天使で悪魔






不死者の悪意 〜魔術師ギルドからの依頼〜





  不死。
  この世界に不死は存在しない。
  不老はあるものの不死は存在しないのだ。これはこの世界に限った事ではない。
  魔王達の統べるオブリビオンの世界でもまた同じ事。
  悪魔達は魂が打ち砕かれない限りは永遠に転生を続けるものの、魂を砕かれた瞬間に世界から消滅する。
  つまり。
  つまり、悪魔達ですら不死ではないのだ。

  しかし人々は不死を追い求める。
  不老は吸血鬼化したり悪魔に魂を売ったり強力な魔法で得る事の出来る比較的簡単。だがそれだって完全ではない。
  生き物は等しく全て縛られている。
  生き物は等しく全て戒められている。
  その壁は厚く越える事は出来ない。

  それでも。
  それでも人は不老不死を求める。
  それが残酷を撒き散らすのだ。自らのみではなく周囲にさえも。
  ……望む望まぬ関係なく。
  ……望む望まぬ……。






  「ふぅ」
  溜息。
  貴族らしく優雅に暮らしてはいるものの……正直、飽きた。
  舞台はアンヴィル。
  元々は幽霊屋敷として有名だったベニラス邸を買い取り、改修し、改築した結果住み易くはなっているものの人間とは贅沢。飽きた。
  優雅に暮らすのが飽きた。
  「ふぅ」
  ……結局は最近の生き方が激しかったからですわねぇ。
  それが悩みの元でもある。
  盗賊ギルドに所属してから色々とエキサイティングに生きてきたから、ぬるま湯のような日々が平穏ではあるものの、退屈だ。
  まあ、この屋敷を手に入れる時もそれなりにハードでしたけど。
  今は地下室は封鎖しているものの、地下室には祭壇があった。そこにローグレンという人物がいた。
  死霊術師であり、自らを《虫の隠者》と称していたリッチだ。
  「大変ですわねぇ」
  人事ながら大変そうだ。
  今現在、魔術師ギルドは死霊術師との抗争が激化しているらしい。
  わたくしはハンニバル・トレイブンに師事したものの魔術師ギルドの構成員ではない。だから、人事。
  ファルカーの反乱でしたっけ?
  要は現役支部長のファルカーが実は死霊術師を仕切っていた、らしい。
  しかし一斉蜂起の前に発覚。
  ハンニバル・トレイブンの直弟子の……んー……誰でしたっけ?
  名前がど忘れですわー。
  ともかく、次期評議長候補とか言われてる弟子の女が反乱の中枢を叩き潰し、ファルカーに同調した死霊術師の面々もバトルマージ
  の部隊に各個撃破されて反乱は終了。それでも今、散発的に事が起きているらしい。
  「大変ですわねぇ」
  人事だから気が楽だ。
  それにしてもアンヴィルでの生活も飽きた。
  もう二週間。
  コロールでファシス・ウレスをコロールの衛兵隊に告発し、売ってから既に二週間だ。
  とりあえず灰色狐は腹を立てていないらしい。
  何故って?
  伝令を寄越さないからね。
  腹を立ててるなら何らかのリアクションがあって当然だと思うけど……来ない以上、それほど腹を立てていないのだろう。
  ……多分ね。
  「今日も良い天気」
  散歩にでも出ようかしら。



  「散歩日和ですわね」
  街を歩く。
  共は連れていない。
  アルゴニアンのジョニーは買出しに出てるし、オークのグレイズは家にいるものの同行はさせていない。彼は日光を浴びれない
  体質だ。吸血鬼と思う人も多いけれども、遺伝的な病気。体が陽光を跳ね返せないのだ。
  だから同行させていない。
  「聖堂にでも行ってみようかしら」
  一番好きな散歩コースだ。
  聖堂は城に近い。
  神様なんか信じてないけど、聖堂の独特な神聖そうな感じは嫌いではない。
  何となく霊的な気配を感じる……ような気がするのも確かだ。
  神様なんか信じない。
  あくまでその雰囲気を楽しむだけに行くに過ぎないけど……まあ、罰は当たりませんわね。それなりに寄付もしてますし。
  聖堂に入り浸ってから城に行ってみよう。
  いい加減伯爵夫人とのお茶会も飽きたけど、あの方は姉のように親しみのある方だから一緒にいるだけでも楽しい。
  優雅ですわね、日々の送り方。
  ……。
  結局、ローズソーン邸を買い戻すという名分さえ捨てれば結構自由に生きられるのだ。
  貴族の誇りは捨てたつもりはないですけど今は良い気分だ。
  屋敷に固執してた日々がもったいない。
  素直にそう思う。
  「レディ」
  声を掛けられる。
  振り返ると衛兵を数名引き連れたヒエロニムス・レックス。アンヴィルの衛兵隊長だ。
  「御機嫌よう、レックス」
  「レディも元気そうですね。お散歩ですか?」
  「ええ」
  「良い日和ですしなぁ」
  「ええ。本当に」
  元々はわたくしのクソオヤジ……こほん、失礼。元々はわたくしの父親が目に掛けていた仕官。それが縁で懇意だ。
  朴念仁で熱血漢ではあるものの、気骨のある人物だとは思ってる。
  そこは賞賛に値する。
  盗賊ギルドは存在しないグレイフォックスは都市伝説……それが元老院と帝国上層部の見解だ。
  しかしそう言い張る大物達は多額の賄賂を受け取り、口を噤んでいるに過ぎない。
  レックスは帝都にいた時からグレイフォックスは実在すると叫んでいた。
  つまり賄賂をはね付けた。
  それは素晴しい精神だと思う。
  だからこそ。
  だからこそグレイフォックスはレックスを計略で失脚させなかった。計略は用いたものの、失脚ではなく転勤という手を使った。
  帝都の衛兵隊長からアンヴィルの衛兵隊長になったに過ぎない。
  グレイフォックスに完全に敗北したから吹っ切れたのか、今はアンヴィル市民と衛兵から絶大の支持を得る人物になっている。
  衛兵は口を開けばこう言うのだ。
  「レックス隊長は素晴しいっ! あんなに良い人は見た事ないよっ!」
  衛兵は口を揃えてそう言うのだ。
  実直な性格がアンヴィルでは受けるらしい。
  さて。
  「レックス隊長。たまには食事を一緒にいかがですか?」
  「ふ、2人きりですかっ!」
  「ええ。……どこまでも2人きり♪」
  「レ、レディっ!」
  「ふふふ」
  朴念仁はからかうと面白い。
  一瞬言葉を失うレックスではあるものの、首を振る。申し出を拒否しているというよりは冷静になろうとしているらしい。
  ……本当に楽しいですわねー。
  「レ、レディ」
  少し言葉が震えている。
  「何ですの?」
  「最近アンデッドが大量に出現するという事件が多発しています。ゾンビが大量発生するのですよ」
  「……?」
  知らなかった。
  街にも出てないし。
  「そうですの?」
  「ええ。まあ、深夜が多いですので街でも噂にはなっていないようです。知らなくても不思議はありませんね」
  「へー」
  死霊術師絡みだろうか?
  一般人は知らない人が多いものの、死体が勝手にゾンビにはならないのだ。
  アンデッドモンスターと呼ばれるモノは死霊術師が作り出した代物。恨みがあって現世に留まるのは幽霊のみ。冷帯では留まる事は
  あっても肉体にしがみ付く事はない。
  魔術師ギルドではないものの、魔術を操る者の常識としてこれぐらいは私だって押さえてる。
  さて。
  「それに突然狂人になった人物が刃傷沙汰を起こす事件も多発しています」
  「ふーん」
  「ともかくお気を付けください。……まあ、我々が巡察してますし大事はないと思いますけどね」
  「お役目ご苦労様ですわ」
  「いえいえ任務ですから。そうだ、レディのご自宅の周辺に何名か人数を配しておきましょうか?」
  「いえ。レックスが側にいてくれたら安心ですわ」
  「えっ? い、いや、その……」
  「ふふふ」
  嫌いではない。
  嫌いではないものの、恋愛の対象には見てないけど……まあ、弄ると楽しいですわねー。
  ほほほー♪
  「で、では私はこれで。……行くぞ」
  『はっ!』
  衛兵を引き連れて足早に去るレックス隊長と衛兵隊。
  「ゾンビに狂人か」
  知らなかったとはいえ、物騒ですわね。
  特に狂人の方が怖いかな。
  アンデッドは近付いてきたらその時点で瞬殺(そもそも死体だから死んでますけど)するものの、狂人は見た目では一般人とは
  区別が付き辛いだろう。
  ……近付いた時点で誰であろうがデストロイ?
  まあ、手っ取り早いですわね。
  問題になっても伯爵夫人や衛兵隊長が揉み消してくれるでしょうし。ビバ権力ですわー♪
  ほほほー♪
  「アルラ? アルラでしょう?」
  「……?」
  今日はよく声を掛けられる。
  アルトマーの女性だ。
  兵士を率いているものの、それはアンヴィルの衛兵隊でもなければ帝国軍でもない。
  魔術師ギルド直轄の兵力であるバトルマージだ。
  そして率いる人物は……。
  「キャラヒル?」
  アンヴィルにある魔術師ギルド支部長の女性。年齢不詳の美人。……それでもわたくしの五倍は生きてるはず。なのに老いずに美人。
  ……アルトマーだけ優遇するなんて神はずるいですわー。
  ちなみにキャラヒルはハンニバル・トレイブンの心酔している人物で死霊術師が大嫌い。
  さて。
  「御機嫌よう。……それで何か御用ですの?」
  「今、1人でも多くの関係者を求めているのよ」
  「わたくしは……」
  「魔術師ギルドに所属していない。ええ、理解してる。……それでもアークメイジの関係者なら、是非とも手を貸して欲しいのよ」
  「ゾンビの方ですの?」
  「ゾンビ? ……ああ、知ってたの」
  「ええ、まあ」
  「手伝ってくれるかしら?」
  そして……。
  


