『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!栄光のヤキニクロード』
監督 水島 努


 映画版『クレヨンしんちゃん』が大傑作だとの噂は耳にしながらも、僕は、しんちゃんの言葉遣いというよりも、人を小馬鹿にした口調の喋りとやたら下品なギャグが嫌いで、どうも観に行く気がしなかった。ところが、4/18の地元紙に“PTAが見せたくない番組、1位は『クレヨンしんちゃん』”という見出しで、“日本PTA全国協議会が「言葉遣いなどを問題視する保護者が多い」としているが、文化庁は昨年末、メディア芸術大賞に映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』を選んでいる”と報じる記事を見つけたので、矢庭に観に行く気になった。

 僕が耳にする噂では、映画版がテレビ版とは随分異なる志の元に作られているということだったので、両者を同列に置いていることへの疑義が湧いたからだった。記者は、映画版を観ることなく記事を書いたような気がしたのだ。元々の漫画自体が成人雑誌に連載されたものだったような記憶もあって、元来、子ども向けではなかったはずだという思いがあったところに、異なる志の元にあると聞いているものを同列に扱っていることが気に入らないながらも、映画版を自分が一作も観ていないのでは話にならないと思ったという事情もある。

 『アッパレ!戦国大合戦』を観たわけではなくて、『栄光のヤキニクロード』を観たのだから、随分といい加減な話なのだが、率直なところ志をとやかく言うような映画だとは思えなかった。いろんな映画をパロディとしてふんだんに盛り込み、かつて華やかだった熱海の温泉街の没落ぶりを取り上げ、年配者でないと受け取れないような“大人のほくそ笑み”をくすぐりながらも、それ以上のものではなく、僕は格別面白いと思うこともなかった。やはり僕には、しんちゃんの口調とお下劣ギャグが肌に合わないようだ。しかし、親が見せたくないとしていると報じられている割には、圧倒的に親子連れが多くて、子どもだけとか大人だけで来ている観客のほうが少なかったように思う。

 物語の軸になっているのは、家族の団結なり求心力のようなものだから、俗悪な内容では決してない。また、展開のリズムや画面構成には、なかなかのものがあるとも思う。だけれど、ベースにある僕の生理的な違和感を払拭してくれるほどの見事さでもなかった。

 観た後で、ふっと連想したのが嘗ての日活ロマンポルノだった。裸と絡みのシーンを盛り込んでおきさえすれば、後は何を描こうが、かなり自由にやれるところから生まれた佳作群が“ただの裸映画じゃない”といった予想外のインパクトを与えたことから日の目を浴びていったように思われるのだが、子どもが主人公のアニメ映画だから子ども向けの映画だと思っていたら、“ただの子ども向けアニメ映画じゃない”どころか、“およそ子ども向けのアニメ映画じゃない”と思えるようなところがあって、それは間違いのないことだから、次第に脚光を浴びるに至ったのかもしれない。しかし、元々の漫画がそうだったように、そもそも子ども向けのものではなかったのだから、当初からファンの大人たちは何を今更というふうに思っているのではないかという気もした。

by ヤマ

'03. 4.19. 東宝2



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