『銀河鉄道の夜』
監督 杉井ギサブロー


 全編通じて感じられる生の脆さと死の影というものが、ただの暗さに終らずに実に澄み渡った透明感として現われて来るのは、きっと信仰により育まれた魂の透明さによるのであろう。宮沢賢治の特質を実に見事に映像化している。彼の天上への憧れ、死への畏敬、信仰の美しさ、汎世界志向、そういったものが素直に観ている側に伝わってくる。  「銀河鉄道」美しい言葉である。天上と地上とを結ぶ道。星の河でもミルクを流した跡でもないとしたら...銀河から鉄道に繋るアナロジーは、深いイメージを内包している。銀河は星に、星は天上に。鉄道は旅に、旅は人生に。連続性から永遠に到る生命の流れを感じさせる。銀河鉄道の旅のなかでジョバンニが観たものは、それゆえにまさに人生の真実なのだという説得力がある。そして、その説得力が宮沢賢治のイマジネイションの産み出したものであることを思う時、日常的な事物から思いも掛けない美しい世界を造りあげる、人間の想像力というものの偉大さに改めて感慨を覚える。あのイメージの豊かさと静けさとは、一体なにものなのであろう。  映像も美しかったが、それ以上に音楽が見事であった。細野晴臣という人を見直す気になった。
by ヤマ

'85. 8. 2. 名画座



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>