『金融腐食列島 呪縛』
監督 原田 真人


 東京では立見が出るほどにヒットしているそうだが、高知ではガラガラ。高知にいかに大企業がなく、エリート・サラリーマンと呼ばれる人たちがいないかということを痛感させられる。
 作品は、一連の金融不祥事の発端となった第一勧業銀行と総会屋との癒着不正融資事件をモデルにしたものだが、名前こそ朝日中央銀行などとしているものの、丸ノ内公園を挟んで大蔵省との位置関係を図示して見せる冒頭からしてなかなか思い切りがよく、歯切れと気っ風のよさを感じさせる。それが、なし崩しになることなく、最後まで作品の基調として保たれるところが爽快だった。
 大手都市銀行という巨大組織の上層部は、旧態然とした闇組織との凭れ合いによる既得権益と自身の権力保持しか考えておらず、そのためには不正も無理もお構いなしといった有様だ。それに苛立つ中堅若手職員の思いというものについては、スケールの違いこそあれ、質的にも構造的にも全く同じ体質を持っていると常々感じている役所に身を置く自分としては、強い共感を抱いた。大きな違いは、上層部のなかに本気でそれを受け止め、理解共感できる者が見当たらないこと。せいぜいで“装われた真面目さ”が、却って苛立ちを刺激したりするのが関の山だ。
 役所広司の演じる主人公北野のキャラクターがなかなかいい。一線を引きながらもなお君臨し、天皇と呼ばれる元頭取(仲代達矢)の娘婿でありながら、金融不祥事発覚に及んでなお保身工作に恫喝し、改革再生を阻もうとする彼を最終的には追い詰める若手改革派四人組のリーダーだ。ほとんどクーデターとも言える権力構造の転換を果たし、実質的な新体制の構築をおこなうことができたのが、彼ら若手中堅職員であることやそのリーダーが一見、最高実力者と近いところにいる人物であったりすることなどに説得力がある。
 北野が最高実力者の娘婿でなかったら、残りの三人が彼を立て、同志として参集したかどうか、また彼ら四人の作ろうとした流れに役員たちが同意したかどうか。もちろん、北野自身の清廉で恬淡とした人格が大きくものをいったとは思うものの、現実的に人を動かし得た分岐点に彼の置かれていた立場というものがあったような気がする。最初から最高実力者を追い詰めるつもりなど、北野自身にもなかったことなのだ。そのあたりをきちんと描いているからこそのリアリティなのだ。そういう立場の者が弓ひく形で立ち上がるはずがないと考えるよりは、ああいうことを果たしうる者がいるとすれば、あのような立場にありながら尚且つその矩を越えることのできる人物だったからこそだと考えるほうが現実に則している。
 ハイライトとなる株主総会の場面の緊迫感はなかなか見事なもので、いささか芝居がかった一般株主の出来過ぎの演説さえも、ちょっと甘いんじゃないのと思いつつも許してあげたくなったくらいであった。全編通じて言えることでもあるが、あくまでエンタテイメントして成立しているところが実に立派だ。そして、北野の妻を演じた風吹ジュンがいい感じを出していて、いっそう『コキーユ』を観たくなった。

推薦テクスト:「K UMON OS 」より
http://www.alles.or.jp/~vzv02120/imp/ka.html

推薦テクスト:「eiga-fan Y's HOMEPAGE」より
http://www.k2.dion.ne.jp/~yamasita/cinemaindex
/kicinemaindex.html#anchor000369
by ヤマ

'99.10.17. 高知東映



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>