間宮克彦は父と同様、弁護士である。土曜日、日曜日の区別がない。依頼内容によっては警察と同様に夜、夜中も見張りをして立証しなければならないこともある。<武田美枝子に会いたい>、毎日その思いはつのる一方であったが、忙しさから、なかなか実現できなかった。電話番号とメールアドレスは伸夫から聞いていた。平日はお昼休み12時から1時の間はOKだということも教えてくれていた。
 いま、12時半だ。声だけでも聴きたい!突然、手榴弾が爆発したように頭の中が炸裂して電話機を握った。番号を押す指が震えていた。こんなことは生まれて初めてだ。
「もしもし、美枝子ちゃん」
「あ、はい、武田美枝子です」
「間宮です。突然すみません」
「あ、間宮さん!」
 飛び上がらんばかりの驚きと嬉しさが伝わってきた。
「この間の大磯海岸、楽しかったね、一生の思い出です」
「私も・・・・いろいろありがとうございました・・・・」
 だんだんと涙声に変わっていったのが克彦にはわかった。
「別に用件はないんだけど、美枝子ちゃんの声を聴きたくって」
「あ、あ、ありがとうございます」
 美枝子にとって精一杯の応えだった。
「また電話するけど、いい?」
「もちろんです。いま、ここに由美ちゃんがいます。代わりましょうか」
 やっと落ち着いた声になって言った。
「いやいや、いいです。間宮から電話があったって言っといて」
「はい」
「今、事務所なんだ。今週の土曜日、時間が取れそうだったら会ってくれる?」
「いいですわ」
「じゃあ、また電話する。お昼休みにごめんね」
「とんでもないです」
「じゃあ、また」
「あ、はい」
 なかなか間宮の電話機を下ろす気配がない。スマホではなく事務所の電話機だ。しばらくしてから、プツッという音がした。
 じつは今度の土曜日8月10日から一週間は会社はお盆休みで美枝子は実家に帰る予定にしていた。指定席の切符も買っていたのだ。賞金の10万円を持って帰ることを楽しみにしていた。
 しかし<克彦さんに会いたい>、その一心が<いいですわ>となったのだった。
 
 事務員の長谷恵子は武田美枝子の事を何度も克彦に聞かされて知っていた。すぐそばにいるのでイヤでも話の内容はわかる。
「お坊っちゃま、無理しなくていいよ。今度の土曜日はお坊っちゃまのスケジュールは空けるようにしておくから、大切な人とデートしてらっしゃい」
「え、ほんと?ありがとう。・・・・・でもさァ、“おぼっちゃま” はやめてくんない?克彦さん、克彦どの、克彦ちゃん、克っちゃん、克彦くん、うーん、何がいいかな、やっぱ “克彦さん” だね。おばちゃん」
「 “おばちゃん” じゃなくって、“お姉ちゃん” じゃなかったっけ」
 二人は大笑いをして休憩時間にした。昼休みなしで仕事をしていたからだ。きょうは父親もデスクでパソコンに向かっている。声こそ出さないが、下を向いて笑っていた。
「食事に行ってきまーす」
 二人はデスクの上を少し片付けて出ていった。いつもお昼は外食である。<野菜を多く食べるのよ>と、おばちゃん、いや長谷恵子は克彦の健康を気遣っていた。
 注文したあと、ふと長谷は思い出した。自分たちはお盆休みなどない。仕事の割り振りだけで休暇を取るしかない。今度の土曜日というのは8月10日ではないのか。会社は殆どがお盆休みだろう。
「ねえ、克彦さん、今度の土曜日は8月10日よ。美枝子さん、お盆休みじゃない?もしそうなら実家に帰る予定にしているかもよ」
「あ!そうだ!」
 そう言って急いでスマホを取り出して、伸夫に電話した。
「もしもし、俺、間宮!」
「おお、間宮君、この間は楽しかったね」
「それより、ちょっと教えて!由美ちゃんのお盆休みはいつからだか知ってる?」
「10日から一週間だって言ってたよ」
「やっぱ!しまったー」
「なにが」
「じつはね、今度の土曜日美枝子さんと約束したというか、まだ確定じゃないが、デートをしようって言っちゃったんだよ。そしたらOKの返事だったんだ。ヤバイよ。実家に帰りたいよね、きっと」
「そりゃそうだ。あの賞金を持って1日でも早く帰りたいのは俺でもわかる」
「どうしようかなァ」
「どうしようかじゃない。10日以外にすること!すぐ電話しろよ。10日はどうしても都合がつかないからって」
「由美ちゃんに言ってもらおうかな」
「何言ってるんだ。おまえが言うんだよ!そのとき、絶対に<実家に帰るんじゃないの?>とか言うんじゃないぜ。そういう事言うと必ず<いいえ>だよ。君に会いたい一心でね。だからあくまで君の都合!わかった?お盆休みは一週間とはいえ、17日が土曜日、18日が日曜日。だから19日以降、<平日に夕食でもどう?>って夕食に誘えよ。初デートだろう。すぐ電話しろ。まだ1時前だ」
「わかった。ありがとう」
 すぐ電話を切り、美枝子に電話した。
 
