ダイビングの事故を防ごうと、東京医科歯科大学医学部の眞野喜洋教授らが中心になって作られた「安全潜水を考える会」も今回で7回目。 これまでに1回目、4回目と参加し、今回は実際に減圧症になってしまった方々からの貴重な話も聞けるとの事で、またまた行って参りました。
いったん減圧症にかかってしまうと、数時間に渡る高気圧治療を何回も受けなくてはならず、医療費も、会社を休んだりするのも大きな負担となりますし、何よりも数ヶ月に渡り後遺症が残る事、復帰するには完治してから半年以上、つまり1年近くも潜れなくなってしまうのは、精神的にも非常な苦痛を伴うと思います。
「自分だけは大丈夫!」と思ってる方は、、、ぜひこういう場に出かけて、直に話を聞いて頂ければと思います。
日 時 '04年11月27日(土) 14:00〜17:00 場 所 東京医科歯科大学 講堂(東京・御茶ノ水) 参加費 3千円 主 催 東京医科歯科大学医学部 眞野喜洋 教授 (公式HP) 内 容 5名の発表者による発表、パネルディスカッション、高圧室見学、懇親会
紅葉の御茶ノ水駅前
レジャーダイバーの減圧症発生率を考える 東京医科歯科大学医学部 眞野喜洋 教授
- 港湾土木、水産業、海中探査、海女など、国内に一万数千人いるプロ(職業)ダイバーはしっかり安全管理して潜るため、減圧症の発生率はスクーバ潜水での30m以浅では0.06%、30m以深でも0.07%と極めて低い。
- レジャーダイビングの事故は、水深5m以浅で1/2、10m以浅で2/3が発生。また、経験本数10本以内の事故が1/3あり、指導者の配慮不足と言える。
- ダイブテーブルは屈強で極めて健康な軍人をベースに作られてたりするため、そのまま鵜呑みにしてると、7〜8%の人が減圧症になりかねない。ダイコンもテストダイバーがベースであり、体調や年代などを考慮しないと、コンマ数%の危険率も数%に跳ね上がってしまう。ダイコンをそのまま信じるのは本来の安全管理ではなく、最低5分はボトムタイムに余裕を持たせるなど、考慮しなくてはならない。
- '96〜'03年に16回、大瀬崎で3,819人に渡る現地対面調査を実施した結果、減圧症の発症率は1.89%、19,104本に1回発生しており、諸外国より高かった。潜水障害の種別としては、窒素酔い、耳の圧障害、副鼻腔の圧障害、減圧症の順に多く、ダイバー人口は20代が多いのに、30代以上に発症者が多い。経験最大深度の平均が37.4mと深い事、高所移動が多い事などが原因と考えられる。
- 講習では、水中と会話できる手段を準備したスタンバイダイバーを海面に用意する、最初の10本は10m以深は潜らせないなど、減圧症を出さない工夫が必要であり、パニック予知を見抜いたり、事故を起こさない気配りなど、イントラには質的能力が求められる。
減圧症に至る経過とその後のダイビング復帰による再発を経験して 中澤博子 氏
- ダイビング歴10年、550本のマクロ派レジャーダイバーが'02/10に柏島で減圧症を発症、1年後に川奈で最大水深6mで復帰するも後遺症をぶり返し、さらに'04/3にモルディブで最大水深8mで再発してしまった体験談の紹介。
- 普段は東伊豆の川奈の浅瀬で1日1本とのんびり潜ってたものの、'02/10に柏島でレアなハゼにカメラ片手に油断して、4日間で10本、最大水深41mで60分、減圧停止ダイビングもあり、最終DIV後に指先に痺れが発生。2〜3日後に疲労感がひどくなり、10日後に医科歯科大へ行き、減圧症と診断。5回チャンバーに入るが足先の痺れが残り、早く診察を受けなかった事を後悔。医療費より、会社を休む事が大変だった。
- '03/11に川奈で最大水深6mで復帰するも、ドライで3mから吹き上げてしまい後遺症がぶり返し、服薬で治療。
- '04/3にモルディブで最大水深8mで再復帰するも、関節痛、筋力ダウン、疲労感など再発してしまい、チャンバーに7回。
- チャンバーに入ると症状が良くなったり、かえって悪化したりを繰り返し、最初の1〜2ヶ月は手足が痛く字も書けない位に筋力が低下、その後は治まるも、左手の痛みがまだ続いている。
