■第1回「安全潜水を考える会」



ダイビングの事故を防ごうと、東京医科歯科大学医学部の眞野喜洋教授らが中心になって「安全潜水を考える会」をつくり、一般の人々に参加を呼びかけ、集会を開いていくそうです。 1回目の集会が11月19日に開催され、参加してきました。

内容は、10名の発表者がそれぞれの立場から、安全潜水について15分発表、5分質疑応答する、というものです。 指導団体、器材メーカー、ダイビングサービス、特殊救難隊など、いわゆるダイビング業界の方々の話が聞けて、なかなか興味深かったのですが、発表時間が15分と短かくさわりの部分だけで終わってしまったのが残念で、発表者数を減らしてでも、もっと詳しく聞きたかったです。 参加者は200〜300名くらいでしょうか、平日だったこともあり、ダイビング業界の方が多かったと思います。

なお、このレポートはあくまで個人的なものであり、発言者の意図とそぐわない部分、誤記もあるかと思いますがご了承頂き、また誤りについてはご指摘下さい。 正式な発表集は、来年4月、参加者に送られるそうです。

日 時'98年11月19日(木) 14:00〜18:00
場 所東京医科歯科大学 講堂(東京・御茶ノ水)
参加費3千円
主 催東京医科歯科大学医学部 眞野喜洋 教授
内 容10名の発表者による発表・質疑応答
  dr_mano.jpg
眞野教授


・ 開会の辞  東京医科歯科大学医学部 眞野喜洋 教授

今回の会は学会ではないので、医師の論文のようなものはお断りした。 日本のダイビングは'53年頃に始まり、'81年ではCカードの累計発行枚数が1万枚程度だった。 BCの普及に伴い'87年には30万枚と急増した。 去年1年間では9万枚、累計で96万枚にもなるが、実際の潜水人口は30〜50万人だろう。 それに対し、事故の件数は年50件程度と変わっていない。 率にすればゲートボール並みの発生率で、決して危険なスポーツとは言えない。 正確なデータがなく、なかなか計算は難しいが、タンク数1〜2万本に1件の事故が発生しているのではないか。 最近、海外ではナイトロックスが普及しているが、将来的にはトライミックスに移行するだろう。

・ ダイバーだからできる環境保護活動について  潜水指導団体「STARS」 岡本康夫 氏

ダイビングは、子供が原っぱで遊ぶようなものであり、水中環境が保全されてこそ楽しめるものである。 ダイバーは、水中の遊び場を守るべきである。 しかし海での遊びから、自然の大切さを学ぶような市民団体がまだないのが現状である。

ダイビングは、安全で、楽しくて、手軽にできるべきであり、指導の分業化を提案したい。 ゴルフやテニスには、教え魔がたくさんいて始めやすい。 そこで、訓練された中上級ダイバーが、プールでスキンダイビングの手ほどきをし、インストラクターがスキューバダイビングを教える。 現在の講習では、スキンダイビングの指導が半分以上を占め、教える方、教わる方共に、ストレスになっている。 ただ、効果的な指導法、スキンダイビングのトレーニングの出来る公共プールなど、まだまだ課題があるが、取り組んで行きたい。

・ 「ダイバーによる定点観察」海の多様性を楽しむ方法  スリーアイ初代代表理事 高橋 実 氏

ダイビングは潜るたびに新しい発見があり、あちこちの海に潜りたいがそれには金と時間がかかり過ぎる。 そこで、近場の海で頻繁に、違う切り口で潜る事を提案したい。 時間帯、潮の干満、季節を変えて潜る事で楽しむ事が出来る。 そのためには、見たものはちゃんと記録する事であり、水産試験所などから依頼を受けて調査をしているが、スポット法、ベルトトランセット法など、色々な手法がある。 また、環境にストレスを与えないスキルを持つ必要があり、「心技体」をしっかりしなくてはならない。

・ 大瀬崎のダイビングシステムについて  はごろもマリンサービス 赤堀智樹 氏

大瀬崎は、'80年にダイビング雑誌で特集され、'83年に最初のダイビングサービスがオープンした。 今や500mの海岸に、10件のDS、12件の宿泊施設が並び、多い時では日に2,500〜3,000人、年に8〜9万人のダイバーが訪れる世界一の規模のダイビングスポット。 うち7割のお客が日帰りである。 当初はルールもなかったが、'84年には大瀬崎潜水利用者会を設立し、密漁者の取り締まり、自主ルールの確立を行った。 以降、大瀬崎潜水協会、大瀬崎潜水エリアルールなどが出来、潜水時間・場所、入海料などが定められた。

大瀬崎での死亡潜水事故は、'91〜'98年で、1人、3人、4人、4人、1人、2人、1人、3人となっている。2/3が湾内で発生し、講習生からベテランまで、いつ何時起きるか分からない。 事故は6〜9月に多く、ブランクダイバー、ガイドなしのダイビングに多い。

眞野教授:事故りやすいのは、ガキ大将だったような自己中心的な人。いじめられっ子だったような人は何事にも慎重で、事故を起こしにくい。

・ ダイビングスポットの安全性の向上とトラブル対策  (株)シービーエフ(三井造船) 浦野光央 氏

ダイビング専用ブイの提案。 専用ブイを設置する事で、エリアを設定し海図にも載る、アンカリングによる破壊防止、漁業者とのトラブル回避、ダイビングゲレンデや安全停止ステージなどの設置による安全性の向上、などのメリットが考えられる。 宮古島で説明したら好感触だった。 但し、設置には1台1千万円程かかり、利用料を取り、漁業者や行政に管理してもらいたいと考えている。

