天使で悪魔





魔術師の杖





  それは這い寄るように。
  それは忍び寄るように。
  ゆっくりと、静かに、気付かれたら姿を隠し、次第に近付いてくる。
  まるでトカゲの尻尾のように必要とあれば切り離し、全体像を決して見せようとはしない。

  ……死霊術師達は、虎視眈々と機会を窺っていた……。






  戦士ギルドのシェイディンハル支部長であるツンデレオークのバーズの依頼(逃亡者たち参照)を終了させ、私はバーズ達戦士ギルド
  の面々と別れた。私は別にバーズ達とともにシェイディンハルに行く必要性はどこにもない。
  久々にブラヴィルに。

  「ああ、丁度いいところに来たねぇ」
  「……」
  悪いタイミングで来たらしい。
  誰との会話?
  私も姉的存在であるグッド・エイ。魔術師ギルドのブラヴィル支部長だ。
  ここ最近では家族が多いけど昔はハンニバル・トレイブン、ラミナス・ボラス、ター・ミーナ、グッド・エイだけが私にとって家族だった。
  付き合いもスキングラードの家族よりも長い。
  当然、過去の弱みも握られてる。
  ……。
  ……弱みかー。
  困るなー。
  「ハイ。元気してた、グッドねぇ」
  「久し振りだねぇ」
  「そうね」
  ブラヴィルに来ると、やっぱり無性に会いたくなるので私は魔術師ギルドのブラヴィル支部の建物に足を運んだ。
  いつも通り彼女は本を読んで静かな午後を満喫していた。
  何だかんだいっても顔を見ると安心するなぁ。
  「ところで丁度いいって何?」
  世間話だけでは終わらないのは分かってる。
  仕事かな?
  ただ、グッドねぇはすぐには仕事の話をしなかった。
  「ブラヴィルは変わったでしょう?」
  「えっ? ええ、そうね」
  人が多かった。
  それが私の第一印象。
  「黒衣の聖母をご存知?」
  「黒衣の……?」
  知らない。
  「幸運の老女を崇拝する教団の教祖様。最近この街に出来た教団なのよ」
  「へー」
  あまり良い話題ではない。
  幸運の老女。
  あの像の下には闇の一党の創設者であり黒幕の夜母の墓所がある。……この街に来たついでに墓所粉砕してあげようか?
  闇の一党を仕切ってるのが今現在も夜母なら拠り所は粉砕すべき。
  くすくす。それいいかも♪
  「その教団は聖堂を拠点にしてるわ」
  「な、何で?」
  「さあ? ブラヴィル聖堂側が連中に貸し与えてるみたいよ」
  「……」
  何故に?
  よく分からない。九大神至上主義の聖堂が何故に民間団体に建物を貸し与えているのだろう?
  意味不明。
  献金をたくさんしたからかな?
  「エメラダ坊や」
  「その呼び方はやめてよ」
  「ごめんなさい。全裸王女」
  「なっ!」
  「いつも全裸でアルケイン大学を走り回ってたねぇ。……グランド・チャンピオンが露出狂だと知れたら……くっくっくっ……」
  「……」
  うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
  こいつは人の弱みに付け込む卑劣漢かーっ!
  仕方ない。
  仕方ないじゃないっ!
  ずーっとオブリで暮らしてたんだもん、しばらくは服の概念なんかなかったわよ悪いかーっ!
  しかも随分昔の話だ。
  「ああ。この口が皆に喋りたがってる」
  「お姉様私何でもしまぁす♪」
  「おやおや。そうなの? なんか気を使わせて悪いわねぇ」
  「とんでもありませんわー♪」
  ……ちくしょう。
  ……。
  まあいいけどね。
  いえ、ばらされる云々が『まあいいけどね』じゃなく、仕事をする事に関しては別に問題ない、という意味だ。家族だし。
  さてさて、今回はどんな厄介で?
  「何すればいいの?」
  「ここブラヴィル支部に所属しているアルダリンという女性がいます。もちろん、私の管理下にあります」
  「そうね」
  グッドねぇはここブラヴィルの支部長。
  所属している構成員は当然ながら彼女の指揮下にある。
  アルダリン、か。
  彼女は知ってる。直接的な面接もあるけど、それは数度程度。それほど親しくしているわけではない。知人という関係で知っている、
  というよりもアルダリンは優れた錬金術師として有名だ。
  まあ、私には劣るだろうけど。
  ほほほー♪
  「彼女の魔術師の杖が盗まれました」
  「ふーん」
  魔術師の杖。
  魔術師ギルドに属する者なら誰でも持っている杖。かといって必ずしもそれを使用もしくは所持しなくてはならない、というわけではない。
  公的な行事には所持する必要ではある。
  まあ、魔術師たる象徴的な代物、とでも表現すればいいのかな。
  確かに大事なモノではある。
  ……。
  あっ、そうか。
  私も杖を今は持ってないわね。
  アダマス・フィリダに逮捕されて資産一切を没収された。その中には私の魔術師の杖もあった。
  「ふふふ」
  まっ、いっか。
  偉大なる帝都軍総司令官閣下は今では報いを受けて闇の神シシスの虚無の海で永遠に魂を貪られ続けているのだから。
  因果応報ってあるんだなー。
  「誰に盗まれたの?」
  「彼女にしつこく言い寄っていたヴァロン・ヴァモリです。奴はそう供述しました」
  「供述?」
  おかしな言い方だ。
  私なら『吐いた』と言うだろう。性格的な問題かな?
  だけど推測は出来る。
  つまり。
  「逮捕されたわけ? そいつ?」
  「ええ。盗賊ギルドのメンバーだったようです。今はブラヴィル城の地下牢で腐ってます。……私は面会に行って来ましたけど、杖は
  帝都の商人に売り払ったようです。帝都にも手を回しました。ですが既に杖はさらに別の人物の手に」
  「追跡不可能?」
  「そうです。貴女にはアルケイン大学に行って、新しい杖を作成して欲しいのです」
  「私が? てか私の名目で?」
  「そうです」
  「何故に?」
  「魔術師の杖は魔術師にとっては命です。それが盗まれたのであれば、それが発覚したらアルダリンの立場がなくなります。ですから
  ラミナス・ボラスと懇意の貴女に任せるのです。私が動くと、やはり大きな問題になりますから」
  「なるほど」
  彼女は私にとって姉のような存在。
  しかも身びいきではあるものの、グッドねぇは自分の構成員を可愛がっている。そして正しい方向に導こうとしている。
  ふむ。
  一肌脱ぎましょう身ぐるみ全部脱いじゃいましょう。……身ぐるみはまずいか。
  その時……。