- 台風やエレベーター、高所移動など、ちょっとした気圧の変化でも症状が悪化してしまう事も。
- 復帰は完治してから半年以上経ってから、潜って症状に変化があれば休養期間を延ばす事、復帰は浅い水深・短時間から徐々に、窒素量と圧力変化の両方に注意する事。休養中には減圧症や理論をしっかり勉強し、ダイビングスタイルを見直す事。
- 自分は大丈夫と思い込み、減圧症に理解のないダイバーも多いため、減圧症メーリングリストを立ち上げ、現在120名位が参加している。
- 以前はダイコンを高所モードにしてたが、安全停止で1人残った時に漂流しそうになり、どちらのリスクが高いか考えて通常モードに戻してから発症してしまった経緯もあり、ガイド自ら高所モードにしてもらいたい。ダイビングはいつも減圧症と隣り合わせであり、サービスも酸素を常設して欲しい。
レジャーダイバーの私が経験した減圧症とその後の経過 佐々木伸樹 氏
- ダイビング歴12年、800本のレジャーダイバーが'03/1に大瀬崎で減圧症を発症、'03/9に復帰し、その後37本潜っている経緯を紹介。
- 発症の起因となるプロファイルを考えてみると、40歳以上、睡眠不足、水分摂取不足とコーヒーによる脱水、仕事の疲れ、1本目37m、2本目33mの最大水深、水深5mから1分内の早い浮上速度、帰路の熱函道路の高所移動(標高430m)などが考えられる。
- 帰宅後、左薬指の感覚がなく、翌朝は左肩から指先までの倦怠感、5日後に診察を受け、3週間で5回チャンバーへ。
- 3ヶ月ほどで症状は緩和するも、5ヵ月後に肩こりと首の痛みから再診。減圧症とは関係ないとの事で、カイロプラティックで改善するも、骨の痛みみたいなのが残り、これが減圧症の痛みと再認識した。
- 再開まで、酸素プロバイダー、ナイトロックスを取得し、水分をこまめに摂取して体内の水分量を維持する「ウォーターローディング」を励行。
- ダイコンのシミュレーションなどからも酸素吸入による窒素の洗い出しが有効と考え、浮上後の酸素吸入を実施し、無事に復帰している。
パネルディスカッション「レジャーダイバーの減圧症治療を考える」
東京医科歯科大 山見信夫氏 外川誠一郎氏、中澤博子氏、佐々木伸樹氏
- 後遺症の治療は、高気圧治療するか投薬治療するかの判断、通院や検査など、医師も患者も大変。
- 調子の良い悪いを繰り返しながら良くなってくのが普通。減圧症の他に重複した障害に対しては論文もなく、どうしたら良いのか悩むところ。
- 最大水深10m以浅では減圧症にならないという話もあるが、発生した事例が8例程ある。
- 酸素による窒素の洗い出しは早くやった方が良いが、現在の法律では水中では純酸素を吸えない。現在、新しい再圧表を検討中で、酸素やヘリウムの使用の法規制も考えていきたい。
- 症状がなくても年1回チャンバーに入るのは、減圧症の予防には全く無意味である。噂の理由は、肩こりや腰痛、疲労感がリフレッシュされただけと考えられる。
- 医師によって治療法や考え方が異なる事があるのは、どんな病気でもそうだが治療法は様々あるため。特に潜水医学は患者の絶対数が少なく、ここ2〜3年でもこれまでの考え方が大きく変わりつつある。疑問を感じたらまずはその場で医師に確認し、納得できなければ別の医師のセカンド・サードオピニオンを求めて自分で整理するしかない。なお東京医科歯科大学でも医師間の考えの異なる点も多々あるが、定期的なカンファレンスを持って全症例を確認し、ベーシックな部分は統一させている。
- 最近は減圧症の症状をマイルドかシリアスかで判断し、マイルドについては治療しないという考え方も増えつつある。診察に30〜40分かかって高気圧治療に数時間、患者の急増から限られた枠の中でどの患者を優先すべきかという実情もある。
- 一般レジャーダイバーの得られる情報が少ないが、DAN、社会スポーツセンターなどの機関が情報整理して、入手しやすい形で提供すべきではないか。
