『ハムナプトラ』(The Mummy)
『スター・ウォーズ、エピソード1 ファントム・メナス』
(STAR WARS EPISODE1 The Phantom Menace)
監督 スティーブン・ソマーズ
監督 ジョージ・ルーカス


 同じILMの特撮映画であるが、圧倒的話題の『スター・ウォーズ』よりも『ハムナプトラ』のほうが面白かった。アメリカン・コミックの乗りが上手く映画のリズムとして宿っている。何と言っても登場人物たちが個性的で生き生きしていることが、この手のシンプルな娯楽劇ではとても大事であることを再認識させてくれた。主人公オコンネル(ブレンダン・フレイザー)の明るくタフな活力とエヴリン(レイチェル・ワイズ)のインド娯楽映画を髣髴させる官能性と清潔感の同居する健康さ、調子の良い彼女の兄の存在やこすっからいベニーのキャラも利いている。アラブ戦士軍団の首領の渋いカッコよさ、敵役イムホテップの存在感もなかなかのもの。死から甦った彼が生き返らせようとする恋人だった王妾の目を見張る肢体も鮮やかだった。英語の話せない存在は映画の中では人間扱いされず、虫けらのように無造作に殺されたりするのがいかにもアメリカ的で少し嫌な気がしたが、主要な登場人物の個性が生きているからこそ、特撮が効果的に目を奪い、楽しませてくれたのだ。


 『スター・ウォーズ エピソード1』には、この二つが欠けていたから、特撮の凝り様においては『ハムナプトラ』以上だと感心させても、映画としては面白くない。二十一年前に観た『スター・ウォーズ』の第一作には、冒頭の宇宙船の動きに象徴的な、圧倒的な重量感と静けさを漂わせる“静・重・遅”とクライマックスでの宇宙戦闘機X艇Y艇の動きに象徴される、軽快で疾走感に目も眩むような“動・軽・速”とが実に効果的な映画のリズムを刻んでいたし、主人公のルークやレイア姫以上にハン・ソロやチューバッカー、ダース・ベイダー、C-3PO、R2-D2などがキャラクターとしての魅力を放っていた。

 今回その点の対照をすれば、ケノビ(ユアン・マクレガー)とアナキン(ジェイク・ロイド)がルークにあたり、クィーン・アミダラ(ナタリー・ポートマン)がレイア姫、クワイ=ガン・ジン(リーアム・ニーソン)がハン・ソロ、ダース・モール(レイ・バーク)がダース・ベイダーでジャー・ジャー・ビンクスがC-3POにあたるような気がする。そのようにして観れば、ユアン・マクレガーが間の抜けた存在感しか発揮できなかったのも判らないではなく、映画がリーアム・ニーソンを軸に展開していたことも第一作と同じだ。しかし、総体的にどのキャラクターも第一作に比べて見劣りがする。クワイ=ガン・ジンにはハン・ソロのようなユーモアや洒落がない。また、C-3POにはR2-D2という絶妙の相棒がいたから、一人語りでありながら掛け合いでもある独特のリズムがあったのだし、こんな人間臭いロボットは今まで観たことがないという衝撃があった。そのように際立ったものがジャー・ジャー・ビンクスにはなくて、ドジで微笑ましいだけの存在だ。そして、決定的なのはダース・モールの存在感がダース・ベイダーの足元にも及ばないことだ。そのうえ、銀河共和国会議のありさまに何やら国連批判めいたものをチラつかせたりしていて欝陶しい。

 初期の『スター・ウォーズ』に拮抗するだけのストーリーやキャラクターを創造できなくなって、ルーカスの関心はひたすら見せ物としてのクリーチャーの創造に向かったように思える。その無残な結果が十六年前の第三作『ジェダイの復讐』だった。それからすれば、驚異的な技術革新によってクリーチャーの動きは、豊かな表情を表現するにいたっており、見事と言うほかない。だが、そこに感心はしても、感動はなかった。もっとも異形の生き物という点では、我々の文化には浮世絵の昔からさまざまな妖怪、魑魅魍魎のイメージを蓄えてきているので、それだけではインパクトが弱いということなのかもしれない。アニミズムの名残りなのか、唐傘や一反木綿などの日用品さえも自らの意思と動きを持つ妖怪となり得るわけで、せいぜいで人間の変形や動植物の変形それもバリエーションの豊かさでは寂しい限りに見える欧米文化において『スター・ウォーズ』のクリーチャーたちが持つであろうほどのインパクトが僕には得られなかった。水木しげるの世界やら円谷プロの怪獣やら、豊かな創造性の所産としてのクリーチャーたちを手にしている目には、それほどの新鮮さがなかったのだ。




*『ハムナプトラ』
推薦テクスト:「FILM PLANET」より
http://homepage3.nifty.com/filmplanet/recordM.htm#themummy

*『スター・ウォーズエピソード1 ファントム・メナス
推薦テクスト:夫馬信一ネット映画館「DAY FOR NIGHT
http://dfn2011tyo.soragoto.net/dayfornight/Review/1999/starwars1/episode1_5.html
by ヤマ

'99. 7.29. 東宝2
      '99. 7.30. 東宝1



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