・ ナイトロックス潜水の実施に当たって  八幡野ダイビングセンター 河合正典 氏

海外では、ほとんどのエリアにあるナイトロックスだが、八幡野ダイビングセンターでは今年4月から開始した。 伊豆ではまだ4〜5ヶ所のみである。 オペレーションしやすいよう、酸素濃度32%のみを用意し、利用者の5%程度が使用している。 静岡は法規制がうるさく、充填はガス屋でやってもらってる為、料金は高めになってしまう。

今感じているのは、ナイトロックスの是非に関する情報が混乱している事である。 問い合わせも多いが、明確な回答が出来ず、医者、指導団体、メーカーから提言頂き、早急に業界のコンセンサスが欲しい。 八幡野ダイビングセンターでは、ガイドは全員ナイトロックスを使っており、体が楽で利点が多い。

眞野教授:活性酸素については、100年そこそこの寿命では全く問題ない。 逆にスペシャリティも必要ないのでは? 単に深度の問題だけだし、決して特別なものではない。 料金も海外では5$程度と普通のエアより安く、解決すべき。

・ 潜水事故の原点を考えて見よう  ウエタックス(株) 植木正孝 氏

25年前、ジャイアントケルプの海で友人のダイバーを亡くした経験から、水中で音を発する装置を考えてきた。 今回、水中スピーカーでブザー音の発信出来る装置を開発した。 外観は水中ライトみたいで、9V電池で作動し、10m位まで音が届く。 ちなみに潜っている時、高い音は鼓膜の外に残った空気を通して聞こえるが、低い音は骨伝導で聞こえている。 ただし、呼吸の泡、浅い水深、海流などは聞きにくくなる要因で、慣れによっても聞こえ方は変わってくる。 プールや洞窟などでは、反射音がありよく聞こえる。

また、マウスピースの先に付けた装置で、話せるものも開発中。 若干、不明瞭な発音になるものの、1オクターブ上げて再合成し、十分に会話ができるものである。 ちなみに、超音波で伝えるものは割り当てられた波長から4人までしか使えず、逆に数百mも届いてしまい混信してしまう問題がある。

・ 事故発生を予測し、事後対策を考える  潜水指導団体「ADS INTERNATIONAL」事務所長 鈴木 栄 氏

スキューバダイビング安全会事務局では、官庁、マスコミ、個人等からダイビングのトラブルや事故の相談を受け、折衝を行っている。 水難事故が発生すると、器材が持ち込まれ、検査をする事が増えている。 最近では、「事故」から「事件」への捉え方に変わってきている。 また、官庁やマスコミも知識を持ってきていて、「ここが調子悪かったのではないか」「イントラ・ガイドに対する生徒・客の数が多かったのではないか」など聞かれる事も増えてる。

質問者:その場でバディを組まされた場合、MSDだと責任を問われるのではないか?
眞野教授:善意から出た行為に対しては、バディや第三者の救助者に対しての責任は及ばないが、民事上は分からないのでは。

・ ケーブダイビング中、レギュレータのホースが破裂  JCS日本海中技術振興会 佐藤矩郎 氏

日本では漠然と潜ってるダイバーが多いが、欧米ではケーブ、沈船、大深度、流氷ダイビングなど目的が明確で、使わざるをえない状況にあるためナイトロックスなど、テクニカルダイビングが普及している。 またオウンリスクのため、事故が起きても誰も責められないが、その原因については徹底究明し、器材や環境を整備し、進化させている。 日本は事故を隠したがり、器材も欧米のを利用しているだけ。 事故の後は処罰するだけではなく、対策を練る事が大切。 トラブルはしょっちゅうあるもので、それを回避するのがスキルであり、どんな場合もきちんと装備をしていれば対応出来るはずである。

・ 海難救助の活動について  羽田特殊救難基地 特殊救難隊長 岩男勝実 氏

救難隊の23年の歴史の中でも、潜水事故での出動はほとんどない。 自分の命はまず自分で守る事、バディはあくまでサポートである。 パニックダイバーを助けるのはまず不可能と思っていい。 失神するのを待つしかないのでは。 自分自身、うねり、白波、視界ゼロの海でしか潜った事が無く、今度はレジャーダイビングをしてみたい。

眞野教授:ちなみに減圧症患者はヘリでの搬送は難しい。アメリカでは高度300mまでとなっているが、100m以下にするのが望ましい。医科歯科大に作ったヘリポートは64mなので大丈夫だが。

・ ダイビングCカードに付帯するダイビング旅行保険制度  CMAS=JEFF 笠原健男 氏

かつてオリンピックに素潜り競技があったが、死亡事故で廃止された経緯がある。 ダイビングは危険なスポーツとの認識があるが、今ではそうではなく、保険も出来た。 保険システムが安全確保に大きく貢献してきたとも言える。 Cカードに保険を付けるシステムをやっているが、85%が継続している。 あとはブランクダイバーと思われる。 また、Cカード自体の更新制度をずっと提案しているのだが、なかなか受け入れられていない。

眞野教授:DANに限らずどの保険でも構わないから、ダイバーは必ず保険に入るべきである。


[Home] [Back]  " My Diving Page " by Lonver at 98/11/28.