形を果たしていたように思う。

 僕が生まれ暮らしている高知を舞台にした映画『県庁おもてなし課』を想起させるような、錦戸亮の演じる市役所職員の月末一だけでは弱くなる部分を安藤玉恵の演じるクリーニング屋の女将で補い、敢えて通常は起こりがたい元殺人犯6人が居合わせる設定を少々強引に施したうえで、再犯1、非更生1、不安2、更生2という絶妙のバランスで配していたように思う。

 そして、挙動不審というものについて、元殺人犯というバイアスを掛けられるか否かで、許容と不審とが揺れ動いてきてしまう点では、観る側の視線をも問うてきている部分があって、なかなかのものだったような気がする。その意味で石田文(木村文乃)の配置は重要だと思う。実際のところ、映画のなかでは彼らが元殺人犯であることを知っている者がほとんどいないのだから、むしろ問われているのは観客であるのは明白と言うべきなのかもしれない。

 しかも、エンターテイメントの基本線は崩さずに、それをやってのけているところが立派で、同じ脚本だったとしても、作り手が異なれば、かようなニュアンスは宿らせ得なかったのではないかという気がした。そして、未読の原作漫画よりも映画化作品のほうがよくできているのではないかと感じた。

 月末一が、デイケア施設に勤める太田理江子(優香)と要介護の父親(北見敏之)という年の離れた二人が付き合うことに懸念と警戒を抱くのは、彼女が元殺人犯でなかったとしても同じなのだろうが、そこに元殺人犯ということが何ら作用していないとは到底思えないのだが、彼自身のなかではきっと「彼女が元殺人犯でなかったとしても…」との言葉が繰り返し湧いてきていたに違いない。

 その太田理江子を演じていた優香が、とてもいい女優になっていて感心した。あの役柄をあのようなキャラとして了解させるのはかなり難しい役どころだと思う。その他の配役が、キーマン宮腰を演じる松田龍平は言うまでもなく、誰も彼もがいかにも持ち味に相応しい役柄をきっちりこなしている感じだっただけに、余計に目を惹いた。




推薦テクスト:「映画通信」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1965463291&owner_id=1095496
 
by ヤマ

'18. 2.18. TOHOシネマズ9



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