『黄金の法 エル・カンターレの歴史観
製作総指揮 大川隆法


 近年、大川隆法の率いる「幸福の科学」がアニメーション映画に意欲的に取り組んでいて、それが全国東映系列で一斉公開されたり、一般動員に左右される各種ランキングでトップ獲得といった状況を示したりしていたので、どんな代物か観てみたいと思っていたら“歴史観”をサブタイトルに打ち出した作品が公開されたので、出向いてみた。

 2903年から訪ねてきた少女アリサ(声優:雪野五月)のタイムマシンでのタイムトラベルならぬ“タイム・ラフティング(「時の激流下り」と言うらしい)”を行い、当初の目的地たる2003年の日本には行かず仕舞いに、紀元前2300年にまで遡る“歴史上の奇跡”をその目で見届けてきた2403年の少年サトル(声優:青山桐子)が、「かっこよさ」とは愛と勇気に生きることとの“悟り”を開き、宗教家を志して帰ってくるという話だから、たわいもなく罪がないと言えばそれまでだ。アニメーション的にはかなりしっかりした作画であり、視覚効果も派手なだけに器と中身の釣り合いの悪さに多少の落ち着きの悪さを覚えるが、気に障るというほどのものでもなかった。

 サトルとアリサが見届けてくる奇跡というのが、紀元前2300ではヘルメスの海竜退治とプロメテウスとの対決、紀元前1200のモーゼによる出エジプトの海割れ、紀元前 600は釈迦が狂象をなだめたり阿闍世王の腫れ物を治したりなどすること、紀元30のキリスト復活といった具合だから、その無邪気なまでの無頓着さが微笑ましささえ呼び起こす。そして紀元 600に天台宗の開祖と覚しき天台智ギ(声優:小嶋一成) の前に偉大なる釈迦が降臨し、釈迦(声優:子安武人)と文殊菩薩(声優:伊藤美紀)がヘルメス(声優:子安武人)・アフロディーテ(声優:伊藤美紀)夫妻の生まれ変わりであることが明かされ、2003年に中国の更に東方の地に再度生まれ変わって現れることが告げられる。流石に映画のなかでの明言はないものの、中国の東方の地となれば日本だろうし、それが現代となればヘルメス=釈迦の再来が大川隆法氏ということなんだろう。

 そう来なくては「幸福の科学出版」製作のアニメーション作品の面目が立たないわけで、僕としては、ここのところで大いに溜飲を下げた。その点では、物語上は結局サトルが2003年の日本に立ち寄れなかったという展開にしてあることも気が利いていると思った。その一方で、もしサトルとアリサが立ち寄ることが出来ていれば、何をもってヘルメス=釈迦の転生者の現出させる奇跡としたか、が興味深くもあるし、アフロディーテ=文殊菩薩の生まれ変わりを誰にするのか、という下世話な興味も誘われた。ついつい小川知子の名を想起してしまう。そういうところからも、言わば、非常に個人的な色彩の色濃い作品なのだが、チラシによれば、これが全国の111の上映館で一斉公開されているのだ。しかも僕の手元にある10.27 の「Weeky ぴあ」の今週の映画満足度ランキングでは、出口調査113人の平均点90.3点で堂々第1位なのだ。前作『太陽の法 エル・カンターレへの道』は、2週連続の観客動員数第1位を誇り、その前の『ヘルメス 愛は風の如く』は、4週連続の動員数第1位を果したようだが、これらの実績を見るといろいろなことを触発される。

 信者の支持力だとしたら、教団勢力の大きさと見ることもできるし、逆に、多少の動員力でトップランキングを簡単にさらえてしまうほど、今の日本での映画の劇場鑑賞人口が少なくなっていると見ることもできる。僕には、後者であるような気がしてならなかった。都会は、いざ知らず、今回、僕が自分の住まう地方都市で観たとき、鑑賞者数はわずか三人でしかなかった。ひとつ興味深かったのは、高い技術力を誇る作品づくりをしていながら、監督・脚本に名を記している者がいないということだ。製作総指揮・原作・原案は、大川隆法となっているが、シナリオとなると「黄金の法」シナリオ・プロジェクトとなって、固有名詞が出てこない。監督名も各種ディレクターなり作画監督といったところには記名が見られるものの、全体に対して作品としての責を負う人物名が明らかにされていない。それだけ総指揮が細部に渡ったということなのか、或は当人が名を明かしたくなかったということなのか。日本映画には、そういう際のアラン・スミシーのような了解された慣習がないからか、そっけなく無記名のままになっていた。

by ヤマ

'03.10.24. 高知東映



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