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 芝浦工業大学の村上雅人学長は学長になられる前からの知り合いだった。その発端は副学長であられた2010年に、相対論に大変興味を示される平野憲一郎さん(日本経済新聞社で海外特派員などを務めた政治記者だったが、ご退職後、現在は監査役などの役員をされている方。平野さんは海外生活が長かったので、英語はもとより各国語に堪能。ロシア語も)に紹介されて、ご友人の節句田恵美女史(農学博士)が、村上先生に私を引き合わしてくれたのが最初である。握手した手のぬくもりは現在でも残っている。大きな手であった感触を今でも思い出すのは、村上学長とジョージ・ルーカスさんのお二人である。
 
 教授とお話してすっかり意気投合、その後懇意にさせて頂いている。
 村上教授は東大工学部をご卒業された非常に頭脳明晰、何を話してもすぐ理解してしまう天才肌の方だ。アメリカに留学されていたこともある。専門は超伝導のご研究で、その筋のメディアで知らない人はいないだろう。NHKにもご出演された事がある。本稿で初めて村上教授の名前を知った読者は是非Wikipediaで『村上雅人 芝浦工業大学』と検索して、教授の研究者としての歩みを読み取って欲しい。
 最近の実験では、私のような素人には(もちろん水は反磁性体であることは中学生の時、理科の授業で習って知ってはいたが )「水を真っ二つに割った」超絶現象には目を見張る。超伝導で作った磁石で水を真っ二つに割るというのは世界初である。これを<モーゼ効果>と名付けられた教授のお人柄が分かる。
 教授と初めてお会いした時、The Ten Commandments を、なごやかな雰囲気で話題にしたのを思い出す。
 
 2011年のある日、平野さんと節句田さんの四人で食事をしている時、平野さんが「教授は来年学長になられるかも知れないんだ」と話したのに対して「いやー私なんぞ」とご謙遜されたのが強烈に印象に残っている。
 さすが元新聞記者であった平野さんの得た情報は正解だった。翌年2012日、学長に就任される事が決まった。
 
 暫らくして村上学長から思いもかけないメールがきた。「ケ月間、回程度でいいから相対論の講義を大学院でやってくれないか」というもの。天から舞姫が降りてきた。
 月から連休を挟んで計回講義をした。内容は相対論はどこが間違って、あのような変な理論になったかを丁寧に分かりやすく説明したのだが、学長も学生たちと同じ席に座って真剣にお聞きになられていた。これが第回目だったが、学長の仰ることでは「話がマイケルソン・モーリーの実験から入ったが、あれは学生にはピンとこないだろう。もっとアインシュタインの勘違いを身近な例で話した方がいい」との助言を頂いた。なるほど、工学部では一般教養で物理をやるが、マイケルソン・モーリーの実験に関して今日の説明では難しい。
 
 次の年2013年には、「アインシュタインは光の伝播と物体の運動を同じと見なして、すべての物理法則は同等である、と仮定した」というあたりから入り、微に入り細を穿(うが )って説明していった。例えばどの相対論の本にも「垂直に降っている雨を横切るように列車が走ると、列車内の観測者は、雨は斜めに降っているように見える、と書いてあるが、これがごちゃまぜ間違い。雨は光ではない」と言ったら多くの学生諸君が笑って頷いた。更に「雨は見えるが、光は見えない」とも言ったら「え?どうして」と、全員が首をかしげた。ちらっと先生をみたら、にこにこ笑って何度も頷かれた。さすがお分かりになっていらっしゃる。
 人間は光が見えるようにはなってない。299,792,458[m/s]で、すっ飛んでいる電磁波である光が見えたら、もうアタマの中がぐじゃぐじゃだ。網膜は焼けてしまう。モノが見えるというのは、それに反射した光が網膜を刺激して画像信号として脳に伝わってモノと認識しているのだ。このことをアインシュタインも相対論物理学者も残念ながら理解できてない。このように、事細かく相対論の犯しているミスを解いていった。
 学長は「面白い説明だった、次回もこの調子で」と、次年度も講義の依頼は続いた。ある日、一緒に廊下を歩いている時、ローレンツ因子について「幾何学的に導出するのと、代数的に導出するのでは分子、分母が逆になるんだよなア」とつぶやくように言われた事がある。この頃すでに特殊相対性理論は間違っていることを確信されていたと思う。
 
 ある年、平野さんも学生と一緒に私の講義を聞いた事がある。その日は次のような話をした時だ。
「ボルト選手は秒間に10[] は走る。ボルト選手が頭上に懐中電灯をくくりつけて走ったら、懐中電灯から出た光の速度は大地に対して 299,792,45810299,792,468[m/s]になりますか?
後方に発射した光の速度は 299,792,458−10299,792,448[m/s]になりますか? ならないです。
 しかしアインシュタインは『すべての物理法則は同じである。光も物体と同じ運動をする』という『特殊相対性原理』なる仮定をして『そうなる筈だ』としました。
 ところが一方で『光速度不変の原理』という仮定をして『どんな場合でも光速度は一定値c=299,792,458[m/s]だ』としました。この二つの仮定は互いに矛盾していますね。著名な数学者・矢野健太郎博士も、その著書『相対性理論』の中で、『これらは互いに矛盾している』とちゃんと書いてあります。
 アインシュタインはこの矛盾をどう切り抜けたのでしょうか。『c+v になるし、c−v になる』というありもしない式をでっち上げて『どうだい!』とやったのです。“アインシュタインの速度の加法則” がそれです。間違いの根源は『ベクトルとスカラーをごちゃ混ぜにしている算数』であり、(c+v)と(c−v)は『特殊相対性原理』という仮定から、そしてどちらも になるというのが『光速度不変の原理』という仮定ですが、全世界の相対論物理学者が、これにすっかり傾倒して現在に至っています」
 