  アンヴィルは最近物騒な模様。
  ……。
  まあ、わたくしは《良い子は八時に寝る♪》を原則で生きているので知らなかった。レックスから聞いた話が、初耳。
  ゾンビの大量発生は常に深夜。
  レックス率いる衛兵隊が撃退しているもののどこから来るのかが不明。

  術者は誰?
  キャラヒルは死霊術師が絡んでいると見ている。だから躍起になっている。
  ハンニバル・トレイブンに傾倒しているキャラヒルは死霊術師に対して極端なまでの嫌悪感を抱いているからだ。
  さてさて。
  ……お仕事、始めますか。


  「……」
  コツ。コツ。コツ。
  深夜の街を歩く。
  人通りは完全にない。帝都では皇帝暗殺犯がいまだ見つからない事から夜間の外出を制限する厳戒令が発せられている。
  アンヴィルではそれほど制限されていないものの人通りはない。
  夜は寝るもの。
  まあ、それが常識ですしね。
  「……」
  コツ。コツ。コツ。
  キャラヒルに頼まれた後でレックスの元を訪ねた。情報が必要だからだ。
  キャラヒルは本腰を入れたばかりであり、アンヴィルの衛兵隊の方がこの件に対して詳しいから、詳細を聞きに行った。
  レックス曰く……。
  「ゾンビは消える、か」
  倒した直後に消えるのだと言う。
  だとしたら召喚術か。
  召喚というジャンルの魔法、実は容易。召喚術を齧った程度でも充分に用いる事が出来るのだ。
  もっとも。
  もっとも、強力な存在ほど召喚するのに実力が相応の必要になるが。
  この世界に定着させる召喚ではない限り、使える者は数多くいる。召喚術を使える奴が犯人だとしても特定は出来ない。
  ……。
  ちなみにゾンビの召喚。
  どこから召喚しているかは不明。
  誰かがリアルに創造したゾンビを召喚しているのかしら?
  さて。
  「ふむ」
  コツ。コツ。コツ。
  足音だけが無意味に響く。アンヴィルは全都市の中でも治安と整備が行き届いた都市の一つだ。整然としていて美しい。
  そこに自分だけ。
  妙に物悲しく感じるのは何故だろう?
  まあ、感性の問題ですわね。
  ……。
  もちろん周囲に誰もいないだけで衛兵は衛兵で巡回しているし、うちのアルゴニアンとオークも散開して街を彷徨ってる。
  戦闘になればすぐに分かる。……多分。
  立ち止まる。
  疲れた。
  「妙なしがらみは嫌いなんですけどねぇ」
  魔術師ギルド。
  クソオヤジ……失礼、父親がハンニバル・トレイブンと懇意だったからその関係で(心情的には冷やかし程度)魔術を習った。
  ただそれだけだ。
  まあ、ハンニンバル・トレイブンには恩義を感じているものの、あまり力になりたいと思うわけではない。
  嫌いではないけど、今回の手伝いは成り行きだ。
  さて。
  「……飽きた。帰る」
  夜更かしは美容の敵。
  わたくしは既に23。……いや、まだ若いですわ若いですのよでも美容の為には徹夜は大敵っ!
  ぜぇぜぇ。
  と、ともかく、帰りますわ。
  「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  叫び声が響く。
  なんと嫌なタイミングっ!
  「帰って寝ようと思ってましたのにーっ!」
  走る。
  走る。
  走る。
  このまま見過ごすのは貴族たるわたくしのプライドが許さない……というか、これは多分騒ぎになるだろう。そこにわたくしがいなかった
  と分かるとさすがに立場がない。
  身の保身は貴族の常ですわ。
  ほほほー♪
  路地を曲がる。
  そこには人垣が出来ていた。
  深夜なのに?
  ……深夜なのに。
  「いましたわね」
  人垣はゾンビの群れだ。
  「鎮魂火っ!」
  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!
  炎がゾンビの群れの中央で爆ぜる。
  問答無用かって?
  ゾンビに人権はないのですわー。ほほほー♪
  フッ。
  吹き飛んだゾンビは掻き消える。どうやら召喚魔法で一時的にこちら側に呼び出されただけの存在らしい。
  鎮魂火はアンデッド系の戦意を消失させる効果もある。
  炎に吹き飛ばされなかったゾンビ達も動きを止めた。
  チャーンスっ!
  「霊峰の指っ!」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  わたくし最高の一撃っ!
  アイレイドの古代魔法であり、マラーダで出会った『生意気なブレトン女っ!』の雷魔法よりも効力は上だ。
  ゾンビの群れは粉砕。
  「ビクトリーですわ」
  タタタタタタタタタタタタッ。
  「……えっ?」
  ゾンビが走って逃げた。
  仕留めそこなった奴なんだろうけど……走って逃げる?
  駆け足。
  ゾンビは小走りで接近してくる事はあっても駆け足はありえない。いや、今まで見た事も聞いた事もない。
  思わず対処が遅れる。
  ハッとした時には逃げられた後だった。
  「実体?」
  一時的に召喚されたゾンビには見えなかった。何だったのだろう?
  「まあ、いっか」
  おそらくは叫んだ人物であり、ゾンビにフルボッコされたであろう人物を見る。苦悶の顔で既に事切れている。剣を手にしたまま果
  てているダンマーの男性だ。たまたまゾンビの群れに遭遇した冒険者だろうか?
  ともかく戻るとしよう。
  今夜はこれで探索終了。
  「ふわぁぁぁぁぁ。帰って寝るとしますわ」
  





