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美術館夏の定期上映会“久里洋二ワンダーランド”
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実のところ、あまり期待していなかったのだが、思いのほかに面白い上映会だった。60~70年代の作品が大半だったのだが、90年代といういかにも冴えない時代に暮らしていると、あの頃はお馬鹿やってても何か活気があって面白く楽しそうな時代に思えた。あの頃はあの頃でけっこう大変な時代だったはずなんだけれど、どこか懐かしく羨ましい気分にさせられる。そのような、時代の気分が確かに宿っている作品群であった。 政治でも芸術でも性でも何でも、今はどの分野においても、マニアックな分衆文化の時代で、何らかの形でそれなりにイケてる者同士ばかりが集まって群れているが、あの頃は大衆文化の時代で、みんなが諸問題の全般にわたって程々の関心と体験を持っていて、連帯へ向けての幻想が無意識のうちにもみんなの心のなかに、あって当たり前という感じがあったような気がする。破天荒で過激でナンセンスだと一見みえる行為や主張、表現についても、どこか楽天的な“人間に対する信頼感”のようなものが滲み出ていて、妙に長閑かな気分にさせてくれたのは、今の時代から観ると、そういう前提が成立していたように見えるからこそではないだろうか。もちろん久里洋二氏自身のキャラクターによる部分も大きいのだろうが、そのこと以上に時代的なものを感じた。 個々の作品のなかで特に強い印象を残してくれたのは、『あなたは何を考えているの?』と『殺人狂時代』だった。前者は、“ラ・バンバ”の歌に乗って次々と繰り出されるイメージが、音楽と相まって映像のリズムとテンポと呼べるだけのものを作り出していて、それが軽快に刺激的で楽しかった。後者は、さまざまな手段による殺人のバリエーションがなかには陳腐なものを交えながらも、これまた軽快にいいリズムとテンポで繰り出されていた。久里氏は、自身の作品の作り方として、特に『11pm・ミニ・ミニ・アニメーション』に関して、さきに音楽ありきという作り方をしていたと語っていたが、他の作品においても彼のアニメーションで面白いものは、BGMとしての音楽ではなく、アニメーションの作品自体が音楽的なリズムとテンポを獲得できていたときだったような気がする。実写作品は二本しか上映されなかったが、とりわけ時代的な雰囲気が濃厚に漂っていた。 しかし、28タイトルの作品を観たなかで最も印象深かったのは、Cプログラムの海外アニメコレクションからの『鼻』だった。鑑賞会の元運営委員の門脇氏は、去勢不安が見事に描かれているとしきって感心していたが、それもさることながら、僕にはあの場面転換の見事さが実写では出来ないアニメーション独特の世界が生かされたものとして記憶に残っている。アーティスティックな味わい豊かな作品だった。久里氏の話では本国フランスでもきちんとした形では保存されていなくて、ときどき貸し出しを求められるとのことだから、何とも貴重なフィルムを目にすることができたことになる。もしかしたら、今回の上映企画のなかで最も値打ちのある上映だったと言えるのかもしれない。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
by ヤマ '99. 8. 8. 県立美術館ホール | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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