『黒いオルフェ』(Orfeu Negro)
監督 マルセル・カミュ


 ギリシャ神話のオルフェウスとユーリディウスの物語を南米ブラジル、リオ・デ・ジャネイロのカーニバルを背景としたなかに再現した作品である。オルフェウスとユーリディウスの物語のプロットをきっちりと踏んでいるし、神話らしく死と再生の構成でもってラストを締めているし、よく出来た作品なのだろうが、今一つ面白くないのは、きっとこれが神話の再現だからであろう。先がまるで読めていて、ぐんぐん引き込まれる余地が少ない。いかに再現をうまくおこなうかという表現技法、あるいは再現と原典との調和や対照についての味わいはあるにしても、それらは、所詮距離を置いたものでしかあり得ないし、内容的には、この作品にそれ以上のものは描かれていない。
 それにもかかわらず、この作品は、奇妙に印象深く残ってしまう不思議な映画である。観ているときは、そう際立って面白い訳ではないのに、日が経つにつれ、印象に残っていることに気づかされ、軽い驚きを抱く。そして、改めて自らの内に、その理由を求めたくなる。結局それは、前編に溢れる圧倒的なサンバのリズムとカーニバルの持つ祝祭のエネルギーなのだろう。つまり、知的な映画に見えて、その面で観ると物足りないが、実際は、身体的な感覚に訴えてくるパワーがメインになっているともいうべき作品なのである。一見知的に見えるだけに、つい頭で鑑賞してしまうのだが、見事にその足元を掬われてしまう。なかなかのしたたかさではないか。
by ヤマ

'85. 8. 7. 県民文化ホール・グリーン



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