  「解決ですわ」
  キャラヒルに報告する為に、わたくしは魔術師ギルドのアンヴィル支部に足を運んだ。
  既に翌日。
  太陽の光を跳ね返せないグレイズは自宅に残し、アルゴニアンのジョニーを共にして訪れた。共というか、荷物持ち。
  わざわざ報告だけに訪ねる事はしない。
  ショッピングのついでだ。
  ジョニーを従えてるのもその為。
  さて。
  「解決?」
  「ええ」
  「しかしそうとはまだ言えませんね。召喚した人物が分からないのですから。かなりの使い手のようですし」
  「……わたくしに解決の義務はあります?」
  「全てはアークメイジの御心のままに」
  「……」
  それ言っとけば全部解決だとでも思ってるのだろうか、このアルトマーの女は。
  そこまでハンニバル・トレイブンに心酔しているわけではないわたくしは苦笑。結局わたくしは部外者ですし。
  ただ、言っている意味は分かる。
  召喚魔法は齧った程度でも充分に使えるものの……あれだけの数を召喚するとなると話は別だ。おそらくは熟練した召喚師。
  ……面倒ですわね。
  まあ、関わった以上は解決しないと後々の展開が気になって落ち着かない。
  解決するしかないですわね。
  「それでアルラ、何か気になった事は?」
  「……全部わたくし任せですの?」
  「そうは言わない。バトルマージも展開してるし、捜査もしてる。……アンヴィル衛兵隊よりも先を越さないといけないのよ」
  ふぅん。
  魔術師ギルドのメンツの為か。
  キャラヒルは犯人を魔術師ギルド絡みだと思っているのだろうか。死霊術師もその範疇に入る。
  キャラヒルは真面目なのだ。
  完璧に解決し魔術師ギルドの憂いを断ちたいのだろう。
  わたくし?
  まあ、それほどの熱意はないですわね。
  ……投げる事はしませんけど。
  「気になる事は、ああ、走ってゾンビが逃げましたわね」
  「走って?」
  キャラヒルが妙な顔をする。
  ゾンビは小走りで走る。それは常識だ。でも、わたくしは見てしまった。全速力の駆け足で逃げるゾンビを。
  今まであんなの見た事がない。
  その事をキャラヒルに告げると、彼女も驚く。
  「全力ダッシュで?」
  「ええ。そうですわ」
  「……珍しいゾンビね。でもこれでハッキリしたわ。死霊術師が絡んでるに違いない」
  「……」
  そう見るのが妥当かな。
  死体は勝手に動かない。死霊術師が死体から創造するのだ。自我の崩壊した低級霊を憑依させてゾンビを作る。
  遺跡や洞窟に徘徊しているのもいるけど、あれは怨念がそうさているのではないのだ。死霊術師が何らかの形で放棄した野良で
  しかない。スケルトンの原理もまた同じ。
  だけど走るゾンビ、か。
  あのゾンビは特別なのかもしれない。
  ただ、特別なゾンビでも魔法は使えない。ゾンビがゾンビを召喚するという悪ふざけのような状況も有り得ない。
  つまり雑魚ゾンビを召喚し、特別ゾンビを従えている奴は確かにいる。
  街に野良ゾンビが入り込んでいるわけではないのだ。
  さて。
  「今夜もまた、寝不足になりますわね」



  魔術師ギルドを出た後、今夜に備える為にお昼寝する事にした。ショッピングは中止。
  アンヴィルは栄えている都市なので観光客が多い。
  だからこそ、アンヴィル当局は極秘裏に解決したがっているのは間違いない。出回ってる衛兵は多いし、ゾンビ事件を知っている
  人物は誰もいない。
  皇帝崩御の戒厳令が変なところで役に立ってますわね。
  戒厳令の為に夜間の外出が基本的にない。だからゾンビが徘徊していても誰も気付かない。
  ……少なくとも今のところはね。
  「ジョニー」
  「はい」
  「始末」
  「な、何故にっ!」
  「えっ? ああ、口癖ですわ。ほほほ。ともかく、先に帰ってグレイズに今夜も徹夜だと伝えておいて」
  「了解っす」
  タタタタタッ。
  走り去るトカゲ。それを見送りながら、溜息を吐く。
  皇帝崩御から立続けにイベントばかり起きる。直接的に関係していないものの、レヤウィンは深緑旅団に攻め込まれるし。
  そして今、ゾンビが街を徘徊する。
  何なんだ今年は。
  「……厄年かしら?」



