ダイビングの事故を防ごうと、東京医科歯科大学医学部の眞野喜洋教授らが中心になって作られた「安全潜水を考える会」も今回で4回目。 1回目以来ご無沙汰でしたが、今回は新しくなった「大型高気圧治療装置」の見学・体験会があるとの事で、久しぶりに出かけてきました。 生々しい話もあり、身が引き締まる思いをする感もありましたが、ふんどしを締めなおすメリットもあるのかもしれません。
日 時 '01年10月27日(土) 13:00〜18:00 場 所 東京医科歯科大学 講堂(東京・御茶ノ水) 参加費 3千円 主 催 東京医科歯科大学医学部 眞野喜洋 教授 内 容 6名の発表者による発表、新高圧室見学
医科大における新しい高圧室と減圧症治療の歴史
東京医科歯科大学医学部 眞野喜洋 氏
- '66年に国家プロジェクト「海中居住計画」に基づいて1号機を設置、飽和潜水実験、減圧症治療などに使用。
- '78年に2号機を新造、高気圧酸素治療にも利用。
- '01年に3号機を新造、本格的に活動。主室A・B、副室の3室を個別に制御でき、最大16名を収容。6ATA(絶対気圧)まで加圧可能。制御は全て2系統で故障などに対応。出入り口は自動スライドドアで段差がなく、ストレッチャーの出入りも容易。Heliox(ヘリウム/酸素=60/40%)吸入で、加圧しながらも体内の窒素を放出できる。圧縮空気予備タンクは錆びないステンレス、送気空気は屋上から取り入れて除塵・除臭・除菌するなどのこだわり。
- 近年、インストラクターの減圧症が増加傾向にあり、オーバーワークによる疲労も一因と考えられ、対策が必要。
- アメリカではダイビングでの酸素の携帯が必需となっているが、ナイトロックス、潜水後の酸素吸入も、減圧症の予防、応急措置にも有効である。
レジャーダイバーの耳、サイナスは大丈夫? 酔いやすいダイバーは気をつけて!
牛久愛和総合病院 芝山正治 氏
- '96年から年2回、大瀬崎のダイバーにアンケートを実施し、年500件、2,691データを集めたが、約23%のダイバーが身体的トラブルを経験している。
- 耳のトラブルは約10%で、中耳炎、鼓膜穿孔、内耳障害など。サイナストラブルは約5%、減圧症は約2%。
- 過去に耳抜きに必要な圧力を測定したところ、年齢が増すほど、アマよりプロほど、高い圧力が必要な事が判明した。土日に潜ると、潜るたびに必要な圧力が高くなり、その後、日が経過するごと圧力は元に戻っていく。
- やはり耳抜きは身体的にストレスであり、加齢するほど、耳に疾患のある人ほど、障害が起こりやすいと言える。
レジャーダイバーの減圧症症状
東京医科歯科大学 山見信夫 氏
- 減圧症の診断は自覚症状に頼るところが大きいが、4割が関節痛を訴えている。逆に言えば、6割は自覚症状がない。
- 関節痛の他に、筋肉痛、しびれ、違和感など症状は多様だが、自覚症状がないと病院には行かず、早く気づくことが大切。発症後、3日以上たってから病院に来る人も少なくない。
- タイプ分類では、関節痛や筋肉痛を伴うI型と、他の症状を伴うII型の比率は8:2と言われてきたが、これは浅く長く潜るヘルメット潜水によるところが大きかった時代の話。
- 最近のレジャーダイバーは、タンクという有限エアで深く潜るスタイルになり、I型とII型の比率が2:8と逆転してしまっている。
聴覚障害者とスクーバダイビング −講習の問題点とポイント−
関西潜水連盟 村上忠一 氏
- 聴覚障害者が潜る場合、平衡感覚をなくすなど様々な症状を示すことがあり、注意が必要である。
- 学科講習には、事前にダイビング用語を学習した手話通訳が必要で、休憩を細めに取って質問時間をもうけるなど、色々と工夫が必要である。
- 水中では健聴者と立場が逆転して、時には手話での会話に花を咲かせ、ガイドに見向きをしなくなってしまう事も。注意を引くにはライトが有効である。
国内のリゾートにおけるスポーツ・ダイバーの実態からみた安全潜水の考え方
国際潜水教育科学研究所 村田幸雄 氏
- 沖縄には年30万人(90%が観光客)のダイバーが訪れるが、ボートが速く遠くまで行くようになり、特に離島など、いざ事故が起こると搬送が大変である。
