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『いのちのコール』 | |||||
監督 蛯原やすゆき | |||||
大阪の友人から誘われ、四十路で急逝した脚本家、南木顕生の遺した映画を、故人を共に知る友人同士で関西公開初日の土曜に観て偲ぼうということになり、出向いた。生前、彼が2012年10月16日の日記に「低予算であることをまったく感じさせないエンターテーメントになってました。ひと安心です。…若い監督の劇場用第一作だけど、丁寧でありながらツボを心得ている的確なカット割りに感心した。そしてあらためて俳優さんたちの力量に感服。」と記し、「来年初夏公開予定」としていたのに、ちょうど一年遅れて東京公開が今年の6月になっていた作品だ。撮影アップ前日との2012年08月01日02時の日記では、みながホンを褒めてくれて、「ライター冥利に尽きる」と、とても素直に喜んでいた。初号試写を観たという2013年02月26日の日記によれば、自作として満足のいくものだったようだ。 僕自身は、彼の作品を二本しか観ておらず、『たまあそび』['96]には惹かれなかったものの、映画日誌も綴っている『タブー 赫いためいき』['97]は、思いのほか観応えのある作品だった覚えがある。本作は、公開時には作品タイトルが『ミセス・インガを知っていますか』から『いのちのコール』に変わり、本来の題名はサブタイトルになっていたが、画面にクレジットされていたのは、オリジナル脚本による『ミセス・インガを知っていますか』のみだった。 mixiでは、忌憚なく毒を恐れず鋭い舌鋒を見せていた彼らしく、ただの啓発ヒューマンドラマにはしたくないとの思いが透けて見えたのが、僕にとっては最も感慨深いところだった。オープニングに登場した赤い風船と、大和田伸也の演じる大凧保存会の会長の垂れる薀蓄とが、繰り返し登場する形で強調されていたことが、とりわけ心に残った。 言うまでもなく赤い風船は、アルベール・ラモリスの『赤い風船』['56]にほかならないと思う。僕は『ホウ・シャオシェンの レッド・バルーン』['07]は観ていないが、オリジナルの『赤い風船』が、シネフィルの間では、特別な作品であることは知らないわけではない。かの作品では、人の手を離れ、飛んでいく風船の姿に“旅立ち”のイメージが込められているように映っていると思われるのだが、それは多分にフランス的イメージであって、日本的にはあれは「糸の切れた凧」の図ではないかという視点を訴えているような気がした。シネフィル嫌いのシネフィルそのものだったように思える故人の真骨頂を感じたわけだ。だから、僕にとって本作は、子宮頸がんの映画ではなくて、風船と凧の映画だった。 クランクイン直前に自身が子宮頸がんで亡くなったとの企画者の名前を継いでいるDJマユミを演じた室井滋の巧さが際立っている作品だった。主演は、子宮頸がんを発症する河原たまき(インガ)を演じた安田美沙子よりも、むしろ彼女のほうだとの印象が残るほどの存在感と説得力だったように思う。 瀕死の状態にある妻の元へと車を急がせる夫 高志(山口賢貴)の番組でのオンエア・コメントや番組プロデューサーの青山(国広富之)のキャラクター造形に少々取って付けたものを感じたが、プレシャスならぬプロミスとなるバンドメンバーの使い方や肝心の子宮頸がんに係る情報の盛り込み方には、手堅いものを感じた。子宮と卵巣ばかりか膣の三分の一に加え、いくつものリンパ節を根こそぎ取り去る全摘手術をしてもなお、髪が抜け落ちるほどの抗がん剤を打って苦しい治療を重ねるものなのかと驚き、摘出後のつらいリハビリや後遺症の強烈さに圧倒された。 それにしても、当夜のメンバーが挙って零していた「ちゃんとした善良な話のホンが書けるんやなぁ、意外と。」という声が妙に嬉しくも寂しくなるような、余りにも早過ぎる逝去を残念に思う。 推薦テクスト:「映画通信」より http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1931511552&owner_id=1095496 推薦テクスト:「北京波さんmixi」より http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1931560465&owner_id=1144031 推薦テクスト:「とめの気ままなお部屋」より http://blog.goo.ne.jp/tome-pko/e/19f25062f9e07c548a01a4125d65ed66 推薦テクスト: 「恵介の映画あれこれ」より http://blogs.yahoo.co.jp/kj3996912/35685909.html | |||||
by ヤマ '14. 8.23. 第七藝術劇場 | |||||
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