『ビッグショー! ハワイに唄えば』
監督 井筒 和幸


 前作『のど自慢』のボーナス編という商売優先の事情で撮られた作品だけに案の定の不出来作。『Shall we ダンス?』のヒットあたりからの流れにあるような気がする『卓球温泉』や『のど自慢』がそれなりに気持ち良く観られたのは、普通の人のささやかな冒険のなかにある自己発見が共感を呼んだからであって、松竹の寅さんシリーズのような特定のキャラクターに寄せる支持ではなかったのに、作り手の側は大きな勘違いをしている。
 この作品では、赤城麗子も庶民の側よりも業界人の側にいて、映画全体が業界ものになってしまい、普通人のささやかな冒険による自己発見など影も形もなくなっている。これまでの流れにあれば、作り手の視線が向けられるべきなのは、当然にしてハワイの日系人たちなのだが、彼らよりも、大スター都はるみやその周辺の業界人たちのほうがクローズアップされている。
 南米であれ、ハワイであれ、日系人とりわけその一世たちにとって、日本の演歌や童謡には特別な思い入れがあるらしいということは、これまで機会あるごとに強く印象づけられているのだが、そういった部分も「大阪しぐれ」が愛唱歌だったエピソードにほんの僅かな痕跡を残しているだけで、それよりむしろ、はるみファンたちのハワイまでの追っかけのほうがギャグとして強調されている始末だ。  上手くいけば“さすらいの演歌歌手”麗子と須貝の道中ものとしてのシリーズ化を狙ったのであろう魂胆が見え透いて、それなりに盛り上げたハイライトシーンの力だけでは、到底そこまでは無理だろうなという代物だった。
by ヤマ

'99. 5. 23. 東宝2



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