『グッド・ストライプス』
監督 岨手由貴子


 チラシに「わたしの人生には、たいしたドラマなんて起こらないはずだった。」と記された惹句が微妙に効いてくるような、普通の人のありふれた人生のなかにあるドラマティックをうまく掬い上げたような観後感の残る作品だった。

 考えてみれば、真生(中島歩)が女医とカメラマンを両親に持つ離婚家庭の息子だったり、緑(菊池亜希子)が田舎でヤンキーの真似事をしていた上京娘だったりすることは、そうありふれているとも言えない気がするが、かといって決して特異でもない微妙さだと思った。

 それを“ごく普通の人のありふれた人生”のように感じさせてくれた最大の部分は、何と言っても真生と緑の現実感溢れる人物造形だった気がする。とりわけ、幼い頃から何か期待すると必ず違うことが起こって、期待する感覚を失ったと零していた真生を演じていた中島歩が印象深かった。

 大学同期生の結婚式で真生から「自分も結婚することになった」と告げられたことに触発されたのか、元彼女っぽい女性のほうから誘われる形で関係を持った性行為の最中に、ちょっと中折か何かの異変を感じたらしき彼女から問われて「なんか動物みたいだと思って…」と真生が呟き、枕を投げつけられている場面を観ながら、この場面にこの台詞を構えられるのは、やはり女性の作り手だろうなと妙に感心した。

 ずるずると付き合ってきて倦怠していたカップルが、妊娠五か月での受胎発覚を機に結婚へと向かうことで、二者関係での付き合いでしかなかったものが激変する。そのことで、前述の元彼女との顛末も含め、短時間の間に新たな経験を重ね、若い二人が変化していっているさまに納得感と微笑ましさがあり、思いのほか好もしい作品になっていたように思う。

 オリジナル作品として脚本・監督を担った岨手由貴子の次作が楽しみだ。ラブ&ピースのピカドンほどではないが、亀のカシオペアの活躍が似たような持ち味で使われていたことが興味深く、作られたのは本作のほうが先のようだが、ちょっと亀が流行っているのかなどとも思った。ゆっくりと好い夫婦になっていけばいい、ということなのかもしれない。
by ヤマ

'15.11.23. ギャラリーgraffiti



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