  「やっと戦士ギルドのお出ましね。まったく、今まで何してたのよ、愚図っ!」
  「す、すいません」
  ……?
  怒号と謝る声が聞える。
  「いつまで経っても来ないからこっちで入手したわよっ!」
  「す、すいません」
  ……?
  グッドねぇが私の耳元で囁く。
  「アライヤリィがお怒りねぇ」
  「誰?」
  「うちの構成員」
  「いや、それは分かるけど。誰に怒ってるの? てかなんで怒ってるの?」
  「戦士ギルドに錬金術の材料を頼んだのに依頼を放棄したのよ」
  「へー」
  やれやれ。そう呟いてグッドねぇは立ち上がり、声の方向に向かう。調停する気か。私も付いていく。
  ……おおぅ。
  シロディール、広い様で狭いなー。怒られていたのはアリスだった。
  「何してんの、アリス?」
  「おやエメラダ坊や。知り合い?」
  「ええ、まあ」
  アライヤリィは……うっわ、怖い顔ーっ!
  グッドねぇは彼女をなだめる。あっちは彼女に任そう。私はアリス担当だ。
  「何してんの、アリス?」
  「フィッツガルドさん、どうしてここに?」
  「ここ魔術師ギルド」
  「あっ、そうか」
  久し振りに見るけど、また少し逞しくなったかな、彼女?
  今度また手合わせしてみよう。
  にしても任務放棄、か。
  アリスにしては珍しい……というか、ありえないか。誰かの尻拭いだろうか?
  「誰が任務しくじったの?」
  「えっと、マグリールさん」
  「あいつか」
  あの口だけボズマーね。何やってんだ、あいつ。
  「どこにいるの?」
  「えっ?」
  「マグリール」
  「えっと、この街にいます。えっと、どうするつもりなんです?」
  「ぶっ飛ばす」
  「だ、駄目ですよ、部外者ですし」
  「部外者?」
  首にでもなったのだろうか?
  ……いやまあ、マグリールは首になってもおかしくないけど。
  「あの人、ブラックウッド団に移籍したんです」
  「へー」
  亜人版戦士ギルドか。
  ふーん。
  余計なお荷物引き取ってくれて万々歳じゃないの。……結構ブラックウッド団って良い奴かも?
  「あのー」
  申し訳なさそうにアリスは私に言う。
  「何?」
  「何とか、その、取り成してもらえないでしょうか? こんな事を頼むのは気が引けるんですけど……その、仕事、何とかなりませんか?」
  「錬金術の材料の納品?」
  「は、はい」
  「だけどもうこっちで勝手に入手したみたいだけど」
  「そ、そうですけど……その、代金は要りませんから、いえ、当然ですよね。つまり、その、えっと……」
  「代金要らないけど納品だけさせて欲しい、戦士ギルドは仕事をちゃんとこなした、そう認識して欲しい。そういう事?」
  「は、はい」
  「信用商売だもんね」
  「は、はい」
  ふむ。
  言い分は分かる。
  しかも都合よく半値でもいいから納品させて欲しいとは言ってない。任務達成の実績だけ欲しいのは都合良いのでは?
  いや。そうは思わない。
  健気な事で。
  「グッドねぇ」
  「何?」
  アライヤリィをなだめていたブラヴィル支部長のトカゲを呼び戻す。
  戦士ギルドとの関係は役に立つ。お互いにね。
  「錬金術の材料を戦士ギルドが今後、通常の半値で納品してくれるそうよ。提携結ぶのは、得じゃない?」
  えっ、そんな顔をアリスはした。
  長期的な提携を結べばお互いに得だ。通常の半値で……まあ、金額に関しては今後話を詰めて行く必要があるのだろうけど、得で
  はある。戦士ギルドには今、仕事がない。こちらからそれを持ち掛ける事によって有利な交渉が出来る。
  戦士ギルドは損をする?
  いいえ。
  そうは思わない。
  戦士ギルドの任務にはモンスターの退治が多い。モンスターの内臓や角、爪、皮などの類は錬金術の材料に適している。
  つまり連中は連中で、別の依頼で倒したモンスターから得られる副産物により副収入を得られるのだ。
  損はしていない。
  連中にしても一石二鳥だ。
  「良い話ねぇ。大学には私から報告しておくわ。良い話だから通るわ」
  「決まった。……そういうわけだからアリス、こっちは了承したわ。コロールに戻ってそう報告しといて」
  長期に渡る依頼。
  それを取って来たとなればアリスの立場が悪くなる事はない。今回、アリスに非はないけどマグリールから引き継いだ時点で彼女の
  責任になっている。任務失敗もリアルに彼女に降り注いでくる。しかしそれ以上の依頼を手にした。
  これで戦士ギルドは安定した収入を得られる。
  魔術師ギルドとの提携は、そういう意味だ。お互いに得でもある。
  文句なしでしょ?
  「……ありがとうございます……」
  「な、泣かないでよー」
  アリスは深々と頭を下げた。泣いている。泣かれても困るんですけど。
  私は必至になだめる。
  グッドねぇは感慨深げに呟いた。
  「……エメラダ坊やも大人になったんだねぇ……」





