『The SM』
監督 伊集院 剛


 今、ポルノ界で流行のビデオ・ドキュメントものである。この手のものとして初めて観た代々木忠の『オーガズム』と比べるとインパクトが弱いのは、単に馴れのせいだけではあるまい。行為として映像に浮かんで来るもの自体は、こちらの方がハードなのにそうなるのは、一つには、この作品が行為のヴァリエーションをカタログ風にあちこち追っかけただけで薄っぺらくなってしまっているからだ。さらには、それとも関連があろうが、行為が写し取られているだけで、人間が描かれていない。
 『オーガズム』では、モデルの女性の行為による肉体的・精神的変化というものに執拗なほど喰い下がる視線を持ち続けるなかで、やらせの部分を越えたところで、彼女一個人のものとして以上に、女という存在の肉体の貪欲さ、精神の図太さ、性というものの深遠さを窺わせた。それに比べると、今回描かれた幾つかのエピソードは、行為の表面をなぞっただけで、どれをとっても普遍性へと通じる深みに欠ける捉え方でしかない。現代の性風俗の特殊な一部を垣間見るということにおいて幾らか価値があったとしても、そのていどは既に知っている者に対して、何らかの発見やプラスαの衝撃を与えるものはほとんどない薄っぺらさだ。
by ヤマ

'84.11.21. 銀座名画座



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