『家族はつらいよ2』
監督 山田洋次

 本作の撮影を担っている、高校の同窓生の近森眞史が、昨秋、帰高して一席囲んだ際に、次の『家族はつらいよ2』ではカメラが主張しない撮り方で臨んでみたと話していて、結構うまくいったと思っていると言っていたから、そのあたりを大いに楽しみにしていた作品だ。覚束ない記憶ながら、遠い昔、僕が大学の文芸サークルで創作なぞしていた時分に、司馬遼太郎が目指しているのは“空気のような文体”だと語っていたという話を仄聞したことがあって、そのことを思い出して彼に話したような気がする。

 しかし、本作は、のっけから鼻毛を抜く平田周造(橋爪功)のアップで始まり、自動車の鍵のクローズアップや丸田吟平(小林稔侍)のぼろアパートの卓袱台の上の曼珠沙華、平田史枝(夏川結衣)の物干し場面のアングルとか、前作家族はつらいよのエンドロールを彷彿させる平田家の映し出し方からオーロラに展開するエンディングなど、僕には大いにカメラが主張している作品のように思えた。ただ、ほぼ全くと言っていいほど引きの画面が現れず、いわゆる情景描写としての映像で心象や情緒を印象づけるような場面がなくて、常に人物やモノを追うことに徹していたから、彼の弁は、そのことを指していたのかもしれないとも思った。

 それにしても、慶応ボーイの孫の乗るベンツで、北欧でのオーロラ見物旅行に連れ立つ友人の平田富子(吉行和子)を迎えに来る老婦人(八千草薫かと思ったが、クレジットされなかった気がする)まではいかなくても、結構ゆとりのありそうな平田家の一戸建て暮らしとの地続きに、次男庄太(妻夫木聡)と結婚した憲子(蒼井優)の母親が独り働きながら老母を介護している狭苦しい古びたマンション暮らしがあり、七十歳を過ぎた周造の高校サッカー部のチームメイト吟平が日がな一日路上に立って工事現場の交通整理員をしながら独居している一間きりの木造住宅暮らしがあるわけだ。前作同様、まったく困ったことだらけの周造なのだが、行方知れずだった友と再会して歓待しつつ、その境遇に対し「この国は…」と洩らす想いに、現役最高齢の邦画監督とも言うべき山田洋次の真情が窺えたような気がする。

 そして、役所の福祉課の手配した火葬でもって笑いを取りに来ることがいささかも不謹慎に映らず、ユーモラスなお見送りに仕立て上げることができるのもまた、八十代半ばという現役最高齢なればこその技のように思えた。あの再会と痛飲を実際のところ、“丸田クン”がどのように受け止めているのだろうかと計り知れない胸中を察して余りあったが、その心情が吐露された場面は独白であったから、掛値のないものだったはずだ。さすれば、彼にとっては、周造の妻富子が「いつ死んでもいい」と言っていた“オーロラを目にすること”にも匹敵するものだったということなのだろう。“ぎんなん”があだ名だったらしい吟平を演じた小林稔侍が素晴らしかった。

 
by ヤマ

'17. 5.23. TOHOシネマズ8



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