『ワンダー 君は太陽』(Wonder)
監督 スティーヴン・チョボスキー

 デリカシーに富み、ユーモアに溢れ、ハートがあって、しかも品のいい、とても素敵な作品だ。何より、観ていて愉しく気持ちいいところが嬉しい。原題に相応しいワンダーに満ちた、実にワンダフルな映画だと思った。

 劇中に引用されていた映画『オズの魔法使い』のようにファンタジックなまでのオギー(ジェイコブ・トレンブレイ)十歳の冒険と成長を描き、三十年前に観た引用映画『ダーティ・ダンシング』のような思わぬ晴れ舞台を見せ、五年前に音楽劇で観た『わが町』を作中で演じていた姉ヴィア(イザベラ・ヴィドヴィッチ)十五歳への目配せに抜かりのない作り手に、大いに感心した。

 理科が得意で宇宙に憧れるオギーが姉の親友ミランダ(ダニエル・ローズ・ラッセル)からプレゼントされた愛用の宇宙帽がとても効いていて、その宇宙帽に父親ネート(オーウェン・ウィルソン)の施していた計らいが最後に顔を出す形で彼を引き立てていた部分も含め、本当によくできていたように思う。十歳になって初めて学校に足を踏み入れるのは、確かに未知なる宇宙に降り立つがごとき大冒険であり、五年生一年間を過ごして彼が得たものを思えば、オギーが一番の感謝の念を母イザベル(ジュリア・ロバーツ)に抱くのは実に真っ当なことなのだが、強い意志と思い入れで自己表現を貫く彼女の生き方を支えているのが夫の鷹揚でユーモラスな構えであるのは、娘ヴィアの晴れ舞台で自分が置き忘れてきた眼鏡の代わりに夫の眼鏡を横取りしたまま観入ってしまう妻を咎めることなく見守っていた姿に端的に現れていたように思う。

 ある種の独善性を伴った視野狭窄というものがイザベルにあればこそのヴィアの葛藤であり、グランマ・ロスだったりしている部分がきちんと描かれている人物造形と人間観察の確かさが見事で、お涙頂戴の美談ものとは一線を画した奥行きと深みがあったような気がする。

 オギーのみならず、ジュリアン(ブライス・ガイザー)であれ、ジャック・ウィル(ノア・ジュプ)であれ、あの年頃の子供においては、なかんずく母親の影響というものが大きいことが印象づけられる描き方がされていて、ベクトルはそれぞれ異なっていても三人の母親には、どこか通じるところがあるように見受けられた点が、なかなか興味深かった。

 サマー(ミリー・デイヴィス)のくれた“ゴースト・マスク”のヒントだけできちんと判るジャック・ウィルなれば、つい調子を合わせて自分の発してしまった言葉への引っ掛かりないしは自己嫌悪を間違いなく抱いていたのだろう。ミランダがヴィアと距離を置かずにいられなかった後ろめたさについても、同様のことが言えるような気がする。それと同時に、家族では代償できない掛け替えのないものを与えてくれる存在であることをジャックもミランダも体現していたように思う。人の集まり即ち社会のなかに身を置くことの心許なさと確かさの両面を鮮やかに写し取っていた気がする。奇跡の物語でありながら、驚くほどに身近だった。実に大したものだ。




推薦テクスト:「映画通信」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1967673084&owner_id=1095496
 
by ヤマ

'18. 7. 8. TOHOシネマズ3



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