『ハイ・アート』(High Art)
監督 リサ・チョロデンコ


 ちょっと楽しみにしていたのだが、思惑外れであった。どうもしっくりこなかったように感じるのは、レズビアンというセクシャル・アイデンティティには僕が想像力でさえ思いを馳せる素地をもっていないということなのか、シド(ラダ・ミッチェル)の嵌まっていき方が今一つかっこよくも切実でもなかったからか、あるいは、意図的だと受け取るしかない暗い色調が僕には効果的に作用しなかったからなのだろうか。

 ルーシー(アリー・シーディ)とグレタ(パトリシア・クラークソン)の関係性の生み出す虚無退廃からルーシーが転換を求めようとする契機になるだけの存在感というものがシドには感じられない。必ずしも全てがシドゆえにではなく、もともとルーシーのなかで胎動していたものに点火をしただけだとしても、それさえ了解しにくいくらいにグレタ&ルーシーとシドでは存在感において役者が違うほどの差がある。恋に奇跡はあり得ない、いかなることも起こり得るのだからなどと言ってしまえば、それまでのことでもあるのだが…。

 チョロデンコ監督自身はレズビアンというセクシャル・アイデンティティを持っているのだろうか。シドとルーシーが初めて一夜をともにする週末の別荘。ベッドのなかでのシドの言葉や仕種には、女性どおしでのセックスを初めておこなうときのリアリティが細部に窺われたような気がする。そして、ルーシーを演じたアリー・シーディの視線や表情には、各種女優賞受賞も納得のインパクトがあった。
by ヤマ

'99. 9.29. 県民文化ホール・グリーン



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