  さて。
  今回の任務をこなすとしよう。
  私は不死の愛馬シャドウメアに跨り、ブラヴィルから帝都に。旅程はわずか1日。さすがはシャドウメア、万能ですなー。
  帝都にあるアルケイン大学。
  私は杖の作成を申請すべく話を通した。
  誰に?
  魔術師ギルドの雑事一切を取り仕切る中間管理職のラミナス・ボラスに話を通す。
  「魔術師の杖を?」
  「うん」
  「杖で何をするかは聞かないが……いやらしい奴だな。このエロエロ娘めっ!」
  「はっ?」
  相変わらず絶好調の模様。
  てか段々私の扱いが雑になって行くような気がするのは、私の被害妄想でしょうか?
  「久し振りね」
  「そうか?」
  ああ。この間ブルーマであったか。宝石魔術師の一件(宝石魔術師参照)で会ったか。
  そう久し振りではない。
  「ふっ、私のテクも捨てた物ではないな」
  「はっ?」
  「わざわざ会いに来るとは……ふっ、ブルーマでの夜が忘れられないらしいな。魔術師ギルド随一のテクニシャンとは私だっ!」
  「知らんわボケーっ!」
  「ちっ。文句言いやがって。もういい、抱いてやらん」
  「抱いていらんわーっ!」
  ぜえぜえ。
  何なんだこいつはっ!
  私を弄る事でストレス解消か。
  ……。
  ま、まあ、意味は分かる。
  世間知らずな魔術師と世間様との間のやり取りを仲介するのが、ラミナスの仕事。世間とずれまくってる政治家気取りの評議員達の
  世話も疲れるのだろう。それは理解出来るし同情もするけど、私を弄る理由になるのか?
  ならないと思うんですけどね。
  ……ちくしょう。