 村上学長が最も興味を示されたのは、何回目だったか忘れたが、アインシュタインの1905年の論文の最初の出だしの仮定 −t = t’−tB  の件である。もちろん教授は自伝の§14で書いたように、この件は既にご存じではあった。
 私は学生達に「こうはならない。−t > t’−tB である」と説明したあと、例題を出して学生にやらせた時の教授の驚きようである。
 次の図である。で等速直線運動しているキャビンの中で光を往復させて、を計算できるか、と学生達に問題を出した。学生達はいとも簡単に「アインシュタインの考えではになりますが、先生のお考えの方が正しいと思います。
   
になります」と答えた。
 つまり速度と言う場合、何を基準にしているかを学生達はすぐに理解したのである。一直線に飛ぶ光そのものを基準にしているのだと。そして、この図はマイケルソン・モーリーの実験の “横方向” であることも見抜いた。第回目の講義では通常の教科書に書いてある事から話を進めたが、その時は全員が眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せて難しそうな顔をしていた。しかし、この日は見事であった。この光の反射速度の平均は(−v )/であることも計算で分かったからである。
 更に、マイケルソン・モーリーの実験の “縦方向”(南北方向)も光の平均速度は(−v )/cである事は以前の講義で学生達は既に知っていた(https://www7b.biglobe.ne.jp/~kubota-takashi/c-v.htmlの最後部参照)。これらの一連の一致から特殊相対性理論は一気に崩れ去ったのである。私の講義は無駄ではなかったと確信している。
 
 アインシュタインは光の平均速度は(−v )/である事を計算出来なかった、または知らなかったので、特殊相対性理論という奇妙な理論が出来たのだ。マイケルソン・モーリーの実験の光は本や本の光線ではない。秒間に1300万回もの往復反射している光だ。これが分かってなかった。
 その発端は「等速直線運動は絶対静止と区別出来ない」と考えて −t = t’−tB  とした事が論文の出発点となっているのだが、これはもともとポアンカレの発想だった。
『アインシュタイン、特殊相対論を横取りする』ジャン・ラディック著/深川洋一訳/丸善参照(註:この書は特殊相対論は正しいとしている物理学の啓蒙書である。ジャン・ラディックはポアンカレと同じフランス人)。
 
・・・こうして2017年まで(2011年も含めて)計回、数式展開も含めて講義をさせて頂いたが、私の健康状態がおかしくなり、とうとう、この年で終了とさせて頂いた。村上学長には、前の年までに、僕の症状をお話していたので、すでにご存知ではおられた。
 
 なお、講義が終了した時点で学生は総括として “レポート” を提出しなければならない事になっていたので、全員のレポートを見せてもらった。最も多かったのは上記の問題である。「夢にも思わなかった」、「レーザージャイロがこれを証明している事」、「アインシュタインは等速直線運動は絶対静止と区別出来ないと考えたこと」、「光速度不変の原理はここからの発想だったこと」、「光も物体を投げたと同様の運動すると考えて特殊相対性原理が生まれたこと」、「1905年のアインシュタインの論文に戻って、窪田先生は相対論を考え直したこと」、等々が集中していた。
 ひとり非常にアタマの良い学生がいた。「アインシュタインは −t = t’−tB  であると仮定して理論を作りました。
のちに(c−v)が出てきたら、それはcになるとしたり、(c+v)もcになるという式を作ったりしました。前後をうまく辻褄をあわせる天才ですね」と。そうかも知れぬ。しかし天才はアインシュタインではなく、その学生であろう。
 
 中には「友達はすぐ計算したのに、僕はよく分からなかった」と正直に書いてあるのもあった。こういうレポートには
「次のようにすれば分かりやすいよ」とヒントを書いておいた。
『キャビン(真空チャンバー)の長さをと置いて計算してご覧。速度と時間を掛けたのが長さだから、往復の往は
=()×( )、復は =(c+v)×(t’ )となる。
 したがって()×( )=(c+v)×(t’ )である。これを展開してを求めればいい。ただ、とても長っ たらしい式になるので、それらをまとめる意味で( )=、(t’ )=tとおけば、すっきりした図のような v の式になる』と。
 なおチャンバー内の光の平均速度は
 
 
 
 
である事も「計算してご覧」と念を押した。
 
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 村上教授と出会って10年予、私の人生で、これほど充実した日々はなかった。これもひとえに平野さん、節句田さんを始め、大学院の優秀な学生諸君の賜物である。
 その後、村上先生の著書「村上ゼミシリーズ」の原稿の校正をやらせて頂いた。お役に立てたかどうか。私としては恩返しのつもりで精魂込めて読み込みました。
<謝辞>の項に小生の名前が書かれてある。私のような落ちこぼれ人間には身に余る光栄。ありがとうございました。