『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』
(The Lord Of The Rings/The Two Towers)
監督 ピーター・ジャクソン


 圧倒的なスケール感と見事に作り込まれた画面には、すっかり感心させられた。雄大な自然に包まれた風景が非常に魅力的で、物語としても面白く、人物造形としての彫り込みも前作を上回っているように思う。それなのに、前作同様、僕が気持ちの上で乗っていけなかったのは何故なのか、未だによく解らないでいる。言うなれば、アトラクション設備の充実したアミューズメントパークで、壮大で趣向を凝らしたジェットコースターを前にして、これに乗ったらさぞかし面白いだろうなと思いながら、自分は乗れないままに指をくわえて眺めていたような、淋しく悔しい思いが残るという感じなのだ。映画を観た後に反芻して感心することはよくあるけれども、観ながら感心しているという状態に僕はあまりならないのに、このシリーズとは相性が悪いのかもしれない。どうにも落ち着きが悪く、損したような不幸な気分に見舞われる。

 前作で印象深かったのは、主人公たるフロド(イライジャ・ウッド)が数多の有能の士から敬意とともに認められている能力が、指輪の魔力に犯されないという、言わばネガティヴな能力であったことだ。それ以外には彼に何も取り柄がないことが際立てば際立つほどに、また、フロドに敬意を払う人物たちが傑出した能力を持っていればいるほどに、指輪の魔力に犯されないということが如何に特別なことかが解るようになるから、まさにそういう人物造形がフロドに施されていたわけだが、キャラクター設定として面白いだけでなく、人の能力や取り柄というものに思いを馳せると、とても意味深長でシンボリックなイメージの提示でもあったように思う。たまたま指輪との出会いがあったからこそ、フロドの価値が認知されたけれど、フロド自身には指輪以前と以後で別に変化や成長があったわけではない。それなのにというか、それゆえに、周囲の観る目が変わったのだ。

 指輪を手にしても何らの変化や影響を受けないことで認められたフロドを提示したのが前作ならば、第二作は、指輪を葬るという使命を得て旅する過程で変化と成長を遂げていく姿が描かれるとしたものだろう。そういう点では、変化のほうは、不安や葛藤を織り交ぜて描かれてもいたが、成長と感じられるようなところには至ってなかったと思う。その部分は兆し程度に留めて、第三作に持ち越したということなのかもしれない。第二作で軸になっていたのは、やはり“信頼”ということなのだろう。誰を、何を、どこまで、なにゆえ信じるのか、そして、信じ続けられるのかということを描出する部分が、前作よりも陰影を帯びた人物像の造形を促す形になって現れていたように思う。そのうえで重要な位置を占めていたのがフロドとサム(ショーン・アスティン)を“滅びの山”に道案内するゴラム(アンディ・サーキス)の存在だ。

 人の心のなかにある良心と邪心、それ自体は、どちらが本性というものではなく、どちらを触発されるのかという、関係性のなかでの発現であることを実に端的に示していた。両方を触発されると葛藤が生じる。そして、どちらを触発するかということの鍵になっているのが“信頼”というわけだ。

 もうひとつの軸にあるのが戦いの持つ意味のようなものだとも思う。アラゴルン(ヴィゴ・モーテンセン)一行のフィールドにある、相手を倒し勝利を獲得しようとする戦いとフロド一行のフィールドにある、苦難や自身と闘い使命を果たそうとする戦い。どちらか一方の手段では世界を救えないことが前提にある物語だ。そして、今回特徴的だったのが、エントたちの描き方だ。相手と争い倒そうとする戦いをもってよしとはしなかったエントたちがアイゼンガルドの惨状を目にして矢庭に宗旨替えをする形の展開が提示していることには、ややアジテーション的なものが感じられて、僕は直ちに賛同できないようなところがあるのだが、聞くところによれば、原作では惨状を目の当たりにして翻意するのではなく、森のなかで協議した時点で戦いに参画することを決定していたらしい。

 ともかく、良心と邪心にしても、戦いにしても、善悪を明瞭に区分できるものではなく、表裏一体のものとしてあるという世界観こそが原作の持ち味であろうことが容易に伝わってくる出来栄えだったと思う。



推薦テクスト:夫馬信一ネット映画館「DAY FOR NIGHT」より
http://dfn2011tyo.soragoto.net/dayfornight/Review/2003/2003_03_24.html

推薦テクスト:「多足の思考回路」より
http://www8.ocn.ne.jp/~medaka/lordrings2.html

by ヤマ

'03. 4.15. 松竹ピカデリー2



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