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『包帯クラブ』 『ワルボロ』 | |||||
監督 堤 幸彦 監督 隅田 靖 | |||||
『包帯クラブ』のディノ(柳楽優弥)・ワラ(石原さとみ)・ギモ(田中圭)・タンシオ(貫地谷しほり)・リスキ(佐藤千亜妃)・テンポ(関めぐみ)という呼び名は、やはり今風で、齢五十が近づきつつある僕の目に懐かしいアグネス・ラムのポスターを部屋に貼ってあった『ワルボロ』のコーチャン(松田翔太)・ヤッコ(福士誠治)・キャーム(木村了)・ヒデチャン(古畑勝隆)・オサノ(城田優)・カッチン(途中慎吾)という'70年代後半の呼び名とは有り様からして違っているが、どちらの作品も、いつの時代においても変わらない若者の生きにくさと真っ直ぐな気持ちというものが、デリカシーの備わったまなざしで捉えられていたような気がする。並べてみると、やはり三十年前の『ワルボロ』の時代より『包帯クラブ』の今のほうに、時代自体が病んでいる感じが強く現れていたように思うが、確かにそういう時代だと感じる。心に傷を負った場所を伝え、クラブ員に包帯を巻いてもらって癒しとする“包帯クラブ”などというのは、ちょっとあざといような気もしなくはないけれども、舞台装置はともかく作品のなかに、生きることについての骨太なメッセージが籠もっていて、堂々たる佳作になっていたと思う。いまどきの若い子たちには、むしろこういう描き方でないと伝わらないんだろうなと思えたりもした。 ウエッブ上に実在したクラブではないのだろうが、『ワルボロ』の時代なら、そのように安易な形で他者に依存して癒しを得ようとする者が少なからずいたり、またそれにより実際に癒しが得られて喜ぶ者がいたようには思えないのだが、今の時代だと奇妙なリアリティが感じられる。悪たれたツッパリであっても『ワルボロ』の時代は自力本願であって、母(戸田恵子)への義理と山田(新垣結衣)にモテたい一心でガリ勉をしているなかで鬱積していたエネルギーの放射を、コーチャンは、不良として喧嘩に明け暮れる放埒によって果たしスカッとできたわけだが、あくまで自分の身を以て臨むことで、学業にも替えがたい人生の学びと仲間の獲得を果たしていたような気がする。そして、そのことはコーチャンだけに限らず、弟を亡くしたことでの傷を負っていたヤッコにしても、喧嘩の場面になるとどうしても逃げ出さずにはいられなかったオサノにしても、自助自立によって自らの生に立ち向かおうとしていたように思う。仲間は重要な存在ではあるけれども、基本は自立にあったような気がするわけだ。 その点、『包帯クラブ』では、仲間や他者への依存度が比較にならないくらいに高く、ワラの危うさを救ったのがディノであり、ディノにつらさから抜け出す勇気を与えたのはワラであったし、最も危うかったテンポを救ったのは、包帯クラブみんなが力を合わせたことによるものだったように思う。昔にしても今にしても自立型もいれば依存型もいるのだろうが、三十年の時の隔たりのなかで、確実に依存型の人々のほうが増えてきているような気がする。それにつけても、人の心の傷というのは、自他いずれであれ人以外では、紛らわしはできても“手当て”はできないものなのだろうなと改めて思ったりした。 映画の冒頭「日々失くしていってる、奪われている。守ろうと足掻くことが却って奪い、奪われているつもりがいつの間にか奪う側になっていってる」とワラが呟いているそれを“想像力”と言っても“感受性”と言ってもいいのだろうけど、そのふたつこそが、人を“愛”に導き、生きる力を与えるのだという、実に真っ当なメッセージを素直に受け取ることができたように思う。石原さとみを初めていいと思った。ディノは、柳楽優弥なればこそと感じさせる難しい役どころだったように思うが、ああいったピュアさを演じて押し切れる力量は立派なものだ。最後に出てきた、その後のディノの姿に納得感のある作品に仕上げていたことにも感心した。 また、他人が楽しそうにしているのを見ているうちに、何故か無性に苛立ってきてしまうという若者が二人登場するのだが、そのことに不気味なまでのリアリティを感じずにはいられなくなっている今の日本社会の描出の巧みさにも感心した。なかでもテンポについては、「何もかも私のほうが恵まれているのに、なぜ…」という呟きが印象深く、ときに恵まれていることが却って強迫する場合もあることを抜かりなく捉えていたように思う。 それにしても、あのレストラン跡の廃屋というのは、本当の女子高生レイプ事件の現場として前にTVのワイドショーニュースで繰り返し見せられた覚えのある場所に酷似していたように思うのだが、どうなんだろう。もしもそれが本当の現場だったら、何だか洒落にならないというか、ちょっと嫌な気がする。 | |||||
by ヤマ '07. 9.24. TOHOシネマズ2 '07. 9.20. TOHOシネマズ4 | |||||
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