『刑法第三十九条』
監督 森田 芳光


 滅法面白そうな映画なのに、長期の東京出張以降の心身の不調で集中して観られなかった。それでも、人が職業として人の心に立ち入っていくことの不遜さと恐ろしさだけは、強烈に焼き付いている。

 精神科医であれ、精神鑑定人であれ、弁護士であれ、検事や判事であれ、心を裁かれる被告人と少なくとも同等以上に心身の健康を損なっているように見える様子が実に不気味だ。少なくとも、他者の心や存在に対する繊細さとか豊かな情緒性が感じられたりはしない。むしろ数々の苛烈な心と人格に接してくるなかで、知らず知らずのうちに病んできているとの印象を残す。ある意味では職業病なのかもしれない。

 そんな不気味な人たちが寄ってたかって、専門家の名のもとに一方的に下す所見が何も真実を語るものではないことを見事な緊迫感で綴っていく。鈴木京香の演ずる香深(かふか)の語る「心理学的な根拠やデータでは測りきれない人の心を観て取るのは、結局のところ観察者の主観でしかなく、そこには誘導も操作も思い込みも働かざるを得ない」というのは、実際のところだと思うが、職業人として人の心に関わっている人たちは、この映画を観てどう思うのだろうか、聞いてみたい気がする。多分、受け付けないんじゃないだろうか。

 キャラクター設定としては、香深が颯爽としたヒロインでないところが上手い。父の死に対して抱く心の謎に母親ともども深く傷つき、受傷を引き摺っているがゆえに、人の心の謎におどおどしながらも敢然と挑んでいくわけで、被告人との対決は、なかなかの見ものだった。




推薦テクスト: 「マダム・DEEPのシネマサロン」より
http://madamdeep.fc2web.com/392.htm
by ヤマ

'99. 6. 6. 松竹ピカデリー3



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

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