 ことなきを得てホッとした克彦を見て、長谷は<気が付いてよかったー>と、自分の事のように喜んだ。
 美枝子は<すでに切符は買っていた>などとは決して口に出すような女性ではない。<払い戻しすればいい>、<翌日でも、その次でもいい>、そう思っていた矢先の克彦からの電話だったのである。
 
 間宮克彦と武田美枝子の初デートの夕食は青山の有名な高級レストランになった。オーナーは父親の古い友人だというのも聞いていた。
 こうして二人だけの幸せな時間を共有するようになっていった。
 
 美枝子は修学旅行では、日光と東京、それに箱根だったが、箱根では黒い卵を食べた事以外は全然覚えていないと言った。それは<大涌谷だよ>と、芦ノ湖から箱根ロープウェイに乗って案内し、思い出の黒い卵も一緒に食べた。
 箱根スカイラインや芦ノ湖スカイラインもドライブを楽しんだ。途中の三国峠からの富士山の絶景には目を見張っていた。
 富士山を一週しようとドライブしたこともある。1日かけてゆっくりと河口湖、山中湖、本栖湖、精進湖、西湖を回り、富士山五合目まで行った。
 日光では3匹の猿がいたとも言った。美しい紅葉の真っ只中に、その猿を見に行った。見ざる、聞かざる、謂わざる、である。いろは坂では<思い出した!>と喜び、華厳の滝には感激し、半月山からの中禅寺湖と男体山に感嘆し、見るもの、聞くものすべてが楽しい思い出となっていった。
<江ノ島に行きたい>と言っていたのを思い出し、晩秋の鎌倉と江ノ島をゆっくり散策したのも感動の1日だったようだ。
 これらにもまして二人だけで手をつなぎ、あるいは腕を組み、歩いたのが美枝子にとって、また克彦にとって至福の日々であった。
 
 12月が過ぎ、年明けになって間宮弁護士事務所に、ある変化が起きているのを克彦は気が付いた。それは父の帰宅が夜遅くなってきたことと、長谷恵子も残業が多く、体調が悪く疲れやすくなっているのだ。笑い声も少なくなった。昨年の8月までは、そんな事はなかった。
 克彦はハタと気が付いた。<本来ならば僕がやる仕事まで父がやっている!>、<長谷さんも同じだ。仕事の割り振りが出来なくなっている!>、<なぜ、これに気が付かなかったんだ!>
 克彦はほとんど土曜日、あるいは日曜日には武田美枝子とデートを重ねていた。平日でも夕食を一緒にすると言って、早引きすることさえあった。仕事が滞るわけだ。
 克彦は<これではいけない>と悩んだ。一方で武田美枝子には毎日でも会いたい。悩んだ、考えた。
・・・・・<可能かどうか、父と長谷さんに相談してみよう>
 