- リュウマチ等と同様、減圧症も台風などの僅かな気圧変化で症状が重くなるという話も聞くが、窒素のサイレントバブルを形成させるには水深2.8m相当の300ヘクトパスカル以上もの圧力変化が必要であり、直接の因果関係は考えられない。免疫機能などには影響あるとも考えられる。
- 減圧症後の血液検査で、GTPや尿酸値に変化が見られたというのは、数値は日々変動するものであり、減圧症との直接の関係は考えられない。ストレスによるGTPの変動、貧血でしびれが取れにくいなど、他の疾病のとの関係があるかもしれない。
溺水による心配停止救命事例 (有)マスターワークス 伊東和雄 氏
- CPRプログラム開発を行ってる(有)マスターワークス代表取締役で、NAUIイントラでもある伊東氏が遭遇した、大瀬崎での溺水事故の事例。
- 講習中にはぐれた19才女性が砂止め辺りの沖合い80m、水深2mで溺水してるのを海水浴客が発見し、付近にいたイントラら数名が引き上げ、担当してたイントラが人工呼吸し、通りがかった伊東氏が心マッサージを担当。
- 駐車場へ軽トラでの搬送途中、ライフガードの持ってきた酸素蘇生器は残圧がなくて使用できず、駐車場で大瀬館のトリガー式の酸素蘇生器が到着、たまたま海パン姿の医師が居合わせ、人工呼吸から手際よく陽圧酸素に切り替えられた。
- 救急隊到着後、渋滞を避けて海上輸送による迅速な搬送、当時は最新の脳低体温療法が取られ、40分近い心肺停止から奇跡的生還を遂げた。しかし7年経った現在も、低酸素脳症による後遺症のリハビリを続けている。
- 早期CPR開始、医療従事者の早期介入、迅速な搬送、早期救命医療などが助かった要因であるが、CPR開始直後から高濃度酸素の提供や、除細動による心拍回復が出来なかったのが悔やまれるところである。
- DANでも「酸素を持たずに潜水するな」と言っているが、酸素の扱えないイントラはお客を連れて海に行くべきではない。
- 伊豆半島ではかなり救急医療のネットワークが発達してきてるが、個々のイントラの酸素に対する意識はまだまだで、指導団体としての啓蒙も不十分である。
レジャーダイバーの耳のトラブル 三保耳鼻咽喉科 三保 仁 氏
- よく誤認識されている、中耳気圧外傷、外リンパ瘻(内耳窓破裂)、内耳型減圧症、再生鼓膜(既往の中耳炎)、SUDAFED(耳抜き改善薬)を紹介。
- 中耳気圧外傷とは、耳抜き不良による中耳のケガで、鼓膜の内出血により耳に水が入って取れない感じがするもの。ひどい場合はピンホール(鼓膜穿孔)が開く事もあるが、耳抜きがいらなくなって気付かない人もいる。耳の水が取れない感じが続けば潜水は中止する事。急性中耳炎と間違えられる恐れもあり、潜水医学に詳しい医師に診てもらうべきである。
- 外リンパ瘻(内耳窓破裂)とは、耳抜き不良でピンホールにならずに内耳が破れてリンパ液が漏れてしまう状態。強く息むバルサルバで無理やり耳抜きを続けてる人に起きやすい。浮上直後から何日も続く耳鳴り、難聴、めまいが症状。水中でめまいを起こすと溺死する事もあり、直ちに潜水は中止する事。突発性難聴と間違えられる恐れもある。
- 内耳型(メニエール型)減圧症とは、浮上後1時間以降から、耳鳴り、難聴、めまいなどが生じる、内耳に起きる減圧症。直ちに酸素吸入し、専門医の診察を受ける事。
- 再生(萎縮)鼓膜とは、過去の中耳炎で3層のうち1層しか鼓膜が再生してないもの。耳抜き不良やピンホールを起こしやすく、中耳炎病歴のある人は専門医の診断が必要である。
- SUDAFEDとは、海外で市販されてる血管収縮剤(風邪薬)で日本では購入できないものだが、海外では耳抜きをしやすくする薬として薦められてた時代がある。確かに一時的にはしやすくなるが、効果が切れるとリバースブロックで浮上できなくなり、血管に作用する薬は窒素計算が出来なくなるため、現在では潜水時の「使用禁止薬」の筆頭に挙げられている。
高気圧治療施設見学
- 最後は希望者を募り、恒例の見学会で、実際に十数名が入り、水深10m相当までの加圧を体験。
- 実際の潜降速度に比べてかなりゆっくりと加圧されるため、頻繁に耳抜きしなくてはならず、耳抜きがしにくいのだとか。