『飯舘村の母ちゃんたち 土とともに』
監督 古居みずえ

 チラシの裏面に「あれから5年」と記された避難民女性の5年間を捉えたドキュメンタリー映画を観ながら、もとより人は衣食住を欠いては生きていけないけれども、衣食住を得るだけでは生きていけないのだと改めて強く思った。

 菅野榮子さんが言っていたように、信州小海の仮設住宅暮らしのなかで彼女が農作業を行うことが得られていなければ、笑うこともできなかったかもしれない。菅野芳子さんは幼い時分から隣同士で生まれ育った榮子さんが傍に居なければ、笑うことはできなかったに違いない。そんなことを思った。

 チラシの表面に「笑ってねぇど、やってらんねぇ」と記されていたように、彼女たちはよく笑うのだが、榮子さんが参議院会館だったかで訴えていた場面の静かで威厳さえ湛えた佇まいと物言いに強い感銘を受けた。2年と言われた“計画”避難が1年延びて3年になり、今また無責任なまでの無計画さでまた1年延ばされるような対応に向って異議申し立てをする言葉の直球の正論ぶりを観ていると、世界に冠たるG7の一員たる国の首相でありながら、少し厳しいことを言われると気色ばんで声高になってまくしたてたり、内閣総理大臣の職にありながら、事もあろうに「ニッキョーソ、ニッキョーソ」などという幼児的な野次を小声で口にする人物との人間力の違いに想い及ばずにはいられなかった。

 かような状況に今なおあって、原発稼働を再開させるばかりか、外国に売り込み、旧来からの大手電力会社のための新電力事業つぶしとしか思えないようなスキーム変更を臆面もなくやってのけるような政府運営が、何故できるのだろうか。現職官僚の覆面作家によるとの触れ込みの小説原発ホワイトアウトに描かれていたような周到な取り込みがあるにしても、メルトダウン事故が現実のものとなったなかで罷り通ってしまっていることには、どうにも許容しがたいものがある。

 
by ヤマ

'17. 2.25. 美術館ホール



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