 次の日、思い切って口を開いた。
「折り入って父さん、長谷さんに相談があるんだけど」
 克彦は真剣な顔で二人を見ながら言った。
「なーに、克彦さん、そんな真剣な顔して」
 普段と変わらない対応をしてくれた。
「武田美枝子さんをここで雇うこと出来ないかなァ」
「え、何を言い出すかと思ったら」
「本気なんだ。できる?」
「考えていたよ」
 ぽつりと父親が言った。
「私も先生と同じよ。以前にそのことを先生と話したことがあるのよ」
 長谷恵子は父 間宮達彦のことをいつも “先生” と呼んでいる。
「出来る?」
「ああ。美枝子さん次第だ。私たちはまだその武田美枝子さんには会ったことはないんだ。もし、今の会社を辞めることが出来るなら、いつでもいいから、ここへ連れて来てくれないか」
<私たち>というのは父と長谷のことである。
「父さん・・・・・」
「お坊っちゃま、泣くことないわよ。先生のおっしゃるように、美枝子さん次第よ」
「克彦」
「はい」
「おまえ、その武田美枝子さんと結婚するつもりか」
「はい、結婚出来なかったら、ぼく、・・・どんなになるか分からない・・・」
 克彦は<脅迫じみた返答した>と反省したが、もう遅い。
「わかった、仕事を続けなさい」
 克彦は本当に嬉しかった。自分が悩む前に、すでに父と長谷さんは相談していたのだ。それを黙って自分の分まで仕事をやっていたのだ。もう胸がいっぱいで涙が出たのは当然だった。
 
 その夜、武田美枝子に電話をした。
「もしもし、間宮です」
「あ、間宮さん!先週は銚子の地球展望台に連れていってくれて有り難うございました。海が丸いのは感激でした」
「よかったー。喜んでもらって・・・・・ところでね、重要な話があるんだ。明日、夕方6時半か7時でもいい。会える?」
「ええ大丈夫です。例の青山の喫茶店なら6時半には行けますが」
「じゃあ、6時半頃、そこで」
 克彦は普段とは言葉少なめで電話を切った。美枝子は克彦のなんだか様子が変わっているし、言葉もよそよそしいのを感じた。<なんだろう>、美枝子は少し不安になったが、とにかく明日、会える!その嬉しさの方が美枝子の心を動かしていた。
 
 武田美枝子は6時20分にはすでに待合いにしている喫茶店に来ていた。会社からの帰りなので普段着のままだ。6時半過ぎに間宮が急いで入ってきた。
「ごめん、待った?」
「いえ、6時半ぴったりじゃないの。克彦さん、いつも時間が正確ね」
「そうかなァ、・・・夕食は?」
「いえまだですけど、今日は寮に帰ってからにするわ。克彦さんは?」
「ぼくもいい。何だか食欲がないんだ」
「それはいけないわ。どこか身体の具合が悪いの?」
「そんな事はない。・・・・・話があるんだ・・・・・」
「なーに?」
「美枝子ちゃん、今の会社辞めて、ウチの弁護士事務所にくることって、できる?」
「・・・・・・・」
 あまりにも突然のことで、美枝子は言葉を失った。
「いや、すぐ返事をしてくれなくてもいいんだ。ぼくの仕事をアシストするだけなんだ。よく考えて返事をくれればいい。
なんなら由美ちゃんや伸夫君に相談してみてくれてもいいよ」
「ありがとうございます・・・・・・・・・」
 美枝子は下をむいて黙っていた。何分間も二人は黙ったままだった。克彦は武田美枝子の頭の中が混乱しているように見えた。しかし本当は混乱しているのではなかった。一つ一つの直面する問題を解いていってたのだ。
 何分経っただろうか。美枝子は顔を上げて静かに口を開いた。
「私に出来るかしら」
「もちろんできるよ。いま居る長谷恵子っていう事務をやってくれている人、美枝子ちゃんと会ったことないけど電話では話したことがあるよね。ぼくと父の二人分の仕事の割り振りをしていて、凄く忙しいんだ。体調を崩しかけているほどなんだ。
だから、長谷さんは父の、そして君がぼくのアシストをしてくれると助かるんだ。もう一つは君の英語力だよ。最近は外国人の相談者も多くて、君なら応対ができるし」
「わかりました。・・・ありがとうございます・・・由美ちゃんに相談してみます」
「ああ、よかった。よく考えて決めてね。お給料の事や、いまの寮を出なければいけない事など、父によく説明しておくから」
「お父様はどういうお考えなの?」
「君さえ承知してくれたら、4人で頑張ろうって。来てくれることを望んでいたよ」
「そうですか。ありがとうございます。ちかぢか私の方から電話いたします」
 こうして、この日は別れた。
 