  「レックス」
  アンヴィル城にある兵舎を訪ねる。
  アンヴィル城は小島の上にあり、街とは離れている。わたくしは街と城を繋ぐ架け橋を通って城に。
  「こ、これはレディ」
  「御機嫌よう」
  兵舎の中にあるレックスの私室を直撃。レックスは動揺し、慌てて椅子から立ち上がる。
  わたくしは微笑。
  その時、レックスが来客と会っていた事に気付いた。
  衛兵ではないだろう。
  鉄の鎧に身を包んだダンマーの……冒険者かしら?
  ともかく、ダンマーの少女と話をしていた。
  ……女を連れ込むなんて意外にやりますわねこの朴念仁。
  「じゃあ、あたしはこれで。色々とありがとうございました」
  ぺこり。
  レックスに頭を下げ、通り過ぎるときにわたくしにも頭を下げる。なかなか礼儀を弁えてますわね。
  ……。
  あれ?
  今のダンマー少女、どこかで見た気がする(悩みの種はネズミ参照)。どこでだろう?
  あまり下々の者の顔は覚えない主義が仇になりましたわね。
  んー。誰だろ?
  「誰ですの?」
  「戦士ギルドのエージェントですよ。凶暴化事件を追っているようです」
  「凶暴化……ああ、昨日聞いた事件ですわね」
  「そうです」
  突然一般市民が凶暴化するらしい。
  まあ、キャラヒルにこれは頼まれていないのでスルーですけどね。
  「何かの病気ではないかと我々は見ています。ただの一般市民がいきなり剣を持ち出して暴れ出す。脈絡も予兆もない。まるでお
  手上げですよ。ただ、一度に一件しか凶暴化が起きないのが幸いですね」
  「それは確かですの?」
  「はい」
  ふぅん。
  何かの鍵になる情報ですわね。……まあ、関わってないですけど。
  「ところでレディは何用ですか?」
  「ゾンビですわ」
  「ゾンビ?」
  「キャラヒルに頼まれたのですわ」
  「キャラヒル……ああ、あの女史ですか。そうでしたねレディは魔術師ギルドの関係者……」
  「そこまで関係はしてませんけどね」
  「それで、その件で何を聞きたいのですか?」
  「知っている事を全て」
  そう言うとレックスが申し訳なさそうに鼻の頭を掻いた。
  「実はよく知らないんですよ」
  「知らない?」
  「ゾンビが現れる、犠牲者が出る、それ以上の情報はありません。まだ調査の段階でして」
  「犠牲者?」
  昨夜のダンマーを思い出す。そういえば死んでた。
  「ゾンビは人を殺すの?」
  「はい。騒動が起こると必ず1つの死体が出ますね」
  死体1つ。
  ……あれ?
  何か引っ掛かるぞ。
  「レックス。どうして調査が進んでないんですの?」
  「凶暴化事件もありますから手が足りないんですよ」
  「もしかして同時期に起きた事件?」
  「……あっ」
  「関連性、ありですわね」



  再び深夜。
  コツ。コツ。コツ。
  人気のない深夜のアンヴィルは……まあ、感想はいいですわね。昨晩も同じ慈善事業してましたし。
  あれから。
  あれから、わたくしはベニラス邸に戻りお昼寝。
  今夜の探索の為に休養していた。
  そして今。
  「はあ」
  コツ。コツ。コツ。
  再び探索の為に街を歩く。
  死霊術師絡みなのかどうかは知らないけどキャラヒルは神経質になっている。解決の為に躍起になってる。
  死霊術師との抗争が激化しているのは間違いない。
  ……。
  まあ、わたくしには関係ないですわ。
  さて。
  「どうしましょうかねぇ」
  キャラヒルはバトルマージを街に展開させているけど、レックスはレックスでアンヴィルの治安維持の為に衛兵隊を配している。
  戦士ギルドも誰の依頼かは知らないものの動いてる。
  わたくしの従者二人も街を調べてる。
  ……妙な展開だ。
  糸が絡まり過ぎてる。
  しかしわたくしは根無し草。誰の指図もされないし、受け付けない。
  あくまで個人的な感情で動いているに過ぎない。
  「……」
  コツ。コツ。コツ。
  音だけが反響する。結構な人数が夜の街に出張ってるのに、静かなものだ。
  「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「来たっ!」
  悲鳴。
  そしてそれは断末魔。
  昨晩と同じだ。
  わたくしは走る。悲鳴の元に向って。
  タタタタタタタタタっ。
  走る。
  走る。
  走る。
  物の数分で現場に到着する。
  「はあっ!」
  「ひぇぇぇぇぇぇぇっ!」
  ローブを着込んだ白色のオークが鋼鉄製のクレイモアを軽々と扱い、ゾンビの群れを破壊していく。一方的な攻撃だ。
  そして倒された瞬間、ゾンビは消える。
  ……やはり召喚されてる、一時的な存在か。
  「はあっ!」
  クレイモアを振るうのはグレイズ。わたくしの従者だ。
  ……ああ。そうそう。
  悲鳴を上げて逃げ回っているトカゲも従者のジョニー。……不甲斐ない。後で始末ですわね。
  「鎮魂火っ!」
  ドカァァァァァァァァァァンっ!
  わたくしに気付かないゾンビの群れどもにお仕置き。集団の横っ腹に叩き込む。
  炎は爆ぜ、8体ほど撃破。
  さらにその炎はアンデッドを怯ませる効果がある。ゾンビはたじろいだ。
  「今ですわっ!」
  「了解っ!」
  「ひ、ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
  わたくしの魔法とグレイズの剣術の前にゾンビなど物の数ではない。あっという間に薙ぎ倒して切り倒した。
  死体は残らない。
  一時的に具現化しただけの存在だからだ。この世界に定着されていない故だ。
  昨晩も思ったけどこれだけの量のゾンビの召喚。
  並みの術者ではない。
  「お、お嬢様っ!」
  「あらまだいましたの腰抜けさん」
  「あ、あっしの専門は料理ですので戦闘はちょっと……」
  「まったく。それで、何ですの?」
  「こ、これを」
  「……?」
  指差す方向を見る。
  そこには死体があった。ゾンビではなく、インペリアルの男性の死体だ。手には戦斧が握られている。
  格好からして冒険者。
  ……またか。
  昨晩はダンマーの冒険者だった。
  たまたまゾンビの群れに遭遇したのか……いや、ゾンビ側が的確に狙ってる?
  でもそれは何故?
  「お前も違ったぁーっ!」
  異質な声。
  警戒は解いていないから瞬時に声の方向を向くわたくしとグレイズ。
  しかしその方向には誰もいない。
  走る去る音だけ。
  「はあ」
  溜息。
  今夜も不首尾。また明日に続行されそう。……徹夜はお肌の大敵ですのにーっ!
  「はあ」





  翌朝。
  ……今回このパターン多いですわね。まあ、いいですけど。
  「御機嫌よう」
  「敬虔なる信徒よ。おはようございます」
  キャラヒルに昨晩の報告をし、わたくしは気分転換にアンヴィル聖堂に。暇があればここに来てこの独特な静寂の雰囲気を楽しむ
  為に来ているので聖職者達とも顔見知りだ。
  信仰心はないのかって?
  あら、それどんな食べ物ですの、おいしい?
  ……。
  まあ、つまり信仰心なんかないって事ですわ。
  神様なんて信じない。
  未来は自分の手で掴むもの。神頼みも運命もまやかし、ただそれだけですわ。
  さて。
  「今日の説法は終わりましたの?」
  「ええ。生憎」
  「それは残念ですわ」
  信仰がないにしても、神様の話はそれはそれで楽しい。
  続きを楽しみにしてたのに。
  残念。
  「あっ」
  不意に気付く。
  雑魚ゾンビは召喚された一時的な存在ではあるものの、あの全力ダッシュは現実の代物だ。
  どこに潜んでいるのだろう?
  アンヴィルの下水道は帝都と違ってアンヴィル衛兵隊が完全に管理している。昼間は忍び込んで夜まで潜むという芸当は出来ない。
  ならどこにいるのだろう?
  街には法の網目も届かない場所はたくさんある。
  アンヴィルは港湾都市。船の往来が激しい。そして物品の往来も。
  倉庫に潜んでいるのだろうか?
  廃屋?
  ……ふむ。考え出したら、色々な予測が出来てしまった。才女は辛いですわねー。
  この街に精通している人物に聞く必要がある。
  だとしたらあの人物か。
  正直、どうだろうかとは思う。
  アンヴィル衛兵隊、魔術師ギルド、戦士ギルドが介入してるのに……新たな組織を引っ張り出すのはどうだろう?
  まあ、いい。
  聖職者が不意に黙ったわたくしに怪訝そうな視線を向け、口を開く。
  「どうされました?」
  「友人に会う約束が出来ましたわ。御機嫌よう」
  ……引っ張り出すとしよう。
  盗賊ギルドを。



