懐かしの思い出話集
第1話 恐怖の赤橋
その日はとても穏やかで、うってつけの釣り日和。いつもの仲良し小学生グループは、5時限目終了のチャイムが鳴り終わると、元気いっぱい走り出した。
その日も、米沢市某所の公園は人もまばらで、小学生たちは、まるでわが庭のように走り回っていた。
かくれんぼをやり、ひとしきり終え、ジュースを飲み終えると、一人の少年が切り出した。
『 釣りすっか 』
もちろん反対する者など一人もいない。
『 んじゃ、一回帰って道具とって赤橋集合な。 』
赤橋とは、ここの公園内にある、少年たちの大好きな場所、そして、釣りの最高のポイントだ。
『 おっしゃー 』
少年たちは、少し甲高い、声変わりもしていないかわいい声で掛け声を上げると、一目散に家へと向かった。
ひとり、またひとりと少年たちが集まりだし、いっせいに釣りを始めた。そこには、先ほど居なかった少年たちの姿もちらほら見えた。しかし、天気とは裏腹につれる気配はまったくといっていいほど無い。(って言うかもともとそんな釣れねぇ〜し。)
しかし、少年たちの顔から笑顔が消えることは無かった。その時までは・・
少年の一人は、見ていてわかるように飽きが来ていた。隣の少年にちょっかいを出し始める。それに集うように、一人又一人と釣りに飽きた少年が増え、今度は三人がかりでちょっかいを出し始める有り様。そしてとうとう三人の少年はそれにも飽き、行方をくらました。
平穏な時が戻り、ほかの少年たちはまた釣りを楽しんだ。しかし、なかなか当たりがこない。
(だからここじゃ、そんなに釣れねぇ〜し。)
静かに、また時は流れていく。
『 ジャボ〜ン 』
その音は、公園の静寂の中に、一際とどろいた。
『 マサ〜 』
一人の少年を呼び叫ぶ声が乱れ飛んだ。
少年が指差す方向を見渡すと、そこには、記憶のどこかに残像として残る、ある場面を連想させた。そして、思わず言葉が口をついて出ていた。
『 八つ墓村だ!!・・・ 』
池の中に落ちた少年の姿は、(まさ)にそれだった。ちなみに、(まさ)と(マサ〜)を掛けた訳ではない。
少年たちは、ひ弱な腕で、互いに支えあいながら、何とか少年(マサ〜)を、池の中から救出することに成功した。
水を飲んでるかもしれない。と誰かが言い出し、少年の一人が、溺れたマサ〜の肋骨のやや下辺りをマッサージし始めると、口から小さな噴水のように水が噴出した。そして、マサ〜は息を吹き返した。
『 おさっちゃ・・・ 』
目覚めたまさ〜、失礼、マサ〜の第一声を聞いた少年たちは、互いに顔を見合わせ、一同に驚愕した。
『 あっ・・・ 』
少年の一人が声を失った。
その目線の先には、先ほどの三人組がいつの間にか存在していた。
『 お前たちがやったのか? 』
問い詰める。
『 俺たちじゃないよ 』
三人。
しばらく押し問答は繰り返され、沈黙が続くと一人が重い口を開いた。
『 それじゃ、どうして落っこったのか確かめてみよう 』
マサ〜がどこに立っていたのか分かるか? いや分からない。
少年たちの言葉が飛び交った。
『 おれがやる 』
少年の一人が言った。
おれがやる? やっぱりお前が押したのか? みんなが理解に苦しんでいると、もう一人の少年も口を開いた。
『 いや 俺がやる 』
すると、マサ〜が負けずと言った。
『 いや おれがやる 』
すると、先ほどの二人が言った。
『 どうぞ、どうぞ 』
これがダチョウ倶楽部の結成秘話だ。こうしてダチョウ倶楽部は誕生した。
そして、再度、マサ〜はお堀の中に消え、最後に言った。
『 耳の奥・・・・・ チャポチャポする・・・・・ 』
時は流れ、2008年8月のこと
同窓会会場となった焼肉屋にはひとしきりの静寂が流れていた。
どれほど時が流れたことだろう。ほんの何十秒だったのかもしれない。階段を上るその音は、確かにみんなの耳に届けられた。
『 チャポ〜ン チャッポ〜ン 』
振り返らずとも、みんなには、それが何か分かっていた。
『 マサ〜 』
終
※この話は(仮称 遠藤正海)さんの体験談を基に構成したものです。