『菊次郎の夏』
監督 北野 武


 不思議と明るく、それでいて切ない情緒を呼び起こすような久石譲の主題曲と巧みなカット構成と編集が相まって、確実にある種の気分を誘発される。その上手さには感服するものの、何処かに抵抗感がある。

 こんなものだって作れます的なこれ見よがしの感じが作家の切実さとか誠意とかを逆撫でする嫌味をもっていて気にくわなかった『あの夏、いちばん静かな海』を思い出した。あれに比べると遥かに作家としての彼自身に切実な感情や感覚が表出されているのだが、シャイであるがゆえに露悪的で誤解されやすい言動をとるけれど、本当は優しく良い人なんだよという自己イメージを過剰に演出した自己セールスの作品だと思える部分が気に障る。北野武はまだしも、どうやら僕は、よほどビートたけしが嫌いらしい。ビートたけしの出なかった『キッズ・リターン』に最も好感をもっている。

 この作品においても、ビートたけしのキャラクターによる言葉の使い方やら遊びのセンス、ギャグなどが笑えるどころか、嫌味が気になって仕方がない。道中で出会ったキャラクターでいいなと思ったのは、麿赤児と細川ふみえ。正男少年の怖い夢のイメージと真剣な眼差しでお手玉をしているときの表情は、それぞれの役者のいい持ち味が出ていて気に入っている。
by ヤマ

'99. 7. 2. 松竹ピカデリー3



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