「賑やかですねえ」
「ブル」
見渡す限り人の群れ。遠くには大きな観覧車。はて、ここはどこだろうか。
「とにかく今はポケモンセンターです」
♪〜♪
「はい、もう大丈夫ですよ」
「プック!」
ジョーイさんの言葉に反応したように、ピンプクがまた勝手にボールから飛び出してきた。どうやら外の世界を気に入ったらしい。
「プップゥ」
まるで、ほめて! と言うようにピンプクは胸をはる。それは呆気なくブースターにいなされていた。
「元気そうですね」
「ええ」
ありがとうございます、と礼を言って、レギはポケモンセンターを出た。
(それにしても人の多い町ですね)
ぼんやり思いながらイッシュの地図を広げた。
「確かここはライモンシティだとか」
ジョーイさんがそう言っていたので、間違いはない。
地図がブースターたちにも見えるようにしゃがみこむ。
どうやら、というか、やはり。道を間違えいたらしい。地図を確認して、レギはうなだれた。
「やってしまいました」
しかしずっとこうしている時間はない。
周囲を見渡して、道行く人に声をかけた。
「あの、カノコタウンへはどういけばよろしいでしょうか」
「ああ、それならギアステーションに行くと良いですよ。それにしても珍しいポケモンを持ってますねぇ。カントーのポケモンに、色違いのヒヤップだなんて」
それじゃ、と彼は言うだけ言ってどこかへ行ってしまった。
「は?」
一人残されたレギは、おもむろに足元を見た。そこにはブースター、ピンプクに並んで、ヒウンシティで助けたあの笑顔の青緑のポケモンがいた。
「何故」
「ヤップ!」
どうもヒヤップというらしいこのポケモンは、あのあとレギたちをつけてきたらしい……。というのがレギの出した結論だった。
「お引き取り下さい。僕は君を連れて行くことができません」
レギの無情な言葉に、ヒヤップはショックを受けたようにうつむいた。ピンプクが不思議そうに両者を見比べる。元気だしなよ、とブースターがヒヤップを慰めている。
やがて、ヒヤップが何かを決意したように顔を上げた。
「ヤプ、ヤプヤプ!」
「僕たちと一緒に来たいんですか?」
面倒臭そうに、レギは聞いた。
「ヤップゥ!」
もちろん、といいたげにヒヤップは片手を上げた。
「そうですか……」
けだるげにため息をついて、レギはピンプクを指差した。
「なら、ピンプクに勝ってください。この子に勝てないようでは、連れて行くことはできません」
「ヤップ!」
「いいですかピンプク。私は指示を出しませんから、自分で考えて行動するんですよ」
「プック」
「いいお返事です。さあ、いってらっしゃい」
ピンプクがヒヤップのほうに向き直る。その立ち姿は勇ましい。
ピンプクとヒヤップの間にヒュウ、と風が吹いた。両者がにらみ合う。
先に行っておこう。ここはライモンの片隅にある公園である。
先に仕掛けたのはヒヤップで、とがらせた爪をピンプクに向かって振り回した。2かいあたった。
それに対してピンプクはどこからから出したプレゼント箱をヒヤップに投げつけた。
(今のはみだれひっかきですか)
プレゼント箱を噴出させた水で弾く。
(おや、水タイプでしたか)
ピンプクのゆびをふる!
ピンプクの口から、火炎が吐き出される。それは周囲の水に触れて、途中で掻き消える。
(あれはみずあそびですね)
一人合点し、レギは静かに試合を見守る。
二匹がにらみ合う。ふたたびヒヤップのほうが仕掛けた。どうやら素早さが高いらしい。
ヒヤップがピンプクにかみついた。
「プクー!」
ピンプクが悲鳴を上げ、ゆびをふる。
ピンプクの足下から、濁った水が現れた。ヒヤップはとっさに離脱して、強力な熱湯を発射した。
それは少しの間競り合っていたが、やがてだくりゅうに押し切られ、ヒヤップはにごった水に飲み込まれた。
水が去った後には、ぼろぼろの状態のヒヤップが立っていた。
「やめ。もういいです」
レギの言葉に、二匹が弾かれたようにレギの方を向いた。
「ヒヤップ、でしたっけ。残念ながら、あなたを連れて行くことはできません」
レギの発した最後通牒に、ヒヤップはうなだれて、がっくりと膝をついた。