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『O[オー]』(O) 『Dr. Tと女たち』(Dr.T And The Women) | |||||
監督 ティム・ブレイク・ネルソン 監督 ロバート・アルトマン | |||||
市民映画会の二本立てが共に後味に苦みの残る作品なのは珍しい気がする。特に『O[オー]』は、ヒューゴ(ジョシュ・ハートネット)の度の過ぎた邪悪さには、それに見合うだけの動機づけが乏しいように感じられ、なにゆえこんな暗澹たる気分にさせられなければならないのか、作り手の意図が掴みきれない気がした。だが、観終えてからチラシに目を通すと、シェイクスピアの『オセロ』の翻案だとのこと。なるほど、だからハンカチならぬスカーフがあのように用いられていたのかと得心がいく一方で、リアルなドラマとしてではなく、多分に造形的な作品であったのなら、動機づけの部分に対して相応のリアリティを求めるのは筋違いだと思い直した。 そこから翻案ぶりを思い返してみると、現代のハイスクールを舞台にかなり周到で巧妙な置き換えがなされていることに気づき、感心した。作品タイトルが『O』となっているのも、オーディン(マカーイ・ファイファー)とオセロに共通する頭文字だからだろう。ヒューゴの悪意に相応の動機が見い出せないのは、彼がイアーゴの置き換えなら無理もない。原作でも古来論議を呼んできた部分なのだから、翻案なら当然にして負うべきところだ。むしろ、そういう意味では、ヒューゴの父親の存在やオーディンのMVP受賞時のヒューゴの失意など、それなりの動機設定を施していることになる。 自身の所属するバスケット・チームのヘッド・コーチでもある父親から自分の欲求に見合うだけの注目と愛情を得られない理由が、ある意味で心配のいらない優等生であることやスポーツ選手には不可避とも言える天賦の才の差であったりすることには、オーディンを死に至らしめるまでの陰湿な奸計に見合うほどのものとは言えないとしても、見過ごしがたい現代性を帯びた合理性がある。また、オーディンを単に黒人選手とするだけでなく、非行からの更生少年としてハンディキャップを負わせることで、オセロがムーア人であるがゆえに受けた異人視に見合わせている部分にも現代的な配慮が窺える。モチーフが明らかになっただけで、たちまち作品自体が異なる相貌をもって立ち現れるようになるのだから、不思議なものだ。ジョシュ・ハートネットのたちの悪い邪悪さを秘めた酷薄な表情がなかなか見事だった。 併映の『Dr. Tと女たち』は、『ショート・カッツ』ほどの作品ではないと思うが、アルトマンらしい不条理や皮肉、そして最後のカタストロフが同作を想起させるところもある映画だった。産婦人科医 Dr.Tことトラヴィス(リチャード・ギア)は、経済的に恵まれ、ステイタスも満たされ、妻(ファラ・フォーセット)と二人の娘に加え、義妹(ローラ・ダーン)に姪三人と暮らしている。公私ともにいつも女性に囲まれ、その甘いマスクとソフトな紳士ぶりが女性の憧れと信頼の視線を集める、モテモテ男だ。しかし、その境遇に堕することも去勢されることもなく、「すべての女は聖なる存在である」と公言し、よき父、よき夫、よき産婦人科医としての Dr.Tを自信をもってこなしている。女の全てを知悉したるかのような人物だったのだが、やはり女という存在は、それを上回って測りがたいものであることをアルトマンらしく個性的に描いていた。自分の信じ込んでいたものが砂城の楼閣のように崩壊していくエナジーに踏ん切りをつけてもらう形で、新たに付き合い始めたつもりだった恋人(ヘレン・ハント)に旅立ちを誘い掛けたのに断られ、踏んだり蹴ったりのトラヴィスは、さすがに女に懲り懲りとなったのか、この世ともあの世とも思えぬ涯ての地で、取り上げた赤ん坊が、男の子であったことを殊のほか喜んでいた。 女に囲まれて暮らすのは、ろくなもんじゃないぞと言っているようでもあった。よき夫であり過ぎたために妻を精神の病の淵に追いやり、娘には自分の了解を越えた世界に飛び出され、恋人には自分の期待を見事に外される。トラヴィスさえもその運命からは逃れられないのだから、君ら凡庸な男たちが女と関わると翻弄されるのは、当然なのだと言われているようでさえあった。なにしろ“すべての女は聖なる存在”であって、既に凡人を超越しているのだから、かなうはずもないと。 *Dr. Tと女たち 推薦テクスト:「FILM PLANET」より http://homepage3.nifty.com/filmplanet/recordD.htm#drtandthewomen 推薦テクスト:「my jazz life in Hong Kong」より http://home.netvigator.com/~kaorii/am/drtand.htm 推薦テクスト:「La Dolce vita」より http://hw001.gate01.com/impress/2003movie.htm#Dr.Tと女たち *O[オー] 推薦テクスト:「FILM PLANET」より http://homepage3.nifty.com/filmplanet/recordO.htm#o | |||||
by ヤマ '02. 9.27. 文化プラザかるぽーと | |||||
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