懐かしの思い出話集


第2話  ワイルド・ボーイ




 暴れん坊)と聞いたら、みんなは何を思い浮かべるだろうか?
徳川の将軍様、松平建?のび太君をいつもいじめる、心の友ジャイアン?逆立ちしてひらめきまくる、あばれはっちゃく?
インドからやってきた狂気の虎、タイガージェット・シン?政界の暴れん坊、千葉の英雄ハマコー?
 俺の頭には、たった一人しか思い浮かばない。そいつは、小学生にして、大人社会に背を向け、たった一人きりで(何か)と戦い続けた男。
そして、そいつは俺の人生の道を切り開いてくれた男。今日は、そいつ(ワイルド・ボーイ)の話を是非聞いてほしい。
(う〜ん。石田衣良風で、なかなかいい出だしだ。カッチョいいぞ〜。)



 (なおと)のはしゃぐ声が聞こえる。またテレビゲームで遊んでいるのだろう。(なおと)とは、俺の子供、小学校3年生。
とても陽気なお調子者で、親に似て、とってもいい男だ。そう、その通り。俺は、親バカだ。それが何か?
 好きなお笑いタレントは?と聞くと、(ナイツ)と答えるナイスな子供だ。(ヤホーかよっ)
話は反れたが、話はウン十年前、俺たちがまだあどけない、小学校3年生だった頃にさかのぼる。

 その頃の俺といえば、怖いものは(相生町グループ)の存在だった。Nッカや、Tくんや、Mちゃんなど、なぜだかミョーに団結力があって怖かった。そう、(大奥)で高島さんがみんなを引き連れて歩いてる感じ。
だから何が怖いのっ?て聞かないでほしい。だって、その理由に中身はないんだから。
 
 小学校3年といえば、みんながみんな純粋だった。お勉強もよく出来ました。運動もよく出来ました。元気に挨拶も出来ました。
それなのに、隣の教室から響いた悲鳴は、すべての色を奪い去っていったんだ。



 (誰か暴れているらしいぞ・・・)あちこちで飛び交う声を聞き、おそるおそる隣の教室に近づいていった。
(どうせ、相生町グループだろう・・・)そう思っていたのは俺だけに違いない。
扉を開けて覗いた瞬間、そこに待っていたのは、思いもよらぬ光景だった。
 教室中の机と椅子が教室の後方にすべて追いやられ、だれか近寄ろうとすると椅子を振り上げ威嚇する。
「Oh〜WILD BOY 」
思わず声が出た。そして俺はそのまま意識を失っていったんだ。うっすらと彼の残像をまぶたの奥に残しながら。

 それから数日後だった。彼が違う教室に隔離されたと聞いたのは・・・・。それが彼との始めての出会い。


 クラス替えって、みんなは好きだったかい?俺は好きだった。何故かって?もちろん(相生町グループ)と離れられるから。(もう、いいよっ。しつこい。)
初めて4年生の教室に入ったときの気持ちは今でも忘れない。青い空のど真ん中、白い雲のソファーの上で(※1)リープフラウミルヒ(聖母の乳)を味わった気分。
(※1 ドイツの甘口白ワイン、マドンナが有名。覚えたからこの言葉を使いたかっただけである。もちろん中身はないし、意味もない。)
だけど、後ろの席を見た瞬間、また俺は意識と無意識の間を彷徨うことになる。あの時の残像とダブらせながら・・・。そん時の気持ち、みんなには判って貰えるかなぁ〜。



 クラス替えって、みんなは好きだったかい?そう、俺は嫌いになった。何故かって?もちろん苗字で席順が決まっちゃうから。
俺がHで、あいつもH。こんな皮肉な話があるなんて信じられるかい?
 だから俺は、オシッコをもらしちゃったんだ。

 その日から、あいつと俺の人生は始まったんだ。きっと、何かでっかいものに引付けられるように・・・・。

  つづく

        
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