『スーパーローカルヒーロー』
監督 田中トシノリ

 本作の捉えた尾道の信恵勝彦さんが、日本のインディーズ音楽で「れいこう堂」なら、高知の田辺浩三さんは、ジャズで「一心堂」だったなぁと、ミュージシャン招聘やらイベント活動を通じた自己表現というか人々を巻きこんだライフスタイルにおいて、相通じる部分と似て非なるものを感じる部分とがあって、なかなか興味深い作品だった。

 高知の田辺さんもよく走り回っている人で、通常の人の物差しでは測れないところがある。古くは窪川シネマクラブ、高知シネマクラブとして映画監督や俳優を招いた自主上映会を行い、現在も小夏の映画会の名で上映活動を続けているのだが、初監督作にして遺作となった『ニート・オブ・ザ・デッド』の公開を待たずして亡くなった脚本家の南木顕生さんが生前、いつか映画にしたいような桁外れに面白い人だと言っていたことを思い出させてくれるような作品で、田中監督の関心もそういうところにあった気がする。

 ライブの入場料について、一人だと2~3千円とかの設定なのに、家族で聴きに来たら家族全員で千円になるようにしていて驚いたと証言していたミュージシャンがいたが、そういう破格なことをする一方でミュージシャンへのギャランティは値切ることなく、むしろ手厚く出してくれていたように思うとの話が印象的だった。

 登場したミュージシャンのうち僕が知っていたのは、ライブ備忘録にも綴ったことのあるアン・サリーだけだったが、映画作品としては、インディーズ音楽の支援活動者というよりも、福島原発事故に係る自主避難者への支援活動者の側面が強く表れている気がした。自主避難者との接点や反原発活動という点でも、信恵さんと田辺さんには通じるところがある。経済的には決して豊かそうには見えない暮らしぶりながら、とても豊かで愉快そうな人生を過ごしているように見えるところも通じている気がした。でも、パーソナリティは随分と違うように感じられるところが、妙に面白かった。

 どこか不思議な人たちの不思議なコミュニケーション感というものがうまく掬い取られている映画だったような気がする。

by ヤマ

'16. 3.13. 喫茶メフィストフェレス2Fシアター



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>