『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』(800Balas)
『アメリカ、家族のいる風景』(Don't Come Knocking)
監督 アレックス・デ・ラ・イグレシア
監督 ヴィム・ヴェンダース


 僕が子供の頃、一般映画というのは専ら大人の娯楽であって、それも主に男性が顧客の中心層を担っていたように思う。だから、西部劇や戦争映画といった“荒々しく、ある種いかがわしさを忍ばせた非日常的な世界”が格好の舞台となり、男心を擽ってくれるイイ女が添えられているのがお約束の代物だった。ところが、世界の消費動向や流行を女性が担うようになるとともに、男性文化としての映画はSF・アクションに名残を留めるのみで、古典的な西部劇や戦争映画は、それ自体がほとんど撮られることがなくなっていった。昔ながらの“マッチョ”が男女双方から敬遠されるようになったことだとか、人権問題や政治状況との絡みもあって、特に西部劇と戦争映画の衰退は著しく、僕が大人になる以前に既に娯楽映画の主要ジャンルたり得なくなっていたように思う。

 今回、時期をそう隔てずに観た両作品では、そういう西部劇映画から離れられずに老境を迎えている“ガンマン”俳優が軸に据えられ、かつての華と有頂天のなかで失っていたものや今の凋落と空虚のなかでの囚われというものが、両作品に共通して描かれていたように思う。

 『アメリカ、家族のいる風景』は、西部劇のスター俳優だったハワード・スペンス(サム・シェパード)が撮影現場をすっぽかして、三十年間放りっぱなしだった母(エヴァ・マリーセイント)の元を訪ねて泣きつき、かつての“酒とバラの日々”のなかで出会ったドリーン(ジェシカ・ラング)に産ませっぱなしにした形で、己が存在した時の証が残っていることをたまたま知り、その昔の恋人を求め旅する物語だ。並行して、一度も会ったことのない父親の名を母親の死を契機に知り得たと思しき娘スカイ(サラ・ポーリー)が父ハワードとの出会いを求め、期せずしてモンタナに旅してくる姿が描かれる。ヴェンダースお得意のロード・ムービーだ。美しく切り取られる風景の鮮やかさには目を奪われたが、いい歳をしたハワードが見失っていた大切なものへの気付きを今更に得るのみならず、母親・元恋人・実娘という三世代の女性たち総ての実に寛大で優しい愛情に恵まれて、労せずして幾ばくかの取り戻しさえ果たすことで、無事に職場復帰までもしてしまう『アメリカ、家族のいる風景』に濃厚に立ち込めていた甘ったれた感傷よりは、『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』の“命知らずの無法者”的な破天荒さを愛惜する感傷のなかに宿った潔さのほうが、僕には遙かに好もしいものとして映った。


 その『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』は、しがないスタントマンながら、心底マカロニ・ウエスタンを愛し、落ちぶれながらも辛くも残っているウエスタン村“テキサス・ハリウッド”にしがみついて生きてきた老俳優の物語だ。そのウエスタン村の買収を済ませ、現代的なリゾート施設に建て替えようと企てる亡き息子の妻ラウラ(カルメン・マウラ)に対抗し、まるで死に場所を求めるかのように、スタントショー仲間を引きずり込んで実弾掃射による立て籠もりの挙げ句、“記録には残らないが記憶に残るスタントガンマン”であったことを亡き息子の遺児カルロス(ルイス・カストロ)に実証して見せたフリアン(サンチョ・グラシア)の生き様そのものが、マカロニ・ウエスタンというジャンル映画に重なるものとして強い印象を残すような構成と画面を備えた作品だった。このフリアンとマカロニ・ウエスタンに対する哀惜とイーストウッドへのリスペクトを愛情深く猥雑に描出していたところに絶妙の味があり、“荒々しく、ある種いかがわしさを忍ばせた非日常的な世界”の醍醐味を髣髴させてくれたことでの視覚的楽しさに加え、人間ドラマとしても一本筋の通った男気が哀しくも感銘深い作品だったように思う。

 とりわけ、カルロスが祖父フリアンのウエスタン村でささやかに身体を張る体験を重ねながら大人への入り口を通過していくさまが、まさしく僕らが子供の時分に西部劇映画を観ることで大人の世界を窺い知るようになっていった記憶というものを誘い出してくれたところが感慨深かった。僕ら世代以上の男性にとっては、実に愛すべき映画だ。こういう中高年男性向けの映画というのがぽつぽつとこうして公開されると、何とも無性に嬉しくなってくる。また、フリアンには、ハワードと違って仲間がいるところが何とも楽しく、揃いも揃ってやさぐれ者なのだが、そのいかがわしさに魅力が宿っていた。キャスティングが絶妙で、何とも懐かしい面構えの面々が素敵だった。
by ヤマ

'06. 3.14. あ た ご 劇 場
'06. 3.19. 梅田ガーデンシネマ



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