『私生活のない女』(La Femme Publique)
監督 アンジェイ・ズラウスキー


 芝居と己が実生活という、虚構と真実の二つの世界で生きる女優という職業。その女優に主人公がなっていく過程で、実生活のなかでも何が虚構で何が真実か解らない政治的陰謀事件に巻き込まれ、翻弄されながらもしたたかに生きて行くさまを描いた作品というところなのだろうが、成功しているとは言いがたい。芝居(ドストエフスキーの『悪霊』)の部分で安っぽく多用される観念語がやけに耳障りだし、登場人物達のとる行動ないし行動様式がやたら常軌を逸しているくせに、それにそれなりの説得力を持たせるだけの描写や演出がないので、何か思いつきだけで作品を撮っている印象を与える。更に極めて安直に政治色を打ち出すに到っては、いよいよエセ・インテリの嫌らしさ丸出しである。何かにつけてゴダールの悪影響を受けているように感じた。
 ただ、主演のヴァレリー・ガブリスキーのヌード・ダンシングのシーンだけは美しく、また躍動感に溢れていて印象深かったし、その設定が場末のモデル付貸しスタジオというのもちょいといい。ガブリスキーその人は、『聖女アフロディーテ』でもそうだったように知性と品性に欠け、肉体だけが取り柄との印象なのだが、精一杯熱演していたように思う。
by ヤマ

'85.10.31. 名画座



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