『きょうのできごと』
『69sixty nine』
監督 行定 勲
監督 李 相日


 『きょうのできごと』を観て、大学時分にちょうどあんなふうな思いつき任せのドライブをしていた弛緩した日々のことや女の子の御しがたさに翻弄されるままの自分のお手上げ状態に対し寛容性の装いのなかで何とか折り合いを付けるしかなかったことなどを思い出した。今や遠くなった若かりし頃のそんな情けなくも恥ずかしい日々を想起させられ、苦笑を禁じ得ないままに偶々日誌も綴ることなく来ていたが、二週間ほどして『69』を観て、改めて『きょうのできごと』が優れた作品であることに思い当たった。

 『69sixty nine』も『きょうのできごと』同様に若者の等身大の姿を描いて、活写と呼ぶに足る息づきでコミカルに綴った作品だった。政治の季節にティーンエイジを過ごした高校生たちを、トポスとしてもいかにも打ってつけの佐世保を舞台に、確たる信条としてのアンチ・ポリティカルでもノン・ポリティカルでもないケン(妻夫木聡)たちが確かに時代の空気を吸って生きていた姿というものが、少々あざとさを感じさせる語り口で描かれる。僕にとってのこの作品の勘所は、当時の若者という形で一括りにされるときには、得てして過剰に政治色を投影されがちな60'sについて、かの政治の季節を政治の埒外で生きていた若者が数多くいて、むしろ彼らのほうが普通だったことをまざまざと感じさせるとともに、それにも関わらず、彼らが政治的なものも含め、さまざまな風俗と共にある時代の空気を確かに吸って生きていたことを実感させてくれるところだった。
 僕は高校三年生を1975年に過ごしたから、彼らより6年下になるわけだが、政治の季節の黄昏期にあって三無主義だとか四無主義だとかいう言葉を冠せられて過ごし、ミーイズムの先駆けを世代的に担った部分もあるような年頃だ。十代時分の感覚としては、60's を少し眩しく眺める眼差しと少し馬鹿にするような眼差しとが入り交じって、妙に気にしないではいられない70's だったような記憶がある。そういう意味では、当時の気分とちょうど重なる気持ちで眺められる姿が画面に描かれていて、楽しく観ることができた。
 ただ少々あざとさを感じさせる語り口の功罪のうち、罪のほうに当たることになる気がするのだが、どうもあまり深く心に残る印象を刻まれることなく、自分のなかでは一過的な作品として流れ去っていきそうに感じる。

 かたや『きょうのできごと』のほうは、これもまた少々どころではないあざとさを感じさせる語り口というか構成でもって、京都の大学生たちを描いているのだが、青春の日々にとことん付きまとっていた冴えなさとそれでもなお覚える掛け替えのなさを思い出させる映画として印象深いものを残してくれていたように思う。
 両者の違いは、一言で言えば、ドラマ性の演出の仕方の違いということになるような気がする。『きょうのできごと』でのかなり突飛なクジラの件やビルに挟まれた男の件も、物語の中心に置いた大学生たちにとっての日常の一日の背景に過ぎない位置しか与えられず、彼らはそれと全くの無関係ではないけれども、彼らの日常にとってはさしたる重きも残さず過ぎ去っていくものとして捉えられる。
 そういうところに、この作品が事件やドラマよりも日常性というもののほうに焦点を当てていることが自ずと浮かび上がり、そのなかで、青春の日々における日常性が、ある種の肯定感を漂わせる形で綴られているように感じたのだが、新鮮だったのは、その肯定感がノスタルジックな懐かしさなどに彩られた賞揚をいささかも孕んでいない肯定感だったところだ。そのことの値打ちを改めて感じさせてくれたのが程なくして観た『69sixty nine』で、こちらのほうに宿っていた肯定感には、やはり賞揚や昂揚が色濃く感じられたからだ。より多くの人に支持されやすいのは『69sixty nine』のほうだろうが、味わい深いのは『きょうのできごと』のほうだという気がする。


『きょうのできごと』追記('04.10.22.)ヤマ(管理人)
 推薦テクストとして直リンクに拝借したFさんの書いたものを読んで、この映画のビミョーさを再認識するとともに、日誌を綴ったときに言語化し得ないでいた部分に言葉を得た。
 ちょうど僕の日誌に「少々どころではないあざとさを感じさせる語り口というか構成」と綴った部分を、Fさんが「思わせぶりな仕掛けが…ことごとく不発」、「つくらなくてもいい象徴や仕掛け」が「描かない、語らない、語り口を選択した」ことで「どこか宙ぶらりんで中途半端な印象を与えてしまう」と書いてあるのを読んで思うところがあったのだ。果たして、作り手がそれを意図していたか否かは不明だが、結果的に僕には、その宙ぶらりんで中途半端な印象こそが、あの若かりし頃の冴えない青春の日々を実感させてくれたような気がする。何か起こりそうで大したことが起こらない、でも、ちょっとヘンなことやら、プチ不条理みたいな思いに囚われるような出来事にはしょっちゅう見舞われる、なんとも中途半端な日々で、年を経て振り返り、エピソード的に昔話として語ろうとすると、けっこうドラマチックになるのだが、当のそのときは、そのドラマ性自体に自身が気づいてなかったりする。
 Fさんの感想を読んで、「あ、そーか、そういうところに自分は味わい深さを感じていたんだ」と気づいたのだった。


『69sixty nine』
推薦テクスト:「映画通信」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20040712
推薦テクスト:「eiga-fan Y's HOMEPAGE」より
http://www.k2.dion.ne.jp/~yamasita/cinemaindex/2004sicinemaindex.html#anchor001137

『きょうのできごと』
推薦テクスト:夫馬信一ネット映画館「DAY FOR NIGHT」より
http://dfn2011tyo.soragoto.net/dayfornight/Review/2004/2004_04_05_2.html
推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/jouei01/0407-369.html#kyou
by ヤマ

'04. 7.15. 県民文化ホール・グリーン
'04. 8. 1.   TOHO シネマズ 1
      



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