『カル』(Tell Me Something) 『クリムゾン・リバー』(Les Rivieres Pourpres) |
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ネットの掲示板で『カル』と『クリムゾン・リバー』は、異母兄弟のような作品ではないかとの投げ掛けをもらった。それぞれ韓国とフランスを母体にして、アメリカ娯楽映画を父に持つ同じ趣向の作品ということなのだろう。なるほどなと感心するとともに、前者が気に入らずに、後者を支持した僕としては、とても興味深く思えた。確かに、どちらも娯楽作品として、刺激的に観せることを強烈に意識した過剰さが、その猟奇的な味付けとともに実に印象深い作品で、双方とも古典的な映画のありようを逸脱した構成と展開をみせる。 前者のバラバラ死体は、物体としての肉の質感や量感を気味が悪いほど湛え、血の洪水が画面に迸る。後者の凄惨なまでのなぶり殺しによる死体の跡は、クローズアップのカメラで舐めつくようになぞられ、微細なところまで克明に映し出される。両者とも生きながらにして処置されたことが陰惨さを倍加させる。そして、どちらも連続殺人で、これほどまでにも猟奇的な殺人を続ける意図やいかにという形で、コンビの刑事が謎を追う。 僕が後者について一番面白かったのは、ヨーロッパの映画がここまでサービスするのかというほど、ハリウッド的な娯楽映画の異なるジャンルの要素を目一杯取り込みながら、破綻させずに観せ切ってくれた力わざの部分だった。それが、アメリカ映画の直線的なパワーとは異なり、暗く静かに沈んだヨーロピアン・テイストで綴られているうえに、たわいもないユーモアさえ織り込んでいたから、えらく新鮮に感じたのだ。加えて、ここまで大きく広げて仕掛けた猟奇事件の背景が個人的な怨恨や犯人の狂気という個人的動機だけに収束して拍子抜けさせられることがなかったし、また、個人的切実さが疑わしくて、映画として刺激的に観せるためだけに必要とされた展開に取ってつけたような理由で片を付けたりはしていなかったことに納得し、感心もした。そして、同時に、この部分こそが『カル』に不満を覚えた最大の理由でもあった。 『クリムゾン・リバー』にしても、確かにミステリーとしては、ある種ルール違反とも言える、唐突な「実は…」という種明かしがされるのは難点かもしれない。だが、盛り沢山な娯楽要素を取り込んでいたことが功を奏して、ミステリー作品としてだけ観ることを自ずと排除していたために、大きな傷と感じられなかったし、何よりも、他には破綻せずに収束させる方法はなかったであろうと思われる作劇上の切実さが、それゆえにこそ、察しをつけ得る余地があったと思えるという形で、観る側を納得させる部分を持っていたような気がする。 しかし、『カル』のほうは、どこまでいっても刺激的に観せるという作り手の欲求が疾走しているだけで、こういった納得を与えてはくれなかった。次から次へと犯人とおぼしき人物が登場しては、被害者と化していくのは、よくあるパターンでもあるが、それらはすべて最後に納得が得られてこそのものだ。幼時のトラウマを底流に歪められたものを育み、最初の殺人で快楽殺人に目覚めたであろうシリアル・キラーというのが、一応の種明かしなのかもしれないが、さまざまな共犯者をも得ていたことへの納得はできないし、渦中の美女スヨン(シム・ウナ) に「犯人の目的が知りたい」と台詞でも言わせておきながら、あの結末では納得できない。辻褄というものが、ぴたっと合わさってこないのだ。 児童虐待、近親双姦、レズビアン、快楽殺人、といった、韓国では、日本以上にタブー視されていそうな部分をしのばせた表現というものへの挑戦はあったのかもしれないが、これがもし仮に、上映主催者から聞いたとおり十年余り前に自主映画として、あの鮮烈な『五月−夢の国』を撮った製作集団チャンサンコッメの出身者が関与しているのならば、その志の低下には、一抹の寂しさを感じないではいられない。それは、バンリューと呼ばれる社会的弱者の居住区に暮らす若者を活写した『憎しみ』で鮮烈な印象を残してくれたカソヴィッツ監督が、ここでもまたエリート集団に見下されるはみ出し刑事たちが、結果的に、彼らの欺瞞と謀略をあばくことになる物語を撮っている心意気と好対照をなしていると思うのだ。 (それにしても『カル』では、続けざまにオ刑事、チョ刑事、ク博士という名で順番に登場してきて、近頃は外国映画でも日本市場は強く意識されているから、次はきっと、ル署長というのが出てくるぞと期待していたら、見事に外されてしまった。帰途、一緒に観に行った息子にその話をすると、すっかり呆れられたが、大いにウケた。) 推薦テクスト:夫馬信一ネット映画館「DAY FOR NIGHT」より http://dfn2011tyo.soragoto.net/dayfornight/Review/2001/2001_02_05.html 推薦テクスト:「cubby hole」より http://www.d4.dion.ne.jp/~ichiaki/2000-11.htm#カル |
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by ヤマ '01. 3. 7. 美術館ホール '01. 2.25. 東 宝 2 |
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