  「フィッツガルド。魔術師ギルドをどう思う?」
  「はっ?」
  いきなり何言い出すんだ?
  だけど真面目な顔だ。冗談ではないらしい。
  私は静かに聞く。
  「お前には理解してもらいたい。我々は大きな事を成し遂げる力がある一方、常に分裂し、ギルドの権威を悪用される危険性を同時
  にはらんでいる。所詮は人間の集まりだ。疑心暗鬼もあれば、隠し事もある。それを忘れないで欲しい」
  「……? まあ、了解」
  意味不明。
  まあ、言いたい事は分からないけど、真意は分かるかなー。
  組織が大きくなれば当然ながら発足当初の高潔なる志は次第に廃れていく。魔術師ギルドもそういう風潮があるし。
  だけど何故それを私に?
  そしてこのタイミングで言うのだろう?
  そこは分からない。
  まあ、いっか。
  話を進めるとしよう。今のところは魔術師の杖の入手が最優先。
  グッドねぇの顔も立てないともね。
  「ラミナス。魔術師の杖なんだけど……」
  「魔術師の杖が欲しいのか?」
  「うん。私のは前にアダマス・フィリダに逮捕された時に押収されちゃったから。だから、欲しいかなーって」
  私の名目での入手。
  これまたグッドねぇの顔を立てる行為。
  別に私は傷付かない。元々大学での立場なんて気にしてないし。グッドねぇが動くと、彼女自身も立場がなくなるし杖を盗まれた
  アルダリンも立場がなくなる。グッドねぇが私を利用してるとは思ってない。家族なんだから、力になりたい。
  それだけ。
  それだけよ。
  「ラミナス、申請を受諾してくれる?」
  「今、材料が手元にない」
  「そうなの?」
  「帝都の東、泉の洞穴にある木材が必要だ。今、手が足りない。自分で取りに行って来るか?」
  「そうね」
  その程度は別に問題はない。
  待っているよりも自分で動いてみよう。その方が楽だし。待つのは得意じゃない。
  泉の洞穴か。
  まだ行った事ないなー。
  「数人の魔術師が木材の管理として洞穴に駐屯している。ザラーシャ、エレッタが管理者だ。彼女らに助力を求めろ」
  「はいな」
  泉の洞穴に。





  ……とまあ、軽い気持ちでやって来たものの……。
  「裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  放つ電撃が無数の人影を吹き飛ばす。
  黒焦げの死体。
  誰の死体?
  「くっそー。結局厄介かよー」
  洞穴内に転がっている死体は死霊術師のものだ。
  ここにいたはずの大学の魔術師達はどこにもいない。1つだけあった。その遺体は面識はあった。ザラーシャだ。
  つまりは、こういう事か?
  死霊術師の集団が、魔術師ギルド管轄の泉の洞穴に攻め入った。
  ……笑える話だ。
  死霊術師は群れない、その定説は嘘だった。
  ファルカーの反乱で死霊術師は一網打尽にされたはずなのに、今なお徒党を組んでいる。反乱の後にも私は何十人も屠ってきてる
  し虫の隠者とか名乗るリッチも何体も始末して来た。組織は確実に起動している。
  どんな組織かは知らないけどさ。
  「仕留めろっ!」
  「魔術師ギルドのクソ女を殺せっ!」
  「トレイブンの愚かなる支配は直に終わるっ!」
  「殺せっ!」
  「殺せっ!」
  「殺せっ!」
  ワラワラと群れて来やがってーっ!
  「煉獄っ!」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  炎で焼き尽くす。
  さらに。
  「デイドロスっ!」
  悪魔の世界オブリビオンのワニ型二足歩行の悪魔を召喚。
  「始末して」
  グァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!
  血肉を味わえるからか、歓喜の咆哮を上げるデイドロス。死霊術師が纏っているのはローブ。布など何の防御力も示さない。
  爪で。
  牙で。
  簡単に切り裂ける。
  ここはデイドロスに任せて、私は先に進もう。
  「じゃあ、よろしく」