 帰りの電車の中で武田美枝子は愛する間宮克彦のためにも、この話は受けようと思った。しかし内田伸夫や由美はなんと言うだろうか。
 また<事務所に行くのはやめなさい>という声が心の中で響いた。それは自分が貧農農家の娘で、間宮家のような大富豪の人とは結婚できるはずがない、いずれは別れなければならない、今のままで楽しい人生の思い出だけを持って故郷に帰ればいい、そういうように、いつも美枝子は思っていたことだ。
 
 次の日、内田由美に間宮克彦から、昨日こういう話があったと相談を持ちかけた。由美はいつものすがすがしい笑顔が急変し、厳しい顔になり、
「あなた次第よ。私なら行く」
 という強い言い方の応えだった。あまりにも速い返答だったので、美枝子は<これでは相談になってない>と、とまどった。
「いろんな問題があると思うんだけど」
「どんな問題があるっていうの?」
「・・・・・・」
「とにかく、美枝子次第ね。会社辞めるんだったら、早めに課長に言っておく事よ。明日辞めるなんて出来ないから。いま言っておくと3月31日付けになると思うよ」
 由美の言い方には一つ一つにトゲがあった。仲良しだった二人の糸がプツンと切れたような思いさえした。
 しかし、退職の件は良い助言だった。その通りである。会社には早めに退職願いを提出しておくべきである。
 美枝子は、後ろ髪を引かれる思いであったが、もうこれ以上話はしなかった。
・・・・・そして間宮弁護士事務所に行くことを決心した。
 
 会社には休暇届けを出して、二日後朝、事務所に直接電話をした。克彦が出た。声でわかる。
「武田です。会社を辞めることにしました。きょう、そちらに行きますが、何時頃がよろしいでしょうか」
 と、丁寧に都合を聞いた。お昼12時頃、話をして、そのあと一緒に食事をしようと喜んでくれた。
 
