『大統領の陰謀』(All The President's Men)['76]
監督 アラン・J・パクラ

 先ごろペンタゴン・ペーパーズを観たばかりという好タイミングでの放映だったので、これ幸いと録画してあった作品だ。公開当時に観たきりだったのだが、今観ると、若いウッドワード記者(ロバート・レッドフォード)やバーンスタイン記者(ダスティン・ホフマン)よりも、ブラッドリー編集主幹(ジェイソン・ロバーズ)や“ディープ・スロート”(ハル・ホルブルック)のほうが印象深く感じられた。

 いかにも“五里霧中”を思わせる画面が暫く続いた後のタイプの印字によって紙だと判るオープニングショットが意味深長だ。ジャーナリストの記事というのは、かくあってほしいものだ。もはやタイプライターなど姿を消している今でも“メモ”は取材で生きているのだろうかなどと思いつつ、今だとデーターベースがあって検索システムがあるけれども、当時は如何なる分野であれ、紙をめくり目を皿にするのが資料チェックだったと改めて思った。取材効率で言えば比較にならない進歩を遂げているのに、ジャーナリズムという点では、むしろ後退しているような気がしてならない。

 公開当時に観たときの印象では、ディープ・スロートは実在する人物ではないのではないかと思っていた覚えがあるが、今世紀になって人物が特定され、公にもなっているので、自分の見え方が少し違ってきているようにも感じた。『ペンタゴン・ペーパーズ』の主役だった社主キャサリン・グラハムの印象がまるでなかったのだけれども、今回再見すると、ニクソン再選委員会委員長である前司法長官ジョン・ミッチェルの「(そんな記事を掲載したら)グラハムのおっぱいを絞り上げてやる」という電話口のなかで登場していた。また、違法不当な選挙工作を自ら手掛けたことを得意気に酔った勢いで女性記者に喋ってしまったと思しき政府関係者が、それを記事にされること以上に、喋った場所が女性記者宅であったことのほうを隠したがっていた姿に、先ごろ辞任したばかりの日本の財務省次官の件を想起させられた。

 また、今回再見して“All The President's Men”という原題に大いにインパクトを受けた。いま政府がとんでもないことになっている日本で長らく流布していた「アベ一強」などという言葉を想起させる部分があったからなのかもしれない。ニクソンがアメリカ大統領史に遺したような汚名を現首相が刻むことになるような気がしてならない。

 
by ヤマ

'18. 4.26. BSプレミアム録画



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