  「何の用だ」
  「御機嫌よう。見知らぬ者」
  アンヴィル市内にある廃屋の主に優雅に一礼。
  名を《見知らぬ者》。
  レックス左遷(栄転?)の際に推薦状を偽造した人物。本人は何も言わないけど、盗賊ギルドの幹部クラスだろう。
  最初はアンヴィル城にいる鍛冶師(実は盗賊ギルドに所属する盗品商)に頼もうかと思ったものの、途中で気が変わった。
  何故ならわたくしは一応仲間を売った。
  ファシス・ウレスをコロール衛兵隊に売った。……まあ、あのダンマー自業自得ですけどね。
  盗賊ギルドと距離を置いている感がある見知らぬ者なら怒らないと思った。
  ただそれだけの理由ではあるものの、わたくしは彼の廃屋を訪問。
  ……。
  余談だけど、どうにも印象に薄い男。
  良い男なんだけど記憶に鮮明に残らない。
  何故だろう?
  「何の用だ?」
  「実は貴方に頼みがありまして。……そんなにトゲトゲしないでください」
  「ファシス・ウレスを売っただろうに」
  あらま。
  もう知ってるのか。多分盗賊ギルドは既にこの事実を認識しているのだろう。
  まあ、二週間も経ってるのだから広まってても不思議ではない。
  「問題になってますの?」
  「まあな」
  ぶっきらぼうな口調。
  ファシス・ウレスは盗品商の中でも立場が最上だった。問題になっても不思議ではないけど、盗賊ギルドを護る行為だったと
  わたくしは自負している。
  あのままあのダンマーを野放しにしていれば、いずれはコロール伯爵家を敵に回す事になっていたはずだ。
  思慮深さが彼にはなかった。
  欲得だけで動くファシス・ウレスは義賊集団である盗賊ギルドに必要ないとわたくしは判断した。
  その為の行動だ。
  さて。
  「何の用だ?」
  こればっかり連呼する。相変わらず愛想ない男ですわね。
  最も話し合いに愛想は必ずしも必要ではない。用件さえ済めばそれでいいのだ。
  「この街で潜める場所はどこですの?」
  「潜める?」
  「例えば……そう、ゾンビ引き連れた死霊術師」
  「死霊術師から盗みを働くつもりか?」
  「いえ。そうではなく……」
  「知っている。魔術師ギルド絡みだな」
  あらま。
  もう知ってるのか。街に必ず複数いる物乞いは盗賊ギルドの目であり耳。おそせくは街の出来事はこの廃屋にいながらも把握出来
  ているのだろう。
  把握出来る立場という事は、見知らぬ者はやはり盗賊ギルドの幹部か。
  でも階級は何だろう?
  参謀はアーマンドとスクリーヴァの2人だけ。伝令……にも思えないし……んー、謎の多い人物ですわね、彼。
  しかしまあ、街の状況を把握しているなら話は早い。
  簡潔に聞き出すとしよう。
  「話が早いですわね。それで、そんな潜める場所はあります?」
  「持ち家の場合は分からん」
  「なるほど」
  この街に家を持つ住民が死霊術師の場合は……うん、ゾンビを自宅に匿ってても分かり辛い。廃屋や倉庫に潜んでいる場合とは
  また意味が違う。
  「潜める場所か。……この街にはないな」
  「はっ?」
  「持ち家は除く。さて、下水道だが帝都と違って完全に管理されている。まず無理だな。廃屋もここだけだ。この街には船乗り達の出入
  りが多いので廃屋を宿泊施設として改良している、だから廃屋はない。倉庫は……」
  「倉庫は?」
  「倉庫も無理だな。ネズミ駆除として住まわされている物乞いがいる」
  「……ネズミ駆除?」
  「そうだ」
  おそらく倉庫に出没するネズミを食べて暮らしているのだろう、その物乞い。ネズミは食用ではあるものの、人里離れた賊関係が口
  にするか罪人に供給される食事にしか用いられない。
  場末の酒場でもネズミ料理はない。
  つまり下賎なモノが口にする食材なのだ。
  さて。
  「つまりこの街は完璧ですのね」
  「そういう事だ」
  「ふむ」
  廃屋もいない。
  倉庫もいない。
  元々のこの街の住人が死霊術師なら、話は複雑で面倒になってくる。……厄介ですわ。
  「ゾンビを引き連れているのか?」
  「ええ」
  「ならば簡単ではないか」
  「……?」
  「石を隠すなら石の中、葉を隠すなら葉の中」
  「……あっ」
  そうか。
  その理論か。だとしたら、盲点だった。何故気付かなかったのか自分でも不思議だ。
  見知らぬ者の言葉を引き継ぐ。
  「死体を隠すなら死体の中ですわね」
  「そういう事だ」
  だとしたら……。



  「安置されているご遺体を見たいと?」
  「ええ」
  アンヴィル聖堂に舞い戻る。
  アンヴィル聖堂は九大神の1人である美の女神ディベラを祀っている。
  さて。
  「とにかく地下に案内して欲しいのですわ」
  「しかし……」
  死体を隠すなら死体の中に。
  聖堂の地下には名高い名族達の遺体が安置されている。平民は聖堂に隣接する共同墓地に埋葬される。
  若い聖職者は渋る。
  もちろん当然だ。身内が安置されているならともかく、まるで関係ない者が地下に降りるのは法的には問題なくても感性として抵抗
  がある。何かあった場合、許可した自分に責が及ぶからだ。
  ここで問答するつもりはない。
  「通してもらいますわ」
  「あっ。ちょっとっ!」
  押し退けて進む。
  見知らぬ者は同行していない。わたくし1人だ。
  ズンズンと進み、地下に降りた。
  ひんやりとする感覚。
  涼しいけれどもここに長居しようとは思えない。涼やかな空気とはまったく異質な雰囲気だ。
  死者が出す雰囲気だろうか?
  ともかく。
  ともかく、生者たるわたくしには合わない。
  「困りますよ」
  聖職者は困惑気味な声を上げる。わたくしの横暴の結果、他の聖職者や修道女が数名も集まっている。
  口々にわたくしに何か呟く。
  無視した。
  「誰かいますのっ! 言葉が理解出来るなら出てらっしゃいっ! ……さもなくば焼き尽しますわっ!」
  声は反響し、木霊する。
  死霊術師はここにはいないのは確かだ。
  ただ、あの走るゾンビをここに隠している可能性ぐらいはあると踏んでいる。
  わたくしの恫喝に反応するか?
  それは、分からない。
  分からないけどいちいち棺桶開けて中身を確かめようとは思えない。開けたところでゾンビも死体。見分けなんて付かない。
  しばし沈黙。
  しばし……。
  ドゴォォォォォォォォォォンっ!
  突然、棺桶の蓋が跳ね飛んだ。驚く聖職者一同。わたくしは静かに棺桶を見据える。
  「出ましたわね」
  わたくしが本気と判断したのかしら?
  ……。
  ああ。そうか。
  聖職者達を一瞥する。この中に死霊術師がいる可能性もありますわね。そしてここでゾンビを飼っているのだ。
  ありえますわね、それも。
  そして……。
  「またお前かっ! 我に何の恨みがあるっ!」
  「ひゃっ!」
  喋ったゾンビが喋ったっ!
  ゾンビに人格などない。
  何故なら死体に自我のない低級霊を憑依させているに過ぎないからだ。霊を憑依させる事によって人形にしているに過ぎない。
  人格のある霊を憑依させた?
  それはないと思う。
  何故なら人格のあるゾンビを作ったところで意味などないからだ。創造主に歯向かう恐れすらある。
  だから人格のあるゾンビはいない。
  そもそもそんな製造法は存在しないはず。死霊術師も馬鹿ではない。知能ある自我のあるゾンビを作る実験など行うはずがない。
  だとしたらこれは特殊な製造法で作られたゾンビか。
  「鎮魂火っ!」
  「くそっ!」
  ドカァァァァァァァァァァンっ!
  爆ぜる炎。
  それを回避し、動じる事無く走って逃げるゾンビ。
  嘘っ!
  アンデッドの恐れるエッセンスを組み込んだ鎮魂火を見てもガクブルしないなんて……何なのこのゾンビっ!
  上部に逃げる。
  階段を登っていく。
  わたくしはその後を追った。

