『トランスアメリカ』をめぐる往復書簡編集採録 | |
「チネチッタ高知」:お茶屋さん ヤマ(管理人) |
|
(お茶屋さん) いま、日誌を拝読いたしました。目からウロコ! ヤマ(管理人) おぉ〜、『世界最速のインディアン』に続き、お褒めの連打! 十連休っていいなぁ、実に(笑)。 (お茶屋さん) 手術の後、ブリーが大泣きするのにちっとも感情移入できなかったのですが、ヤマちゃんの日誌を読んで理解できました。 ヤマ(管理人) そりゃあ、よかった。あそこに違和感のあった人、けっこういたみたいよ。 感想文のなかで、なぜ号泣するのかさっぱり分からなくて感情移入できなかったというようなことを書いていた方もいたし。 (お茶屋さん) 私もわからなかったなー。 ヤマ(管理人) さっき訪ねてみたら、これ少し改稿したみたい。前に読んだ時は、確か「さっぱり分からない」って書いてあって明らかに苦言を呈してた感があったんだけどね〜。 (お茶屋さん) 私は、号泣場面の前にトビーが去って行ったので、トビーともう会えないと思って泣いているのかと思ったもん(ちょっと、惜しかった?(笑))。 ヤマ(管理人) それなら、そのものじゃん(笑)。 (お茶屋さん) う〜ん、「父親としてもう会えないから泣いている」というのはわかってなかったのでねぇ。私は、息子と会ってからのブリーが手術を思いとどまるなんて全く思ってなかったし、息子と旅をしている間に親らしくなったとは思ったけど、ブリー自身が最初から父親になるつもりもないし、父親にはなれないと思っていて、それが哀しかったですが、ラストシーンでは完全に親になれてよかったと思ったんです。 ヤマ(管理人) スタンリーという名前も家族も捨てたブリーが「最初から父親になるつもりもないし、父親にはなれないと思ってい」たのは、そのとおりであって、彼自身、そうでないことに気づいたのは手術を終えて、父親になろうと思っても二度となれない地点に来て初めてという形だったのかもしれないね。あるいは、息子との旅の途上で自分のなかにもやっと芽生えたように感じていたものが、実際は、これほどに大きかったことには、彼自身、思わず号泣してしまうまで気づいてなかったということかもしれない。 でも、僕には、途中でもしかしたら手術を思い止まるのかもってな杞憂を抱くくらいに彼が、息子トビーへの想いを強くさせていっているのが伝わってきたんだよね。というのも、当初全くそれとは反対の姿勢で息子に向かっていた彼を変えたのが、境遇や生活は荒みながらも素直な魂の透明感を保っているトビーのキャラクターであることがよく描かれていて、そこに感じ入るところがあったからね。ケヴィン・セガーズが実に巧くトビーを演じていたよねー。 そこんとこがまさしくブリーの血を引き継いでいる証だと感じさせるような人物造形というものを、ブリーを演じたフェリシティ・ハフマンが見事に果たしていて、さればこそ、ブリーがトビーの父親にも心底なりたかったのだとの想いを露わにした号泣シーンに、何の違和感もないどころか、感銘を受けたんだろうね。 そして、この魂の問題が込められているからこそ、この作品は、ありきたりの「旅の途上における自己発見もの」とも言うべきロードムービーとは、一線を画していたように思うんだよね。すなわち、拙日誌にも綴った、登場人物に通底する“ハンディキャップを負っていることが心を挫かない魂の力の強さ”の値打ちっていうのがそれであり、それを支える「求める夢」の持つ意味というものの大きさ(『世界最速のインディアン』じゃないけど(笑)。)に観客を気づかせるのが、カルヴィンの存在であり、彼の歌う味わい深い“Beautiful Dreamer”の歌声だったように思うんだよねー、映画の作りとしても。 (お茶屋さん) そうですね。彼はカッコよかった。 ヤマ(管理人) なにせ歌詞を調べたい気持ちにさせてくれたんだものね。 (お茶屋さん) カルヴィンは、ちゃんとブリーを見てくれていたし、彼自身が夢追人でもあるし。前科者という設定もよかったですね。 ヤマ(管理人) そうそう。ハンディキャップを負った夢追人ってとこが肝心よね。 (お茶屋さん) かなり繊細な作りの映画ですよね。コメディとしてもよくできている。微妙なコメディだけど。 ヤマ(管理人) いわゆるアメリカ映画的な刺激過多とは対照的な繊細感だね。よく練られているという点では、今や失われつつあるアメリカ映画の良き伝統を受け継いでいるとも言えるんだけどねー。 (お茶屋さん) あー、淀川さんが嘆いていたというか憤慨していたというか。商業主義(刺激過多)が良き伝統を壊しちゃったと。スピルバーグが槍玉にあげられていましたが、『ジョーズ』なんかは結構繊細だったように思うけど・・・・。俳優に助けられたのかな? 『トランスアメリカ』に関して言えば、画面には写真でしか登場しなかったトビーの母親の様子が想像できたのが、この映画の繊細さの証明みたいなものですね。 ヤマ(管理人) お茶屋さんの「かるかん」では、何と言っても「なんかアメリカ」「なかなかにアメリカ」「これまたアメリカ」の三連発が効いてるねー。 (お茶屋さん) わはは!ホントだー(笑)。こうして並べると。 ヤマ(管理人) 『世界最速のインディアン』同様に「アメリカのぎっしり詰まった旅」だったよ。 「トビーが住んでいた近所の毛抜き名人の小母さん」の重要さに言及しているところは流石と思ったし、何よりも、この作品の成否の鍵を握るトビーのキャラについて縷々具体的に拾い上げ記してあるところに感心。 (お茶屋さん) やっぱり感じたことを書いたのがよろしかったのね(^o^)。 感じたことしか書けないわけだけど(笑)。 ヤマ(管理人) 僕は、ハフマン以上にセガーズの功績が大だと思ってるくらいで、それは『きみにしか聞こえない』での成海璃子以上に小出恵介の演技と存在感が果たした功績が大きいと思っているのと同じほどだったな〜。 (お茶屋さん) セガーズくんは有望ですかね? ヤマ(管理人) いいんじゃないかなぁ。 (お茶屋さん) 小出恵介は、みごとなカメレオンですが。男前だけと、あまり個性的でない顔が二人の共通点かな? ヤマ(管理人) 確かに(笑)。 (お茶屋さん) それはともかく、こうして振り返ってみると、つまり私は、親の自覚がなかった人が親になるまでの話としてみていて、親の性別について考えてなかったのです(たはは)! ヤマ(管理人) まーねー、このへんは、お茶屋さん、親経験ないし、男じゃないし(笑)。 だけど、僕はねぇ、これでも一応、母親じゃなく“父親”やってきてるんで、ちょっとは違うでしょうよ、そりゃ(笑)。 (お茶屋さん) ははー、かなり違っていたようで(笑)。どうもトビーの可愛さに目がくらんでいたようで(笑)。 ヤマ(管理人) じゃあ、近いとこ来てるじゃない。 (お茶屋さん) かもね。ああいう息子がほしいと思ったもんね(笑)。 ヤマ(管理人) ブリーもそれゆえに号泣するに至るわけだからねー(にこ)。 |
|
2007年9月15日 9:00 〜 2007年9月17日 22:26 編集再録by ヤマ | |
|