美術館夏の定期上映会 アニメコレクション
                “ロシア・クラシック&ユーロ・ファンタスティック”

   1日目(土曜日) “ロシア・クラシック”


『イワンのこうま』1947 監督 イワン・イワノフ=ワノー
『25日、最初の日』1968 監督 ユーリー・ノルシュテイン、
    A・チューリン
『ケルジェネツの戦い』1971 監督 ユーリー・ノルシュテイン、
    イワン・イワノフ=ワノー
『キツネとウサギ』1973 監督 ユーリー・ノルシュテイン
『アオサギとツル』1974 監督 ユーリー・ノルシュテイン
『霧のなかのハリネズミ』1975 監督 ユーリー・ノルシュテイン
『話の話』1979 監督 ユーリー・ノルシュテイン
『カメラマンの復讐』1912 監督 ウワディスワフ・スタレーヴィチ
『アリとキリギリス』1913 監督 ウワディスワフ・スタレーヴィチ
『ベルギーの百合』1915  未見  監督 ウワディスワフ・スタレーヴィチ
『新ガリバー』1936 監督 アレクサンドル・プトゥシコ
『惑星間革命』1924 監督 ゼノン・コミッサレンコ、
    ユーリー・メルクーロフ、
    ニコライ・ボダターエフ
『ソビエトのおもちゃ』1924 監督 ジガ・ヴェルトフ
『スケート』1927 監督 ユーリー・ジェリャーブシスキー
『中国っ子の冒険』1928 監督 M・V・ベンデルスカヤ、
    S・A・ベンデルスキー
『郵便』1929 監督 ミハイル・ツェハノフスキー
『スイカ泥棒』1934 監督 アレクサンドル・イワノーフ、
    パンテレイモン・サゾーノフ
『オルゴール』1934 監督 ニコライ・ボダターエフ
『皇帝ドゥランダイ』1934 監督 イワン・イワノフ=ワノー、
    ワレンチナ・ブルムベルグ、
    ジナイーダ・ブルムベルグ
『バザール』1936 監督 ミハイル・ツェハノフスキー
『おろかな子ネズミ』1940 監督 ミハイル・ツェハノフスキー
 ロシア・クラシックと題した今回のプログラムは、初期の長編セル・アニメとしては、三年前に上映した『雪の女王』('57) と並んで著名な『イワンのこうま』('47) の上映とソ連を代表するユーリー・ノルシュテイン監督の特集、さらには人形アニメの創始国とされる帝政ロシアの第一人者ヴワディスワフ・スタレーヴィチ監督の作品を中心とする戦前の人形アニメ特集や革命後ソ連となってからの戦前アニメ特集など盛り沢山で貴重な作品内容であった。
 『イワンのこうま』は、躍動感に溢れた動きと鮮やかな色彩で五十年以上も前の作品としては大したものだと思いながらも、人物造形と物語的な部分での弱さが祟って、期待していたほどのものではなかったが、ノルシュテイン監督の作品集は、やはりさすがの観応えというべきものだった。デビュー作の『25日、最初の日』('68) がロシア十月革命の最初の日を描いた作品だというのは、後のアーティスティックな印象の強い作品群のイメージからは、やや意外な感じがしたのだが、音や音楽とのシンクロニシティの巧みさやダイナミックなイメージには力があって、さすがの片鱗を窺わせる。だが、目を奪うのは、やはり凝った切紙による作品群だ。中世ロシアのイコンや細密画に描かれた人物たちそのままを動かした歴史劇『ケルジェネツの戦い』('71) は、今ではCGなどでよく見掛ける手法だが、それでも新鮮で、スケール感とダイナミズムに溢れていた。当時はさぞかし圧巻だったろう。『キツネとウサギ』('73) では、ウサギの家を乗っ取り、狼や熊や雄牛の威嚇にも怯まない強い悪役を雌のキツネにしていることが興味深く、その強い雌ギツネに最後に打ち勝つのがニワトリであることに珍しさを覚えた。そして、その意外な選択には、鶏冠に赤旗を戴くニワトリゆえに納得しなきゃいけないのかなと思わず笑いを禁じ得なかった。名高い『アオサギとツル』('74) を遂に観ることができたのは大きな喜びだったが、思っていた以上に美しく、幻想的で芸術的な絵に観惚れていた。行ったり来たりを最後まで繰り返し、未だに続けているとして終えるラストが気に入った。残りの二作は、過去に観た覚えのある作品だが、今回再見してみて、改めて見事さに感心させられた。ノルシュテインの作品で興味深いのは、その遠近感の表現法だ。いわゆる遠近法による構図や陰影ではなく、鮮明不鮮明による距離感の違いをうまく使っている。最も顕著なのは『霧のなかのハリネズミ』('75) だが、一方で切紙という極めて平面的な視覚イメージを強調しつつ、遠近による立体感や空間的奥行を強調していて、その不思議な視覚体験が幻想的なイメージとあいまって独特の視覚世界を展開している。見事なものだ。
 スタレーヴィチ監督の人形アニメでは『カメラマンの復讐』('12) が最も面白かった。1910年代の作品とは思えないほどの細密な動きと浮気を巡ってのユーモラスでシニカルな視線が、いっこうに古びてこない傑作だ。夫も妻も五分五分に浮気してての痛み分けというのがいい。
 人形アニメといわゆる実写が合わさった『新ガリバー』('36) では、オートメーション化された軍需工場の造形と膨大な数の人形の顔の造作が見事だった。
 革命後のソ連となってからの戦前アニメは、質的には特に目を引くものだとは思えなかったが、いずれも資料的価値に富んだ貴重な作品群であった。『カメラを持った男』('29) のジガ・ヴェルトフ監督が、その五年前にソ連初のアニメーション映画『ソビエトのおもちゃ』('24) を撮っていたとは初めて知ったが、作品的魅力には雲泥の差がある。むしろ同年の『惑星間革命』('24) のほうがオバカ映画的な愉快さを湛えていて魅力的だ。1924年に五年後に起こりそうなこととして、火星に逃げ出したブルジョワジーを宇宙船で追っていって革命を完遂するなどという映画が大真面目で作られた作品だとは思えないが、その設定は地球上からはブルジョアジーを駆逐し得たことが前提となるわけだから、マジでもノリでも、いずれにせよ勃興期の勢いだけは充分に感じられる。
 1920年代、30年代、40年代と三作品が上映されたツェハノフスキー監督作品では、カラー作品である『おろかな子ネズミ』('40) が最も面白かった。オペラ風の歌唱によるさまざまな子守歌が面白く、楽しめた。『バザール』('36) での音楽はショスタコーヴィチだったそうで、かなり音楽好きの監督だったのかもしれない。

参照サイト:「高知県立美術館公式サイト」より
http://www2.net-kochi.gr.jp/~kenbunka/museum/anime/anime2.html#story-top

by ヤマ

'01. 8.18. 県立美術館ホール



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