『プルミエール 私たちの出産』(Le Premier Cri)
監督 ジル・ド・メストル


 ヒトの妊娠・出産というものが、動物世界では考えられないくらい、同じ種にありながらもさまざまな文化・環境によって実に違っていることを目の当たりにして大いに驚いた。
 イルカの発する超音波を癒しとして受けながら行っていたメキシコでの水中出産、母親から母体に祈りのペイントを受けて行っていたアマゾン。砂漠で夫と寝るテントから出て砂地を囲って行っていたニジェール。「一日120人の新生児がこの病院で生まれる」と話しながら産科医が次々と妊婦の横たわるベッドを渡り歩いていたベトナム。貧しさも手伝って「病院なんぞ帝王切開で医者が儲けようとするだけ」と語る母親の助産によって自宅で行っていたインド。一夫多妻で力のある夫の100人目の子が女であることを求められていたタンザニア。自分自身もここで生まれたと語る妊婦が夫のみならず三歳の娘を仲間の妊婦とともに立ち会わせて娘に臍帯を切らせていた日本。男女幾人もの仲間に全裸の臨月姿を絵に描いてもらい自宅の部屋のビニールプールに湯を張って助産婦の介添えもなく夫と友人たちに見守られながらの出産を行っていたアメリカ。産科の女医から胎内で大きくなりすぎた新生児の帝王切開の必要を告げられていたシベリア。臨月までダンサーの仕事を続けたうえで病院にて夫の立会いのもとに出産を果たしていたフランス。10か国11人の出産と10の産声[Le Premier Cri]を観ながら、赤ん坊のファースト・クライが常に母親の涙とともに始まっていることへの感動よりも、僕はいささか疲労と消耗のほうを強く感じていた。そして、出産というのは大変なことだと改めて思った。続けざまとはいえ、観ているだけでもこの体たらくなのだから、わが身で生んでしまう女性というのは全く以って偉大というほかない。しかも、この一大事を繰り返し、何人もの子を生むことができるのだから、恐れ入る。僕には三人の子供がいるけれども、一度も出産には立ち会ったことがなく、分娩のことは本当に何も知らないのだが、さまざまな出産を目撃して、女性の靭さというものの根源を垣間見たような気がした。
 分娩の体位一つとっても、仰向けに寝て膝を立てて脚を広げるパターン(病院出産のベトナム、シベリア、フランスおよびニジェール、タンザニア、インド)だけではなく、うつ伏せに四つん這いになって腰を持ち上げていたり(日本)、立っていたり(アマゾン)、水中で後ろから膝に手を入れて抱えられていたり(メキシコ)、ビニールプールに入っての凭れ座り(アメリカ)と、実にさまざま。それでいながら共通しているのは、女性の圧倒的な強靭さと偉大さだったように思う。それらを前にしては、もはや病院出産と自由出産のいずれが是かといったことは、僕にとっては大きくは迫ってこなかった。
 だが、そういった意味合いからすれば、声高にフリーバース(自由出産)を訴えずに、自宅出産と病院出産の死亡率が比較にならないとのベトナムの産科医の言葉を添えたり、画面に現れた唯一の死産が病院出産ではなかったりしていたものの、確かメキシコ事例での発言だった気のする「本来自然の営みである出産を病院と医療介入が危険なものにした」という言葉があったように、基本的には病院での医療介入による出産を見直そうという立場からの作品だったように思う。  映画のなかの病院で生まれる新生児の全てが血糊とともに生まれ出ていたのに対して、自然分娩の新生児のほぼ全てには、白濁した粘液やその塊は付着していても、いっさい血糊が見られなかったように思う。本来、分娩それ自体は出血を伴わないということなのだろうか。それに対し、病院での出産が全て血糊とともにあるのは、帝王切開だったシベリアはともかく、ベトナムであろうとフランスであろうと、病院ではどこも会陰切開をするから出血するということなのだろうか。事の実際は知らないけれども、このあたりの編集に、作り手の立ち位置や主張が窺えたような気がする。  病院出産ながら夫が立ち会っていたフランスの事例を最後に持ってきていたことで、自然分娩とともに印象付けられていた立会い出産の是非については、自分に立会いの経験がないながらも、僕は、男の側の可否よりも産婦の意思が尊重されるべきだと思っていて、それ自体に是非はないことのように感じている。どうこう言っても、主役は産婦なのだから、女性が望めば付き合うのがパートナーの役割としたものだろう。望まれもしないのに、出向いていく場ではないような気はした。この作品に捉えられている立ち会っていたパートナーたちのいずれもに、そのような風情が窺えたのは、非常に納得感のあるところだったように思う。

by ヤマ

'09. 1.11. 自由民権記念館民権ホール



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