  

  街は騒然となった。
  深夜ならともかく白昼にゾンビが街の中を全力疾走しているのだ。
  「はあはあ」
  タタタタタタタタっ。
  全力でわたくしも追う。ここで逃がすわけらは行かない。それは責任感?
  違う。少し違う。
  要はわたくしのメンツの問題だ。潜伏場所を暴いておきながら逃がしたとあっては私のメンツに関わる。沽券に関わる。
  「くっ、見失いましたわっ!」
  あのゾンビ素早過ぎる。
  周囲を見渡すものの動揺し混乱する市民達しか見当たらない。
  相手はゾンビだから見つけられそうなものだけど……くそ、完全に見失いましたわ。
  おそらく体力の概念がないのだろう。……まあ、ゾンビですし。ともかく体力の概念がないから全力疾走を延々と維持できるのだ。
  生身のわたくしでは到底追いつけない。
  「レディっ!」
  「レックス」
  グッドタイミングっ!
  衛兵引き連れたレックスが現れる。市中巡察の最中なのだろう。血相を変えているから、おそらくレックスも巡察の最中にあの走る
  ゾンビを見たか市民から通報を受けたのだろう。
  「レックス。手を貸してください」
  「今、兵舎に人を走らせました。市中をくまなく探索するつもりです。……レディ、ゾンビ絡みの件なら我々は既に手を打ってあります」
  「さすがはレックスですわ」
  行動に抜かりない。
  非常線を張ればゾンビの逃げ場は限られてくる。つまりは人気のない場所。
  ……あれ?
  「あれは……」
  この間の戦士ギルドのダンマー少女が走り去る。わたくし達に気付かないようだ。それもそのはず、かしらね。ダンマー少女は血相
  を変えて逃げている。走るゾンビを見て逃げ回ってるのかしらね。
  その腰の剣は飾り物?
  やれやれ。戦士ギルドの質も落ちましたわねぇ。
  「レディ?」
  「いえ。何でもありませんわ」
  さて。
  わたくしももう一仕事しましょうかね。



  レックスとともに街を走る。
  レックスの迅速で的確な指示により街通りという通りは緊急封鎖されていく。
  つまり。
  つまり、ここに引っ掛かるわけがない。
  知性あるゾンビなら緊急封鎖を予測出来ているはず。外見が完全に腐乱死体だから……いや厳密には乾いた死体であって腐った
  概観ではないけど……まあ、そこはいいか。ともかく自分の姿を理解しているはず。
  日中出回れば目に付くのは予測出来てるはず。
  だからこそ日中は聖堂の棺桶で死んだ振り(死んでるけど)してたわけだ。余計な集中をされたくないから。
  だから。
  「ここで別れましょう、レックス」
  「レディ?」
  お互い、止まる。
  「レックスにはレックスのすべき仕事がありますわ」
  「しかし……」
  「ヒエロニムス・レックス隊長」
  「……」
  彼はアンヴィル市内の警備を担当している。つまり市民の保護。
  衛兵の指揮は必要不可欠。
  現場にはレックスが必要なのだ。
  「レックス」
  「分かりました。……レディ。出来るならばこのままご自宅にお帰りください」
  「お心遣いありがとうございますわ。御機嫌よう」
  別れる。
  レックスにはレックスの仕事がある……というのも嘘ではないけれども、近くにいると派手な魔法を使えないという理由でもある。
  まあ、邪魔だからかしらねぇ。
  わたくしは再び走り出した。



  「ふむ」
  行き着いた先は大きな屋敷の前。
  非常線を張られていない場所を探していたらここに辿り着いた。この近辺は富豪の邸宅の区画。ただ、数年前の大火事によりほ
  とんどの屋敷は焼け落ち、今なお住んでいる富豪は少ない。
  静かな場所だ。
  ここだけ警戒は疎か。
  別にレックスの指示に問題があるわけではなく、貴族や富豪の区画に対する封鎖は法律で禁止されている。
  特権階級の暮らしを妨げてはならないのだ。
  ……下らない法案。
  そんな法案を通した元老院も大した事ありませんわ。
  さて。
  「この辺りに潜んでいるはずですけど……」
  総合するとこの近辺だろう。
  非常線を抜けて抜けて回避した場所がここになる。廃屋になっている建物も多いから、どこかに潜んでいるのだろう。
  ……多分。
  ただ問題はどの屋敷が廃屋で、どの屋敷が今なお使われている屋敷なのかの判断が分からないところだ。
  さてさて。どうしたもんか。
  「とりあえずそこの屋敷の扉をぶち抜きましょうか」
  手荒?
  ほほほ。公的機関に揉み消ししてくれる知人がいれば手荒も合法ですわー。
  ほほほー♪
  「せーのっ!」
  蹴り込もうとすると……。
  「よせっ!」
  「……っ!」
  いた。
  ゾンビがいた。しかも普通に喋ってるっ!
  やっぱり空耳じゃなかったんださっきの声も。廃屋から出て来たゾンビは言葉を続ける。
  「その屋敷に対して何もするなっ! 人が死ぬぞっ!」
  「人が死ぬ?」
  意味が分からない。
  「いいなっ! 何もするなよっ! ……それと、もう俺の邪魔をするなっ!」
  「……あっ」
  そのまま走り去る。
  ゾンビが喋るという行為に、唖然としていたわたくしはそのまま見送るしか出来なかった。ゾンビって喋るんですの?
  それにしても意味不明。
  屋敷に何もするな人が死ぬぞ……つまり、ここには誰か住んでいる。
  誰が?
  「見てみましょうか」
  窓から覗きこむ。
  部屋はがらんとしていて、生活感は感じられない。しかし扉に手を掛けてみると、鍵は確かに掛かっている。ゾンビが人が死ぬという
  以上は誰かが住んでいるのだろうけど、二階にでもいるのだろうか?
  二階か。
  ……仕方ない。
  「よっと」
  壁をよじ登る。
  盗賊ギルドに所属している期間がそれなりに近いので、この程度の技能はお茶の子さいさいですわ。
  バルコニーに到着。
  中を覗く。
  老人が中にいた。安楽椅子に身を沈めてゆったりとしている。
  「……?」
  微動だにしない。
  身動き一つしない。居眠りしているにしても、少しおかしい。

