『幕が上がる』
監督 本広克行


 さすがに「ももクロ」が「ももいろクローバー」の略称だということは知っていたが、メンバーの名前どころか顔も人数も知らないくらいに関心がなく、どうせ人気アイドルを使ってエンタメに長けた本広監督が如才なく撮った映画だろうとスルーを決め込んでいた。そしたら、演劇に関心の強い知り合いの幾人もが早々に観に行っている様子だったので、僕も観ることにした作品だ。

 だが、高橋さおり(百田夏菜子)が演劇部の新たな部長に決まるまでの最初の10分ぐらいの間に既にして、うんざり感のほうが支配的になってきていた。エンタメ作品をこなれた流麗さで運ぶ本広監督が妙にリアリズムを志向したがためのごつごつとした感じが、キャストの演技力の未熟さも手伝って、どうにも落ち着かない気分をもたらしてきた。

 おそらく桐島、部活やめるってよの線を狙っていたのだろうが、ものすごくリアリティのある感じで、全くリアリティのなさそうな話を巧みに造形していた『桐島、部活やめるってよ』とは実に対照的に、かなりリアリティのありそうな話が、まるでリアルには造形されてなくて却って触発されるものが多かったような不思議な感じだった(笑)。

 映画日誌にも綴ったように『桐島、部活やめるってよ』がとりわけ高校生たちの会話における言葉の省略や詰まり方、間合いには驚くばかりのリアリティがあったのと同じようなところを本作が志向していたことや、原作者である平田オリザの芝居東京ノートを観たときに普通ならされないはずの会話がひどく自然に繰り広げられている感じが面白く、さしたる意味もなく重ねられている会話の端々に含蓄や触発が宿っていることに大いに感心させられたような部分を本作に込めようとしていたことが、ある種のちぐはぐを生んだのかもしれない。

 ももクロの5人(だと思う)が5人とも妙に野暮ったく映るなか、一人、役者としての格の違いを見せつけていた黒木華が際立ってしまい、妙に浮いた感じを与えていたことも落ち着きの悪さに繋がった気がする。お話自体は王道の物語で悪くないのだから、妙な野心を以て臨まなければ、もっと楽しい映画になっていたような気がする。改めて『桐島、部活やめるってよ』のキャスティングの素晴らしさに感心させられた。

 とはいえ、十代のあの時期に、何か憑かれたように熱を入れた物事があって、そこから様々な貴重な学びを得ることの掛け替えのなさや眩しさというものは、少なからず伝わってきたように思う。そのような十代を過ごした者は、やはり幸いなのだろう。自分にも何かあるだろうかと振り返ってみると、それは成績順位を二桁から三桁へちょうど100番下げたまま一年間続けていた高二のときの生徒会活動だったのかもしれないなどと思った。

 前期の副会長時分に二十数年ぶりとなる生徒会費の値上げを断行した際、公約とした一般生徒への還元策を実施するために、後期は新たに設けた特命の小委員会に専念することにした。前期での生徒会費の値上げに係る手続きが実に大変で、生徒委員会での可決を得ることに非常に難儀し、生徒委員会で一度は否決された後、中一から高三まで各クラスの生徒委員に根回しと工作を加えたうえで再提案をして、なんとか通したのだが、最終的には生徒総会に懸けて諮る必要があったような記憶がある。この値上げによって部活予算の全体枠が大幅に増加し、僕の提起した還元策についても、当時の校内新聞に「スポーツデー小委員会ら関係者の飛ばした“クリーンヒット”と評判は高い」とあるように、それなりの成果を得て、大いに面白かった覚えがある。さおりたちと違って、まさかの全国大会出場を成し遂げたほどのことではないかもしれないが、十代のあの時期ならではの高揚と吸収力は、同じように持っていた気がする。

 もっとも、本作において最も人生が変わってしまった人物ということになれば、さおりたち演劇部員に多大なる影響を与えつつ、自身が彼らから刺激を受けていた、かつて“学生演劇の女王”と呼ばれながら演劇を断念し、一介の美術教師になっていた吉岡先生(黒木華)こそが当て嵌まるような気がする。そういう点からすれば、十代のあの時期に限った話ではないということになるのだが、吉岡先生とて、十代のあの時期に、何かに憑かれたように演劇に熱を入れていたからこそ、教え子となる十代の演劇部員たちからの刺激によって人生を変える決断をしたのだろう。さすれば、十代のあの時期が特別な意味を持っていたことには変わりないわけだとも思い直した。




推薦テクスト:「映画感想*観ているうちが花なのよやめたらそれまでよ」より
https://kutsushitaeiga.wordpress.com/2015/02/28/makuga_agaru/
by ヤマ

'15. 3. 5. TOHOシネマズ7



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