  洞穴を抜け出る。
  洞穴の向こうは小島。泉の洞穴は小島と地下で繋がっていたわけだ。
  木々が生い茂っている。
  この木材がおそらくは魔術師の杖の材料になるのだろう。多分、何らかの魔力を元々帯びているに違いない。
  「ぎゃっ!」
  バチバチバチィィィィィィィィっ!
  小さな悲鳴が聞えた。
  そして電撃音。
  私ではない。私は剣を抜き放ち、音のした方に走った。
  女性が胸元を雷で貫かれて倒れていた。確認するまでもない、死んでいる。その傍らにはドクロを胸元に刺繍したローブの女。
  死霊術師だ。
  その死霊術師は1人だけフードを被っている。指揮官か。両脇に控える2人は被っていないし。
  フードの女、ダンマーの女は口を開く。
  薄笑いを浮かべて。
  ……。
  その笑い、いつまで浮かべられるかしらね?
  くすくす♪
  「おやおや。また新たな餌食が迷い込みましたね?」
  「そうみたい」
  「私はノヴァーニ・オスラン。虫の王の従者が1人」
  「虫の王の従者?」
  こりゃまた新手だ。
  虫の従者、か。
  虫の隠者とは違うらしい。まあ、虫の隠者はリッチ。こいつはどう見てもリッチには見えない。

  「踊りなさい小娘よ」
  「踊る?」
  「そう、貴女は踊るのです。私の手によってね。……ふふふ。貴女の死体を踊らせ、そのまま引き裂いてあげましょうっ!」
  「うっわ楽しみ♪」
  「死ねっ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  ダンマーと部下の2人は私に向って電撃を放つ。
  体を絡めとる蒼い雷光。
  「……くっはぁ……きっくぅー……」
  雷を浴びながら私は微笑。
  この程度の威力なら痛くも何ともない。私は対魔法戦において無敵の存在。
  「馬鹿なっ!」
  「ふふん。次は私の番ね。裁きの天雷っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  放つ電撃の洗礼を受け弾け飛ぶ根性なしども。
  私は肩を竦める。
  「ワイルドな踊りね。死に際には相応しいと思うわ。バイバイ♪」
  
  




  「な、何だとっ! 泉の洞穴が死霊術師どもの手によって落ちただとっ!」
  大学に舞い戻りラミナスに報告。
  死霊術師は全部仕留めて来たけど、事態は深刻だ。
  「全部蹴散らしてきたわ」
  そう報告してもラミナスの驚愕は終わらない。
  そりゃそうだ。
  以前宿屋ロクシー北にある苔石の洞穴にレイリン叔母さんが拠点としていた。帝都の近くのアイレイドの遺跡ヴィルヴェリンにも
  死霊術師が潜んでいた。
  しかし今回は意味が違う。距離は関係ない。
  何故?
  それは泉の洞穴が魔術師ギルドの管轄にあるからだ。魔術師ギルドの施設に喧嘩を売ったに等しい行為。
  ファルカーの反乱で死霊術師は一掃されたはずだった。
  にも拘らず活発に動いている。
  それは何故?
  「エレッタとザラーシャは……」
  「死んだわ」
  「馬鹿な……2人はアルケインでも指折りの魔術師だった……そんな馬鹿な……」
  「今回は虫の隠者を名乗るリッチはいなかったけど、虫の王の従者を名乗るダンマーがいた。……ねぇ、連中は何者?」
  「……」
  「……ラミナス?」
  「この事はすぐに議会に報告する必要がある。情報感謝する」
  「えっ? ええ」
  答えはなしか。
  まあいいけどね。全ての秘密が共有出来るとは思っていない。私の立場もある。ラミナスの立場だってある。
  「魔術師の杖は?」
  「作成しておく」
  「そう」
  「議会で答えが出るまで、大学に滞在してもらいたい。おそらくお前には任務が与えられるはずだ。頼めるか?」
  「……」
  いつになく真剣なラミナス。
  無下には出来ない。
  「分かったわ」
  私は頷いた。
  死霊術師達の行動が私達にどう影響するのか、まだ、分からなかった。


  ……この時は何も……。