- 本島のチャンバーは3箇所あるが、陸自ヘリ移送には医療従事者が同乗しない、毎分15Lの酸素投与が有効なのだが救急車では6Lが限度など問題も多く、改善のお願い、訓練や講習会を開くなど行っている。
- 潜水士免許の問題もある。6ヶ月毎の健診が必要だが出来ておらず、零細サービスでは休業補償もない。
- 初心者教育の基準も様々で内地でビーチしか経験ないのにボートでいきなり深場に連れて行ったり、特にカメラ派ダイバーを水深50〜60mに連れて行ったり、危険教育もされていない。本来、ダイコンのDECOマークが出たら次の潜水は禁止のはずである。
- 減圧症にならないと一人前でないとか、なってもチャンバーに入れば翌日から潜れるとか、イントラを含め知識が不足している。夏の終わりに病院にかけこむガイドも多いのが実情。
- 時々マニュアルを読み直し、余裕を持った計画を立て、初心にかえって無理なく安全に「保守的ダイビング」を楽しんでもらいたい。
事例報告・海中水深55mで溺れ、神経障害残さずにrescueされた19才の女性ダイバー
都立荏原病院脳外科 杉山弘行 氏
- 今月、伊豆のある島で、潜水14分後、水深65mでレギュレーターを外して意識を失ってしまった事故例を紹介。バディが急浮上させ、水面で人工呼吸を5回行ったところ自発呼吸が戻り、肺破裂も減圧症も起こさず回復したが、頭部MRI検査で、多発性硬化症が見つかった。
- 溺れた原因が、窒素酔いなのか、多発性硬化症によるものかは不明であるが、十分な患者観察により不要な再圧治療をせずに済んだ。超早期に血液検査、レントゲン検査、頭部MRI検査などを行うべきで、再圧治療を優先すべきではない。ダイビング後のめまいから減圧症と診断されて再圧治療を繰り返したが回復せず、後の検査で別の病気と判明した事例もある。
- 今回は、海水が肺に入り肺胞内空気が少なく、のけぞった状態で浮上したため肺破裂を起こさず、潜水直後で窒素のたまる時間が短かったため減圧症を起こさず、レスキューが適切で若い年代であった事もあり大事に至らなかったと考えられるが、そもそも水深65mとはガイドも含めて安全潜水の考えが徹底されていない。
「大型高気圧治療装置」の見学・体験
- 装置は全長11m、内径3mの横置き円筒形で、中央が副室、両側が主室A・Bとなっている。出入り口の床面はフラットで、敷居のフラップが上がってドアが横からスライドしてきて閉まり、最後にドアがグッと押しつけられて機密性が保たれる仕組み。各部屋が個別に制御できて、主室で加圧治療中も副室を加減圧して医師らは出入りできるし、例えばA室で加圧治療中に急患が来ても、B室に迎え入れることが出来る。
- A室は8人、B室は5人、副室は3人収容でき、内部は十分に広くて天井も高く、閉塞感はない。写真はデジカメのせいで暗く見えるが (^^ゞ、実際は十分に明るい。窓の外からプロジェクターを投射して、聴覚障害者には文章で指示を与えたり、治療は数時間かかるため映画を見せたりすることも出来る。
- 地下の機械室には入れなかったが、紹介ビデオによるとコンプレッサー、除湿器、圧縮空気予備タンクなど、そして制御コンピューターも二式装備され、広さは世界の3本の指に入る位だが、全自動制御や停電対策などを含めると、世界一の施設と自負している。
- 20名近くが入り、実際に加圧を体験、数分間かけて水深5m相当まで加圧した。内部の様子は6台のモニターカメラと、数箇所の小窓から覗ける様になっている。体験した人の話によると、実際に潜る時よりジワジワと加圧されるせいなのか、細め細めに耳抜きしなくてはならず、何だか耳抜きしにくかったそうである。
- 内部は当然、火気物や加圧で壊れるようなものは持ち込み禁止。当日は風邪気味で耳が抜けにくかったのと、デジカメが壊れるかと思い加圧体験はしなかったが、カメラはハウジングに入れれば平気だし、ダイコンも持ち込んでログブックに眞野教授のサインをもらっておけば良かったかなと後から後悔したのであった...(^^;;
外観 内部 制御盤