視界がぼんやりとする。
気持ち悪い。吐き気がする。
誰かが私のことを呼んでいる。
――誰だろう?
「よし、丁重に扱えよ。こいつは影家の娘だからな」
――こいつって、誰だろう。
場面が変わる。
なんだか胸がぞわぞわする。
視界はひたすらに紅い。たくさんの血。
――なんだ、血か。"これくらい見慣れているじゃないか。"
ふと、思う。私はどこで血を見慣れたって言うんだろう。
血池の中に立ち尽くす少女がいる。こいつは誰だろう。両手は真っ赤で、きっともう"普通"には戻れないと直感した。はて、"普通"ってなんだろう。
少女の背後から、彼女と同い年ぐらいの少年が姿を現した。何もないところから、唐突に。
「随分とひどい有り様だな」
「"やかましや"、わたし……」
「言い訳はもう出来ないぜ。お前は行くところまで行った、やるところまでやった。逃げられねえよ」
少年はぼさぼさの黒髪をかきあげながら言った。
「なあ、お前幸せか? "■■■"」
少年の声はうまく聞き取れない。彼が私に問いかけているようでどきりとする。
"■■■"って誰だ。いや、そんなことよりも。
黒髪をかきあげた"やかましや"にやたらと既視感を感じたのは気のせいか。あれは誰だ。
あれは――角ではなかったか?