  「ふむ」
  しばらく考えて何をすべきか答えを出す。
  あの老人、どうにも死んでいるようにしか見えない。わたくしは呪文を唱え、魔法を発動する。
  発動するのは生命探知の魔法。
  この魔法は相手の魂を感知する魔法で、術者には一定範囲内にいる全ての個体の魂の有無を確認出来る。魂があればその対象
  の体が淡く光って見える。
  ……。
  ちなみにアンデッドもこの魔法で感知出来る。
  死んでるのに何故って?
  答えは簡単。
  亡霊はそもそも魂の存在だし、ゾンビやスケルトンの類も低級霊を憑依させている存在だから。その為に生命探知の対象になる。
  まったく感知出来ないのはそもそも魂のないマリオネットだけ。
  さて。
  「……死んでますわね」
  微動だにしない老人には魂は宿っていない。
  安楽椅子に身を沈めたまま死んでいた。
  「はあはあっ!」
  眼下にダンマーの少女が走ってようやく到着。息を切らせながら周囲をキョロキョロとしている。
  あの小娘は戦士ギルドのエージェント。
  ゾンビ事件を追っているのだろうか?
  まあいいですわ。
  どの道馴れ合うつもりなんてありませんし。
  視線を老人に戻すと……。
  「えっ!」
  老人は生きている。
  生命探知の魔法で魂が感知された。それはどういう……だって、さっきは死んでたっ!
  生命探知の魔法の範囲内だ、さっきまで範囲外で効力がなかったわけじゃない。充分に範囲内だ。なのに何故?
  ゆっくりと瞳を開く老人。
  わたくしは身を隠す。
  何も盗んでないにしても室内に侵入したわけじゃないにしても窓に張り付いているのはある意味で犯罪に取られても弁解出来ない。
  ゾンビが固執するこの老人、何者?
  「一度キャラヒルに報告に戻るとしましょうか」



  「ゾンビが喋った?」
  「ええ」
  「ならそれはゾンビではなくグールですね」
  「グール?」
  魔術師ギルドのアンヴィル支部。
  本当に他のメンバーも調査してるのか疑問に思いつつも、わたくしはキャラヒルに一時報告の為に戻って来た。
  そもそも関わる道理はない。道理はないけど、ここまで来てわたくしも引き下がれない。
  何とか解決しないと。
  「グールとは何ですの?」
  「大抵はリッチ化に失敗した死霊術師ですね。稀の呪いの類もありますが。……ともかく、グールは腐肉に魂が宿ってる存在です。か
  といって人間でもなく死体でもない。中途半端な汚らわしい存在ですよ」
  「ふぅん」
  「一説では深緑旅団のロキサーヌもグールだったようですね」
  「深緑旅団?」
  トロルを兵力にしたヴァレンウッドを追放された連中だったかしら。
  レヤウィンを半壊状態に追い込んだ悪名高き組織。
  もっとも、既に帝都軍&ブラヴィル都市軍の助勢で壊滅して存在していないけれど。
  さて。
  別の事を聞くとしよう。
  グールが固執する屋敷の事を話す。そしてその老人の事も。
  「ああ。デイビル老人ですね」
  「……」
  名前からして悪役ですわ。
  「デイビルとは何者ですの?」
  「デイビルは余命幾ばくもない富豪の老人ですね。彼が何か?」
  「グールが彼の屋敷に固執してましたわ」
  「……」
  キャラヒルはしばし考え込んだ後に……首を横に振った。
  知らないという事か。
  「ともかくアルラ、ここが正念場です。是非頑張ってほしいですね」
  「まあ、善処しますわ」
  今日の調査はこれまで。
  まだ昼過ぎだけど家に帰ろう。さすがに街を走り回ったのは体にこたえる。
  それに有益な事もあった。今日の収穫はこれぐらいでいいだろう。
  あの喋るゾンビはグール。
  グールはデイビル邸に固執している。
  それだけ分かればいい。
  「ふぅ」
  帰ったらお風呂にでも入ってリラックスしようかな。
  「それでは御機嫌よう」






  捜査は振り出し。
  聖堂にはさすがにあのグールも戻って来ないだろう。
  翌日。
  「ふぅ」
  唯一の手掛かりである、デイビルの屋敷の前でわたくしは待機。……はっきり言って不信人物間違いなし。レックスと知り合い出な
  かったら衛兵に任意同行を求められても文句は言えない。
  それだけ露骨にわたくしは屋敷の前に居座っている。
  ……と言っても来てまだ五分。
  ともかく。
  ともかく、ここに居座ってればグールは出張って来る可能性がある。
  どういう経緯かは知らないけどここの屋敷に執着しているのは既に判明している。デイビルとグールが仲間なのか違うのかは分か
  らないものの何らかの関係はあるのだろう。敵対関係にしてもね。少なくとも、関係はあるのだ。
  だからここで待つ。
  だから……。
  「飽きた」
  そうよ。
  何もわたくしがわざわざ出張る必要はない。ジョニーに待機させよう。
  最近忙しくてその程度の思考も鈍っているようだ。
  もっともジョニーに任せたところであの非力なトカゲでは対処できまい。レックスに訳を話して衛兵を派遣してもらうか、キャラヒルに
  バトルマージを投入してもらうかするとしよう。
  うん。それがいい。
  そうと決まればここに用はない。離れよう。
  その時……。