 渋谷の、いわゆる雑居ビルの一つであるが、5階に大きな『間宮弁護士事務所』という看板が見えた。ビルも建築法に基づいて建て直したものか、立派なものだった。
 5階まで行き、ベルを押した。美枝子は落ち着いていた。心安らかな思いで待った。ドアを開けて出てきたのは長谷恵子であることはすぐ分かった。
「あら、武田美枝子さんね。お待ちしてました。どうぞお入りになって」
 大きな部屋が二つある。一つが仕事場、つまり事務室で、もう一つが依頼者と話をする応接室であることはすぐ分かった。美枝子は仕事場の方に案内された。父親である間宮達彦もすぐ分かった。
「はじめまして、武田美枝子です。いつも克彦さんにはお世話になっております」
 丁寧に父親の方と長谷の方に頭をさげて挨拶をした。
「いやー、克彦の方こそ、あなたに会うことをいつも自慢していますよ。間宮達彦です。克彦から聞いてたかな」
 間宮達彦はニコニコしながら言った。
「ま、そこに掛けてください」
 美枝子は自分が仕事をするデスクかと思うほど、きれいになっている机の椅子にすわった。事実、あとで分かった事だが、これが自分のデスクだった。
「長谷恵子です。何度か電話ではお話したわね。克彦さんがいつもあなたのことを話しますので、初めてお会いしたようには思えないですわ」
 と、お茶を持ってきて挨拶をした。
「あ、どうぞお構いなく」
「さて、お話しましょう。ここで働いてくれるんですね」
 さすがに弁護士だ。美枝子は何か尋問されているような気持ちになり、ようやく緊張し始めた。
「はい、宜しくお願いいたします」
 ミニスカートとまではいかないが、若い子らしい短めのスカートに肌色のストッキングを履いていたが、両手をその膝の上に置き、丁寧に頭を下げながら言った。
「克彦から聞いていたのですが、英語が達者ということですね、私と少し英語で話してみませんか」
「はい、しかし会話程度で、法律の専門用語は分からないと思います。今後勉強いたします」
 入社試験の面接のようだった。ますます緊張が高まった。
「よろしい、よろしい」
 英語での会話が始まった。出身地はどこか、どこの大学だったのか、学部は何だったのか、今の会社ではどういう仕事をしているのか、趣味はなにか、車の免許は持っているのか、など一般的なことだったのでスムーズに答えることが出来た。注意深くヒアリングしていると、アメリカに留学されていたのではないかと思われる発音だった。美枝子は英文科だったが、教授は英国の人だったため純粋なイギリス英語である。そばで聞いていた克彦もニコニコしながら<ウンウン>とうなずいていたが、たぶん発音の違いに気が付いたのだろう。
 やっと英語での “面接” が終わって、給料の話になった。
「克彦が友人から聞いたと言っていましたが、あなたの現在のお給料は大体把握しています。その2倍の支払いでよろしいかな」
「光栄でございます。ありがとうございます」
 美枝子はびっくりした。会社では仕事量とその質イコール給料額と思っていたので、これはたいへんな仕事をしなければいけないと内心ビクついた。
 次の話になったのが、会社の寮を出なければならないことだった。
「会社の寮を出ないといけないことから、あなたの住んでもらうマンションを用意しました。いま流行りの高層マンションではありませんが、青山の比較的閑静な場所に6階建ての立派なマンションがあります。その5階をあなたに差し上げます。差し上げると言っても、名義は克彦になっています」
「お家賃は高いんでしょうね」
 と、美枝子は心配そうに尋ねた。場合によっては小さなアパートでいい。自分で探すという気持ちがあったからだ。
「いやいや、あなたに差し上げますから、家賃はないです。どうぞ使ってください。ただ管理費というのがありますね。克彦、いくらだったかな」
「月2万円です」
「ああ、その2万円や光熱費などは、あなたが払っていただければよろしい」
「月2万円は高いようだけど、そうでもないんだ。毎日各階の廊下を掃除してくれたり、セキュリティ万全の個人ロッカー、郵便物などだよね、を管理してくれるし、年に何度かエレベーターのメンテもするし、そういった費用だよ」
と、克彦が説明した。
 美枝子は夢をみているようだった。夢なら覚めて欲しい。お給料といい、高級なマンションといい、すでに自分のために用意されている!喉がぎゅーっと締まって声が出なくなってしまった。意識を失ったかのように茫然とした。
「よかったわね、美枝子さん。いつか故郷のご両親やお兄様を東京見物を兼ねてお呼びするといいわね」
 長谷恵子が優しく美枝子の膝の上の両手をとんとんと叩きながら言った。
 これらはすべて父親、いや母親にも相談したと思われるが、先日、父親が克彦に<美枝子さんと結婚するつもりか>と尋ねた。克彦は<はい>ときっぱりと返事をした。その事から将来は結婚して当座二人だけで住むところを用意したのだった。名義も克彦になっているのは、そのためだ。
 こうして4月1日から武田美枝子は間宮弁護士事務所に勤めることとなった。