『パーマネント野ばら』
監督 吉田大八

 八ヶ月前に観た西原理恵子原作映画『女の子ものがたり』は、僕が男だからか、原作者が地元高知の出身なのに、愛媛ナンバーの車で伊予バスが走る田舎を舞台にし、高知弁でも愛媛弁でもない関西弁で喋っていたからか、あるいは、ビンボーとされているのに貧乏臭さが微塵もないからか、はたまた、きぃちゃんの位牌と思しきものの戒名に“美沙”の文字が見えたりするからか、それとも、人とはどこか違うものを持っているが故に「人とは違う人生」を歩むと目された菜都美(大後寿々花)ではない、きぃちゃん(波瑠)とみさちゃん(高山侑子)が「人とは違わない人生」として揃いも揃ってDV被害に遭っていたりしたからか、または、財前静生をゼンザイ汁粉と呼ぶギャグに脱力したからか、妙に違和感ばかりが終始付きまとっている作品だった。

 それで言えば、本作も同じモチーフの作品ながら、断然こちらのほうが良かった。とはいえ、かくも“女たちの世界”を強固に構築されると、男の僕には妙に疎外感を覚えずにいられないところは拭えない。
 だが、かつて映画が明らかに男の娯楽であった頃、当たり前のように繰り出されていた“男の世界”を描いた作品が、いつの頃からか、すっかり少なくなってはいたものの、男性客をまるで視野に置かずに、あたかも疎外したかのように“女の世界”を謳いあげている作品も意外と少なかったことに気づかされるようなところもあって、なかなか興味深かった。

 そういう趣向が際立つ映画作品として印象づけられている外国映画の筆頭作は、僕のなかでは二年前に観たセックス・アンド・ザ・シティなのだが、近く公開される『2』は予告編を観ただけで食傷してしまい、観る気が失せたのと違い、本作には疎外感を覚えつつも魅せられるところが随分とあった。
 西原理恵子原作の『女の子ものがたり』と『パーマネント野ばら』も、男性客を疎外しているように見えるという意味で、共に『セックス・アンド・ザ・シティ』と通じるところのある“女性のバディムービー”なのだが、『女の子ものがたり』と違って、男の僕にも味わい深く響いてくるところがあったように思う。『女の子ものがたり』では、きぃちゃんから友情に溢れた「ここは私達の町だから、あんたは出て行きなさいよ」との絶交宣言によって送り出され、“少しまともな人間はみんな出て行くのが普通という土地”を離れ、抜け出し得た菜都美が、故郷の幼馴染に贈る感謝と哀悼を描いているように思えたから、どこかいい気なもんだという思いが抜けきらなかったが、本作では、ナオコ(菅野美穂)の台詞にもある“少しまともな人間はみんな出て行くのが普通という土地”に子連れ離婚で舞い戻ってきた彼女と二人の幼馴染の対照が『女の子ものがたり』よりも遥かにイーヴンだったことが、大きく作用していたような気がする。

 決して要領がいいほうではないけれども、三人の幼馴染のなかでは最も理性的で現実的な生活感覚を備えているように見えながら、実は最も現実に根を張って生きることができずに“さびしさ”に囚われ居場所を見つけられないでいるのが彼女であって、ミっちゃん(小池栄子)もトモちゃん(池脇千鶴)も、不幸な境遇から抜け出せずに甘んじているように見えても、居場所を持てないさびしさに囚われているようには見えなかった。その対照によって、生きる力というのは、幸不幸を超えて現実に根を張ることの出来る逞しさであることをしみじみ感じさせてくれる趣を持った作品だったように思う。
 そのうえで、さびしさに囚われ現実逃避に陥っているナオコも、要介護の認知症の父親(本田博太郎)を抱え、浮気者のヒモのような亭主に引導を渡して「泣いたら金が逃げていきます」と逞しく生きる場末のフィリピンパブのオーナーママのミっちゃんも、共にその母親世代の女たちには敵わないと「お母ちゃんのようにはなれん」と呟くのだが、まだ幼かったミっちゃん自身の記憶としては朧だったはずの「父ちゃんが一番輝いていたとき」を彼女に語り伝えた亡き母親や、ナオコを女手一つで育て上げ、町中のオバチャンにパンチパーマをかける一方で、町外れのバタ屋の老夫婦の伸び放題になっている髪を無償で刈りにいく咥え煙草の母マサコ(夏木マリ)に娘たち世代が全く及んでいないことを描き出していたあたりに味わいがあったように思う。

 『女の子ものがたり』と同じ三人の幼馴染を本作のほうで演じていた菅野美穂、小池栄子、池脇千鶴がそれぞれ持ち味の個性を活かしていて抜群に良かった。いずれ劣らぬ競演ながら、なかでも一際目を惹いたのは小池栄子だった。ミっちゃんなら、中高年に至ろうとも“はたきこみ”など掛けるまでもなく、男に不自由はしないことだろう。
 また、地元の劇団OOKで活動している柴田恵介くんが、おばちゃんたちのバス旅行のツァコンの役で出てきたのには驚いたが、なかなかの好演ぶりで妙に嬉しかった。出過ぎも浮き上がりもしていない弾けぶりのバランスが良くて、素人臭さが全くなかったことに感心した。ほかにも“豆電球”の名で地元で活動しているシンガーソングライターの小松さんの顔に気づいたけれど、演劇祭KOCHIで馴染みの劇団、屋根裏舞台の安西寅くんの名前をエンドロールで見つけたものの、どこに出てきていたのか判らなかったのが残念だった。



推薦テクスト:「映画通信」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20100530
推薦 テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/jouei01/1005_2.html
推薦テクスト:「超兄貴ざんすさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1504790258&owner_id=3722815
推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より
http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-623f.html
by ヤマ

'10. 6. 1. TOHOシネマズ6



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