  ガチャァァァァァァァァァァァンっ!
  窓ガラスを突き破り、何かが目の前に降って来る。大きな物体だ。
  ……いや。

  「御機嫌よう。わざわざ倒されに現れてくれて恐縮ですわ」
  「……またお前か」
  窓ガラスを突き破って二階から降って来たのはあのゾンビ……いや、グールだった。
  忌々しそうに相手は舌打ち。
  よほど嫌われたらしい。
  「それにしてもわたくしは幸運ですわ。丁度飽きてきたところに現れてくれたのですからね。よほど前世で良い事をしたに違いないですわ」
  「ほざけ」
  あれ?
  グールは後生大事そうに一冊の本を持っている。随分と古びた本のようにも見えるけど何の本だろう?
  「それ、盗品ですの?」
  「だったら?」
  「盗みはいけない事ですわ」
  ……盗賊ギルドが何を言ってんだか。内心では苦笑い。
  所属前もヴァネッサーズと名乗って盗賊してましたし。
  さて。
  「色々と推測や憶測省きますけど……それが目的だったのかしら?」
  「そう。この本が欲しかったっ!」
  「それはそれは手に入れておめでとうございます」
  「この本さえあれば腐った肉体など捨てて新しい肉体に移行できるっ! デイビルのクソ隠居爺はこの本を使って遊んでいるだけ
  だった、だが俺は違うっ! 死活問題なのだ、この腐った肉体が崩壊する前に新しい肉体に旅立つ必要があるっ!」
  「……ふふふ」
  「何がおかしい?」
  「そんな自分勝手で正当化出来ると思ったら大間違いですわ」
  「ふん」
  「それで? その本が目的だった、老人が手にしているのも知っていた。……なのにどうして夜な夜な殺人を?」
  「デイビルの爺は他人に寄生していた。寄生した肉体が死ぬ時、元の肉体に戻る」
  「それで?」
  「魂が抜けてる時は非常に不安定なんだよ。だから強奪しに屋敷に潜入する事は出来なかった。その為に寄生しているであろう
  肉体を殺す、元の肉体に戻ったところで爺に迫って本の在り処を聞き出す。……これで満足か?」
  「もう1つ。どうして聖堂に籠もってましたの?」
  「この体じゃ目立つからだ。死体を隠すなら安置所が一番だろ? この近辺に潜もうかと思ったが余計なリスクだと判断した」
  「ああ。なるほど。腐った脳にしてはお利口さんですわね」
  「これで満足か?」
  「ええ。始末しても問題なしですわ」
  バッ。
  間合を保つ。
  相手はグール。肉体は既にただの肉塊。
  心臓を貫こうが頭を砕こうが死ぬ事はない。ただ魂が腐肉に宿っているに過ぎない。
  わたくしに言わせるとグールなんて喋るゾンビに過ぎない。更に言うなら実験で腐肉の人生歩んでるだけの落伍者。
  怖い相手じゃありませんわ。
  「俺は目的を果たした。ここで戦う理由もない。……それでもやるってか?」
  「ええ。少なくとも貴方は人殺しですから」
  「そんな理由で死ぬのかお前は。本当にいいのか死ぬ理由がそんな妙な建前で」
  「わたくしが魂ごと打ち砕きます」
  「……正義の味方気取りか?」
  「いえ。キャラヒルの依頼ですわ。……報酬はないですけど、ここまで長引かせてくれた貴方には是非お礼をしたくてウズウズしてます」
  「キャラヒル? ああそうか。お前は魔術師ギルドの者か」
  途端、底冷えのするような笑みを浮かべる。
  魔術師ギルドがお嫌いらしい。
  ……だとすると……。
  「あなた死霊術師ですわね。それもここ最近魔術師ギルドに喧嘩売ってる一派、ですわね?」
  「そうとも。ファルカーの無能とは訳が違うぞっ! 我こそは虫の隠者リブレィンなりっ!」
  「悪いですけどそのファルカーとかいう奴は知りませんわ。ついでに言うとあなたはリッチの成り損ないなのにその大言はないでしょう」
  虫の隠者、か。
  現在わたくしが住んでいるベニラス邸の地下にもいましたわね、虫の隠者ローグレン。
  ここ最近流行なのかしら?
  流行を追うなんて死霊術師も意外に可愛いですわね。
  「トレイブンの愚かなる支配は直に終わるっ! 我らが王が貴様らクソ蟲どもに鉄槌を与えるのだっ!」
  「そんなの知った事じゃありませんわ。わたくしが気にしてるのは明日の天気とショッピングだけですわ」
  「俗物め」
  「貴方に言われたくはありませんわね」
  「死ねぇっ!」
  そして……。
  ドカァァァァァァァンっ!
  突然、小規模の爆発が起こった。爆ぜる炎。
  「本がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
  自身が燃えるよりも、本が燃えた事に対してグールは絶叫を上げた。
  わたくしは見る。
  炎の魔法を放った相手を。
  「……余計な事してくれますわ」
  こんな相手一人で倒せた。
  まあ、それでもやり易くは確かだ。デイビルの屋敷の砕けた窓から炎の魔法を放った戦士ギルドのダンマーに軽く会釈。
  「よくもっ! よくもぉーっ!」
  「死体は永眠するのが筋ですわ。……逝け。霊峰の指っ!」
  「……っ! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「滅びなさい。どうせ既に終わってるくせに」
  バチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!
  古代アイレイドの雷撃魔法がグールを直撃。
  容赦なく腐肉を焼き尽し、魂を打ち砕き、この世にもあの世にも痕跡一つ残さない。
  残っているのは塵のみ。
  「命を弄んだ報いですわね」
  塵を見下ろし、わたくしは冷笑した。



  全ては終わった。
  戦士ギルドとの連携は、魔術師ギルドのアンヴィル支部長であるキャラヒルにしてみれば面白くないようではあるものの、要は依頼
  は片付けさえすればいいのだ。
  不死者の悪意は潰えた。
  結局わたくしは部外者。事の顛末だけは分かったものの、真相は曖昧。
  もっとも真相を知るのが仕事ではない。
  わたくしにはどうでもいいのだ。
  ……。
  んー、でもどうして不快なのかしらね、キャラヒルは。
  戦士と魔術師といっても犬猿の仲ではない。仲良くもないものの、仲が悪くもない。
  まあ、メンツの問題かしら。
  魔術師ギルドだけで解決したかったのだろう。
  ……わたくしには関係ありませんけど。
  「ふぅ」
  事件終了から2日。
  わたくしはアンヴィルのベニラス邸で和んでいた。
  帝都のスラム街にも家があるものの、あそこに帰ろうとは思わない。そもそもあれは家ではなく小屋だ。
  売ろうかしら?
  「お嬢様」
  「何ですのジョニー。……ああ、最近いびってないから不満?」
  「全然不満じゃないですよーっ!」
  「あらあら抵抗する素振りしちゃって」
  「……すんません。あっしは常に精一杯抵抗してますです、はい」
  「あら、そうでしたの? 言ってくれたらいいのに」
  「……」
  「それで何用ですの?」
  「お客人です。その……」
  「盗賊ギルドからのね」
  ジョニーの言葉を遮り部屋に入って来たのはボズマーとアルゴニアンだ。
  見知った間柄。
  メスレデルとアミューゼイ。階級は伝令。要はただのメッセンジャーではあるものの、伝令は灰色狐の直属。
  当然灰色狐と近くで接する事の出来る人物達だ。
  この2人、ある意味で同期。
  わたくしが盗賊ギルドに所属する時から一応の面識はある。
  さて。
  「お2人とも御機嫌よう。……それで、突然の来訪の意味は何かしら?」
  「アルラ、グレイフォックスからの勅命を受けてここに来たわ」
  「勅命。興味深いですわ」
  「ファシス・ウレスの一件グレイフォックスはご立腹よ。奴をコロールの衛兵隊に売った代償を払ってもらう」
  「はっ?」
  そして……。











  《注意》
  事の真相をより深く知る為に騎士道邁進編の『不死者の悪意 〜戦士ギルドからの依頼〜』を読む事を推奨します。