『Moon Child』
監督 瀬々敬久


 94年7月号の『現代詩手帖』で“日本映画の新たなる視座〜漂流する映像表現の行方”と題する特集が組まれ、瀬々敬久と福間健二の対談が掲載されていた。当時、瀬々監督はピンク映画を足場にしていたのだが、“日本映画の地平は動いてきている”と冠せられた対談は、かなり面白くて、以来、僕にとっては、少し気になる監督だったわけだ。99年の『アナーキー・イン・じゃぱんすけ』は、国映/新東宝の配給だから、きっとピンク映画の枠組みのなかにあるのだろうけど、珍しくも宣材としてのチラシが作られていて、“パンキッシュでソウルフル!イケテナイにっぽん、イケテナイ俺たち!イケ・イケ、SEX!GO・GO・ピンポン!”などというわけのわからない惹句が打たれているが、まるでピンク映画とは思えない作りのチラシで、妙にパワーに溢れていて惹かれるところがある。でも、僕は観る機会を得られずに来ている。
 そういう意味では、少し楽しみなところもあった今回の作品なのだけれども、初めて瀬々作品を観て思ったのは、思いの外、アナキーな爆発力に乏しかったこととパロディには至らない借り物的な刺激のなさだった。経済破綻で日本が崩壊し、移民となってアジアに流出という刺激的な設定が巧く生かされていたとは到底思えない。無国籍的な近未来感で言えば、7年前に観た岩井俊二監督の『スワロウテイル』に似ている感じで、しかも見劣りがするように感じられた。『ブレードランナー』や『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』を想起させるところもある。そして、『マトリックス』以降の映画であることが間違いないような映像の流れと飛躍が感じられる。ひたすら前面に押し出されていたのは、HYDEとGacktで、それはそれなりに精彩を放っていたように思うが、それ以上のものがなく、アイドル映画としても物足りない出来に終わっているのではないだろうか。


推薦テクスト:「神宮寺表参道映画館」より
http://www.j-kinema.com/rs200305.htm#moonchild
by ヤマ

'03. 5.11. 松竹ピカデリー3



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

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