『さすらいのレコード・コレクター』(Desperate Man Blues~Discovering The Roots Of American Music)['03]
監督 エドワード・ギラン

 もう15年も前の作品だから、もしかすると本作のジョー・バサードは既に他界しているのかもしれない。だとすれば、かのコレクションの行く末はどうなっているのだろう。先ずそんなことを思うようになったのは、自分の年がいってきたからなのだろうか。

 それにしても、葉巻を咥えて、彼が収集する'20~'30年代のアメリカン・ミュージックについて語るジョー・バサードの、まさに至高の“ゴキゲン顔”とも言うべき笑顔の素晴らしさに見惚れた。収集歴47年と語る経歴のなかでは恐らく抱えたことがあるに違いない屈託や慢心、野心を超越して到達したような天真爛漫が宿っていて、なかなか素敵だった。

 かなり顕著に天邪鬼の傾向がある僕には、高校一年の頃、周囲がロックだフォークだ、クラシックだと語りたがっていたがゆえに、としか今となれば理由が見当たらない形で、カントリーミュージックに肩入れしていた一時期がある。楽器店にバンジョーを見に行ったりしたこともあるのだけれども、本作に流れたアメリカン・ミュージックで覚えのあるものは皆無で、その名を知る者もわずかにカーター・ファミリーのみという御粗末さだった。それでも、趣味人が至り得る悦楽の境地の最高峰にあることはよく伝わってきた。

 生涯に渡って愛好することのできるものがあるというのは、やはり人生を豊かにしてくれるのだと思う。あまりに深入りすると、豊かさでは済まなくなって貧しかねないので怖気づいてくるのだが、そこを突き抜けるとまた格別の境地が拓けるのだろう。僕の愛好する映画というジャンルにもフィルムコレクターがいて、本作のジョー・バサードに匹敵するような人物もいるのだけれども、本物のマニアというのは、やはり凄いものだと改めて思った。

 
by ヤマ

'18. 7.18. 喫茶メフィストフェレス2Fシアター



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